第159階 無詠唱魔法に出会う
「王女様、君は一体。それにあの魔法 !
私達は王都プエルタ・デル・ソルの外れを歩いていた。
「私は私。魔法には自信があるわ
道には誰もいない、けれど誰も通らないという意味ではなかった。
ーー防音皮膜・A
見えない、触れられない、通さないと三拍子揃った優れモノ。今回は音の遮断が主目的だから防音の要素を多く含む。
「神域を超えている!古代言語魔法に心得のあるボクでさえ届かない!
この時代も超えているのね、貴方の魔法は。
古代言語魔法の詠唱完成形は四文字。
文字にそれぞれ意味があって相乗された組み合わせで強力な魔法を放つ。
・例えば“火炎放射”
文字通りの意味である。
古代言語魔法の凄い所は実状しない組み合わせでも構わない。
例えば私がさっき使用した防音皮膜。
基本的には2文字+2文字が良く使われる。文字の正しい意味を知る必要性があるので使用者は限られる。
更に文字に宿せる魔法の意が大味な為に繊細な魔法を使おうとしたら更に組み合わせる必要性もあるため近年は忘却の彼方に置き去りにされているらしい。
「超えたいのかしら。神域を
私は意地悪する様に笑みを向けて
からかって楽しんでいた。
「これでも同格なんだ、信じられないだろうけど
成る程ね、クンシランが只者でない事は分かる。通常の人では“人工知能”の様な人工知能の高みの果ての一つである龍種に出会う事は出来ない事からも。
「本当に貴方がなのかしらね
私は知っていた。彼もまた転生者。それも人ならざるものの。
「御見通しか、クンシラン=ムーンは人の領域にいる
古代言語魔法は人工知能に与えられた、人々を幸せにする魔法。それが使えるのは人工知能か特別な才を持つ者。
「どう、人の気分は
私の問いにクンシランは笑い出した。
冗談だよと添えて。
「どっちの冗談かしらね
私は囲まれていた。
「王都の外れを女の子1人で出歩くもんじゃないって事、初めて会った男とね
周囲の気温が上がっていく。
試すには丁度いい、不能魔法を。
そう思って、こうなると知っていて
私はここを選んでいた。
クンシランを除いて相手は3人
内1人は女性。
放たれる火の玉。
「俺達は無詠唱だ!!
荒れ狂う水流。
「たっぷり味わいなさい!!
「クンシラン、1人は護衛ね。
けれど少な過ぎるわ
私は自身の左右の腕に
魔力否定を付与して
火の玉と水流を手刀で切り裂いた。
「おい!
「うそ...
私の後方で火の玉と水流は2つに切り裂かれて制御を失いぶつかって蒸発していった。
「クン!試せって念話していたけど俺の最強魔法真っ二つじゃねえか!!
最強...。
「私も同感!奥の手あるけど!
「ねぇよ!
「はい!!!?
火の玉使いの男性と水流使いの女性は
討論を始めていた。
「開花させたな、ラズの魔法
全く俺を驚かせてくれる
「護衛はハバネロ様ですか
フードを外す兄ハバネロ。
「クンシランは友だ。そして師であり父であり世界を救う。人と竜の共生の道を俺は切り開く
「「お、王族の兄妹!!!
先程討論していた2人が驚いている。
「知っているかラズ、無詠唱魔法の使い手達はどんどん世界から追われている
「使用出来る者とそうでない者が在るから、そして詠唱魔法の使い手達が自分達の有利な様に世界をつくっていっているからでしょう
兄ハバネロもクンシランも驚く表情を隠せなかった。
「ラズ、正解だ。俺が独自に調査した結果と一致する。真・詠唱魔法の発展の陰で人は差別の病を発症させた様だ、人と竜、使える者と使えない者。彼等を隔てるのは無知だ
兄ハバネロは強い瞳をしていた。
そして更に言葉を進める。
「俺は真に世界を統治する。だからこそ与える、人々に理解を。それが王に成る者の責務だ
「...その為にスコヴィルを倒す
重く鈍くそして消え入りそうな声で
クンシランの決意が場を支配していた。たった一言で。
「王位継承だけではスコヴィルの権力は全く削がれない、それでは意味がない
骨肉の争いか、私は見極めるべきか。
どちらがより良い未来を担えるのか。
「ラズの実力は本物だ、俺達の仲間にしたい。考えてくれ、返事はいつでも構わない
無邪気に微笑む兄ハバネロ。
ーー夢幕
私はクンシランと王都の外れを2人で歩き始めた所から兄ハバネロに誘われるまでを“夢だった”で処理して自室で寝ていた。
不能魔法は通用し、兄ハバネロ=サンとクンシラン=ムーンは繋がっている。国家転覆を狙って。その事実は変えられない。
私は誰にも属さない、それが一番面白く楽しいのかもね。