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魔皇の魔法とハツミリア  作者: 道草 遊者
神界攻略編
16/262

第15階 四武王の一柱"ルー"

非常に残酷な描写あり。

 眼前に広がる、哀しみと悲痛の漂う光景。

耐え切れる筈無い様な夥しい物量による強大な力で捻じ曲げられ、その上から様法を叩きつけられて燃え広がり、蹂躙され、破壊された、一級建築の数々。


「酷い有り様ね」


 大人のエルフ、吸血鬼、魔獣、ゾンビ、死霊、この街を彩ったあらゆる種族が、大きな街道の至る所に無造作に積まれていた。

死体は全て腕も足も頭も潰れていた。

 相手が相手だから、死霊を叩き潰すなんてのは造作もない事。


 私は廃墟と化している、かのメイユールの支配している世界を1人で歩いていた。

風になって。


この先から、ラブラビアの微かな魔力を感じるから間違いない。


 あのクウウと呼ばれていた、美形のエルフ。

仲間も一緒に住んでいた御様子で。


 幼いエルフ達は、生き物だという原形を、留めてはいなかった。

土に付着した血の量や、砕けた骨の残骸の少なさから、幼いと分かる。

 涙を流した痕跡が小さく地面に付着していた。

一言で言うなら、蹂躙の爪痕そのもの。


私は微かな魔力を辿り、さらに歩を進める。


「なんでミリカンテアを襲うとかいう

バカな真似したかな、ラブラビア!」


 ラブラビアは身体を潰され、頭部に無数の武具が突き刺さっていた。

もし、魔力が完全に満ちている状態なら、殺戮者達に対抗出来たかもしれなかった。


 ラブラビアを含めて、6人の首っ丈の仲間がいると話していたのが懐かしく通り過ぎる、メイユールの笑顔と共に。


 他の仲間もラブラビアと同様の仕打ちを受けていた。


 "歓迎"と床に書いてあるのが見える。

文字は赤く、女性エルフが使われていた。

すぐ近く、無造作に積まれた死体の身体の欠け方から分かってしまった。


 歓迎と書かれた場所から、ラブラビア達の6つの首が丁度良く見える。

彼等の頭部は長い木の棒に突き刺さっていた。

 きっとあれはエルフ達が大事に育てた木を無造作に加工して作った槍だった。


(「もう少しメイユールに働いて貰おうと思っていたのにね。」)


ーー堕宇宙

 メイユールお得意の"フォールンコズミック"を模した集然を放つ。

似ているだけで、何もかもが違うけど。


 私はこの地より離れる、うじゃうじゃと蠢く優族に向かって。

無慈悲に、全てを奪える威力に、高めた上で。



「なんだこれは!!?」

「メイユールの報復が早過ぎる!!」

「宇宙が無数に降ってくる!!!」


上方より突如現れた無数の黒い異質な物体。

きっと彼等が知っている物よりも鈍くおどろおどろしていて速くおぞましいはず。


「全軍退避ー!!!」

「ルー様!ご武運を!!!

ぎやーーーーー!!!」


「うぎゃーーー!!!」

「ぎゃーーー!!!」

「ぐえーーーーー!!!」


 勝利の凱旋の気持ちで、帰路に着いていた、優族は壊滅的打撃を受け崩壊していた。

ワープ(次元間移動)を使える彼等でも、重なった宇宙を幾つも超える事は、不可能な事だと私は知っている。

 神々の得意とする様法の、使用可能境界線を知っている私にとっては、神々の許容範囲を超えて破壊する事など、最早欠伸をするぐらいに造作も無い、そして事実眠い。


 私の技に蹂躙され、引き裂かれた、優族の一団を見下ろしながら、死ぬ刹那の彼等に"不死+転移"の星魔法を行使していた。

私の魔法の為に。


 そして、先頭で生きているたった1柱の前に降り立つ。


「どうでした、ルーさん?

メイユールの復讐と恨みと絶望の味は?」


 私は山よりも大きい巨大な漢神の前に立っていた。

黄金の鎧に立派な髭と、顔に付けられた無数の傷が、暦戦の強者としての貫禄を放っていた。


「おのれ、メイユール!おのれ小娘!!!」


 その顔には悔しさと怒気が溢れていた。

ルーは一瞬で構え、全速力で世を駆けた。


私目掛けて。


「まずはお前から始末してやろう!!!

戦地に赴く小娘がどうなるのか。その身の程を知り尊厳も全て失い気付くだろう!!!」


 私は溜息をついた。

あまりにも汚ない言葉と声に。


 私の溜息に更に速さと怒気が増した、それは圧力として私に襲い掛かる。


 (「だから、戦争なんて嫌い。」)


私は緑色の剣を構える。


「ガハハハハハ!!!愚か!!!全身ぶちまけて生まれた事を後悔するがいい!!!」


力に速度を乗せて、振り下ろされる槌。


ーー円弾

 難なく剣で弾き返し、その勢いでルーは後方に大きく尻餅をついて倒れ込む。


「なぜ...届かぬ?......」


ーー光変化

ーー斬回斬


 切り裂かれたルーの左肩が、勢いよく弾け飛ぶ。


(「良い切れ味ね、愚剣ユグドラシル。」)


