第149階 ラストバトル ー 上
「この一戦は歴史を代える
偉大な戦いとなる...
全天の言葉に
横にいたアルテンは静かに頷く
表の歴史では魔界の天皇と
共に散った大勇者キレ・ルイデ
全ての敵を一振りで葬る事から
“一刀両断“のキレとして
神界すら一目置いていた
“神々の見た夢”として
誰も敵わない夢を見続けていた
あの西の頂点達でさえも
小さな足音が一つ灯る
「奇しくも西の王達を超えた
2人による闘いになるわけじゃな
スソリフは小さく呟いた
「ハツミ...全力でやるんでしょ?
マテハが真剣な眼差しで
そう問い掛ける
「あとの事は任せたわ...皆んなを!
私も今日ばっかりは世界の事なんて
気にかけていられない
「そりゃそうか....俺達が
ぶつかり合えば......
キレは小さく呟いた
止まる気は一切無さそうな
雰囲気を内包して
「心配しないで良いぜ
私達がしっかり世界は守るからな
にししとマスカリアが得意げに笑う
「任せるわ
そう言ったアオナと
キレは微笑みを交わしあった
そしてキレが構える
ゴクリと緊張が
スルグレ全域を超えて
浸透し拡がっていた
その影響を最も受けていたのは
アオナの筈なのに
彼女は和やかに笑っていた
「流石だな、剣を握った俺を目の前に
笑っていられたのは2人目だ
動揺が周囲に拡がった
「へぇ、流石お母さんね
「...あぁ、そうだ
アオナも剣を引き抜く
黒と白が迸り交差し交じり合う
穏やかさと激情が静寂に包まれ
世界に御身を現した
その事は誰にも分からなかったけれど
対峙したキレだけは
ゴクリと唾を呑む込み
武者震いを隠しはしなかった
アオナとキレの剣の切っ先は
互いの剣の殺意を捉えていた
「“殺す”つもりで剣を奮って欲しい
大丈夫だ、俺は死なないし死ねない
剣を引き抜く動作だけで
キレはアオナの秘めたる実力を
感じ取っていた
同時に自分の首に届く可能性も
感じ取っていた
「殺す気も無いし
殺せる気もしないわ
アオナが纏った異様な感覚に
キレは一歩後退り
構えに移る動作を
反射的にさせられてしまった
そして呟く
「魔皇...
アオナの剣がキレの構えに応じて動く
「きっと超える...うーうん、
超えてみせるわ
両者のたった少しの動作に
周囲はまたも息を呑む
「2人は、私達の仲間....
マスカリアは目を
見開いて驚いていた
あまりの両者を渦巻くエネルギーに
圧倒されていたのだ
それはこの場にいた者
全員が感じ共有していた
ピリピリとした緊張感と
重々しいプレッシャーが
場を支配しつつあった
そしてそれと同時に
もう戻れない今日を
確かに皆が感じていた
穏やかに睨み合っていた
アオナとキレが深く深呼吸をした
「始まる...!!!
イムは少し震えていた
このプレッシャーの中で
マユナはそっと頭を撫でた
..トンッと両者同時に一歩踏み込む
それが始まりだった
「同速....!!?
マテハは世界防衛の魔法も
忘れかける程に魅入っていた
ニヒルと
全真カゲード・ゲイスダリゲードが
巡り合い音も無く合間見え
互いが互いの優位性を得る為に
距離を取る、そして音が響く
「音が最早...止まっているみたいだ
アルテンは異様な光景に
武者震いを隠せなかった
全天も同様だった
届かぬ果ての夢
神さえも奇跡だと信じてやまない現象
それが総て束ねて集まって生まれた
大勇者...
「人の子の願いは神々の創造よりも
遥かに上をゆくというのか.....
倶天はキレが圧倒される状況を
想像出来ていない訳では無かった
けれども、現実を直視して尚
易々と受け入れられる事では無かった
アオナの剣筋が弧を描いて光る
一閃、二閃、三閃...!
「........見えているのね
アオナが小さく呟く
「あぁ、妖刀か何かの類か?
警戒心を解かずにキレは後退し
距離を取った
「えぇ、神々の生きた血肉を
食らったわ
全天がピクリと動く
「キレの野郎...アオナの左手を
視界の中心に入れやがった!
「研ぎ澄ませたら微かに感じる...
けれどそれでは世界を維持出来ない
マテハが苦悶の表情を見せる
「それほど...までにハツミは
隠蔽している...けれどハツミの
お父さんには分かってしまった
マユナが驚く
「動きが二刀流なんだ、どう見ても
だから警戒していた
ニコッと微笑むキレ
「流石、私には無い力だわ
神の世界の才覚ですね
アオナはそう言って全神斬離を現した
「小細工は無駄だ
ハツミ、真っ向から受けて立つ!!
竜巻の様に駆け抜けて行く威圧に
ハツミ以外は気圧されていた
「どっちも楽しそうっ!
ビリビリとしたプレッシャーの中
そう言ったのはナティラだった
「そういう事か、だよなー
忘れていたぜ!
マスカリアは不敵に微笑む
マユナにイムも
「たのもーか、懐かしいわね
マテハも微笑む
アオナが潜在的に
強き者を求めていたのを
皆知っていたし、感じていた
ガキィィィィーーンッ!!!!
大きな音と共に衝撃波が巻き起こる
アオナの一振りがキレの一振りと
交じり合った闘いの音
あまりの衝撃の強大さに
世の終わりを感じさせていた
「まるで世界崩壊の鐘だぜ
マスカリアは目を丸くしていた
「そうね...とんでもなく強い..
マユナは震えていた、恐怖と畏怖で
「誰も抗えぬ境地に至った二人が
更にその上、先を目指してやがる...
全天も震えていた
武者震いに微かな恐怖だ
「戦いの中での成長、
真剣による錬磨、
ハツミが求めていた物が
あるのかもしれないわね
マテハはクスッと笑みを浮かべた
恐怖は和らぎ消えていた
ハツミへの羨望で
「ハツミは何処に
行っちゃうのだろう...
イムは儚げに寂しい表情を灯していた