第164界(階) 異世界で初めての友達
その後リヴァンはたまに現れては僕に魔王としての心構えをドヤ顔で語っていた。それは当然の如く全て軽く聞き流しておいた。
僕はこの状況を俯瞰してせっかくならと魔王らしく最高の嫌がらせを人々に施そうと思った。
そしてリヴァンから渡された魔王大全を読みながら僕は考えた。人々への嫌がらせか。僕はクラスの女子に負けるのが大嫌いだった。
「良し!」
僕は男尊女卑の世の中を破壊してやろうと思った。
それには女子の勇者を育てる必要があった。
弱そうな女子に強い男が一捻りされる世の中は最高だ。やる事は単純、僕が強くなれば良い。そして教える。何処までいけるか分からないけれど、今の僕には魔法がある。
そしてもう一つ嫌がらせの最高峰といえば
笑顔を潰す事だ。
そう悪人の野望を打ち砕き笑顔を叩き壊す事だ。魔王らしく追い詰めて追い詰めて笑顔と命を踏み躙る。
善人は魔王には平伏するだろう、だから生かす。
行動指針が固まった所で僕はこの場所を拠点に行動に移す事にした。僕が出掛ける事をルテミスさんに話すと、この魔界には名所が沢山あるとの事だった。
そういえばこの世界の最大領域が分からない。思考しながら僕は近場の探索を開始した。その途中で一つの洞窟に目が止まった。
「へぇ、ダンジョンか!」
腕試しには丁度良いと思い、僕はそのダンジョンに潜った。
「あれはワイト?」
人骨の魔物が激しく怯えている。そう見えるぐらいには激しく歯と歯を打ち鳴らしていた。
怯えるワイトを威嚇する巨大なネズミの様な魔物に僕は電撃を浴びせた。
勿論無詠唱だ。けれど無詠唱魔法は即効魔法としての意味合いが強い為なのか現段階では詠唱魔法よりも威力が制限されていた。
僕は死体になった黒焦げになったネズミを蹴り上げて退かして怯えるワイトの前に立った。
するとワイトは安心したのかうさぎが跳ねる様に飛び跳ねて喜んでいた。するとどうだろう、彼は僕の無詠唱の魔法の真似をしだした。けれど魔法が放たれる事はありえるはずもなかった。けれどワイトに魔力が微かに宿っている事を僕は感じた。
僕はいずれ女勇者に魔法を教える立場になる。だからその練習として彼に魔法を教えていた。
面白い事に彼は相槌する様に歯を鳴らす。言葉は通じないけれど。ワイトが親身に聞いてくれている様子に僕は確かな手応えを感じていた。
それから3日たった。僕は毎日この洞窟に通ってワイトに魔法を教え続けた。
想像よりも上達が早いワイト。彼は遂に魔法を放ったのだ。歯と歯をリズミカルに打ち鳴らし楽譜がさっぱり読めない僕でもリズムが合ってる気がする程度にはハマっていた。多分ワイトは僕より音楽のセンスがある。
そこにリヴァンが現れた。
「ミラース!君の才能は本物だ!!君にはこの魔界を治める力を秘めている」
僕はそのまま押し黙った。彼は何故について来たのだろうか、勝手に。
そして僕は彼の次の言葉を聞いて呆れ果てる。
「魔王は数多の魔物を従え統率するカリスマ性が必須だ。残念ながら才に溢れ過ぎて神々から妬まれたこの大魔王の中の大魔王リヴァンにはカリスマ性が取り除かれている」
もともとねぇーよ!と心の中でツッコミを入れたのは言うまでもない。