「(後は任せてくれハツミ...。)」


「(いいわ、何か思うところがあるのね。

貸してあげるわ、私の力)」


「(あぁ...。)」


 宗茂 斗羅こと、魔皇ミラース・ラーバ・ラーサは静かに怒っていた。

そして仮面を付け、黒のローブを纏う。


「この空気!それに黒のローブの下の薄っすらとした仮面...てめぇは魔皇か!やはり勇者キレは討ち取っていなかったんだな!あの野郎ぶっ殺してやる!!」


「(お前がキレを殺すだと...それは不可能だな!)」


 魔皇は直接、声の一部をルーに叩き込み始める。


「おい!貴様!!!俺の神力をどうする気だ!?」


 愚剣ユグドラシルは切断された左腕を喰らい尽くした。


「(この剣の力となり神々を砕く鉄槌となるだろう。

 我が忠実なる家臣にして家族、ドゲートに手を出そうとした報い。

それに...僕の最初の友...メイユールの悲しみを悲痛を死をもって償え!!!)」


「グヌ...!」


ルーはあっさりと押し負け、苦悩と悲痛を滲ませていた。


 今の私の身体は1000000個の宇宙よりも遥かに重いから、押し負ける筈もない。

それに容赦はしたくない。


 魔皇が目覚めた事によって、私の集然の精度の段階が遥かに上がっていた。

更に基礎的に強く速く鋭く、より少ない力で遥かに大きな力を行使出来ている。


 さしずめ自然を集める"集然"に対して、"世束"といえるわ。


「グヴァ!!おのれ...」


 ルーは息も絶え絶えで今にも死にそう。

神体に宿る神力は無惨にも、徐々に徐々に削られていっている。


「弱過ぎて、お話にならない」


 私が不意に出した言葉に、ルーの目は点になり、纏う空気を変化させたのがはっきりと分かった。

 だけど、私には目の前の神が怒ろうが、喚こうが、泣き叫ぼうが、別にどうでもいい。


 エルフの幼子達は、それ以上に苦しみながら、恐怖しながら、死んでいったのだから。


 手は一切緩めるつもりも無いし、逃す気も無い、追い詰めて追い詰めて追い詰めて滅ぼすだけ。


「はぁ...はぁ..スウよ。てめぇならこの状況どうする...。」


 ルーは、一歩一歩、力無く歩み寄ってくる。

魔皇による、愚剣ユグドラシルによる剣撃の嵐の中を。


「スウ?、そいつ滅すわね。」


 私は、ただただ無感情で言い放った。


「ガハハハハハハ!!!滅ぼせるものか!!

スウ程の神を神々の王たる戦いの天才を!!

若き強者を!!

気立ても良く、神々の世の全てから愛をその身に受ける真の神よ。

神々の世界の為に己の全てを砕いておる。

ゴハァ...スウが存在する限り、神々は負けぬ!!!」


 絶対的な"信頼"。

それに対して、私は1つだけ言葉を添えて上げた。


 「それでは貴方の目の前で、神スウを滅し、現実という理不尽で突き刺して差し上げよう」


 魔皇は私に任せてくれていた。


ーー漆黒

 私の中に不倶戴天の妖分が流れ込む。


 憎悪、殺意、嫌悪、恨み辛みに代表される負のエネルギーの結晶。

 簡単に説明するなら、血に飢え呪われた狂戦士の状態へと移行する妖刀の様なもの。


 凶悪さと凶暴さを一心に受けて、心が焼け焦げる。


 その漆黒に、渡す前に複写していた4つの宝石の力が混ざり合う。

溢れる狂気の魔が研ぎ澄まされて、私の右手に馴染んでいく。


「なんだ、その禍々しいまでの力は...ぐっ!!!」


 ルーは背を向けた。敵である私に向かって。

高次元の神体を持ってしても、悔しさに打ち震えながら撤退を選択しているという現実。


(「もう詰んでいるのよ」)


 私は一歩踏み出した。


 愚剣ユグドラシルを左手に持ちながら。

緑色に鈍く光この剣は、ルー以外のこの場にいた戦士達の、神から承っただろう力を吸収し尽くしていた。


副次効果として、同じ時間軸に、異なる世界で、同時に"愚剣ユグドラシル"を展開できるのだから。


 メイユールに襲わせてまで、ミリカンテアに行使しようとした魔術的な術式は、世界を犠牲に"1つの強大な力"を生み出す大型魔法陣だと私は推測している。


ーー闇変化

ーー斬回斬


 同じ類の意味を成す、この剣で私はルーの首元を撫でた。

驚かす為に、切り裂かずに切先で撫でた。


 驚愕の表情のルー。

首筋の神体が少し削られていた、他の誰でもない私によって。

 逃走に全霊を捧げ続ける今の状況を持ってしても、首に傷が付けられていた。


 ルーは更に逃走の比重を高める。

私が一歩で追い付いて、少しずつ神体を削る度に。


ーー早世界


 私は時魔法を行使する神でも、遥か後方に置いて行ける程度の早い世界に身を置いた。


 時間軸の異なる異世界を創造する事など造作もないわ。


 神々が数多の生命を犠牲にやろうとしていた途方もない行動の全ては、私にとっては稚拙過ぎて虫酸が走る。


 更に言うと、質量的に1つの世界を潰した程度では、愚剣ユグドラシルを創る事は出来ないのだから、本当に無駄な努力だと思う。


 近付いては斬る、近付いては斬る、近付いては斬る、近付いては斬る、近付いては斬る。

幾度となく神ルーの神体を削る事を繰り返していると、ルーの顔の生気は着実に一斬り毎に失われていった。

 死んだような表情で。

失いかけている誇りと希望を振り絞りながら逃走し続けている。


漆黒に封じられていた能力の1つ、"ストーク"は確実かつ論理的にルーの心を貪っていた。


 最早、私にしか分からない太刀筋に加えて、何処から来るか分からない、容易く全知全能を握り潰す神出鬼没の見えざる私への対処は、

ルー自身が全身の神経をくまなく研ぎ澄ます事により生じていた、緊張下における精神的負担によって、着実に押し潰されていった。

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