第148階 西
西の大帝国、賢者が一人
ウーヌスは何も考えずに
椅子に座っていた
「......
無力なものだ.....
世界を変えた、そういう自負が
我々にはあった
けれども、我々が天上で
うたた寝をしている間に
地上には天を穿つ勢いの者が
呼吸をし始めていた
それが段々と近付いて来て
先刻、我々は敗れ去った
誰がその言葉を聞くまでも無く
ウーヌスは風や空に言葉を紡いでいた
涙を流しながら
...
....
.....
「........
そうか、生きているのね、私は.....
子猫...いえ、化け猫に化かされたと
言うのに、無様ね
ドゥオは窓に薄っすらと映る
自身の瞳を自らの瞳で
舐める様に見ていた
その瞳は未だ死んではいない、と
微かにドゥオは自身を冷静に
判断していた
...
....
.....
和やかな風が流れ
穏やかな光が世界を照らしていた
そんな世界でトレースは座っていた
器用に地面に落ちない様に
落ちる事によって進む時を止めて
ただただぼんやりと過ごしていた
...
....
.....
カランッ...カラン....
「思っていたよりも震えているのか?
小刻みに揺れる自身の利き腕を
見つめながら己に問いかける
クゥインクゥエ
「...良く生き残ったな、私は....
“先代”も“現代”も呑み込まれて
肉体の死を迎えられた
けれども時は刻まれていくのだな...
懐かしい、あの青い夏が、な....
...
....
.....
「ハァ...ハァ....ハァ.....
感情の昂りと超人的な
身体活動の果ての体の充足感
そして疲れ、
セクスはそんな自身の身体が齎す
恩恵に酔いしれていた
「これでも...速くなかった
けれど心の何処かで
空虚さを抱え込んでもいた
...
....
.....
ふわふわとマシュマロの様な
寝具に囲まれてゴロッと横に転がる
ふかふかと肌を優しく撫でている
まるで宥める様に包まるオクトーの
目は小さく光を灯していた
あの日の闇の夢想の中の様な現実と共に
...
....
.....
皇帝が逝った、その象徴の如く
空席となった人類の頂点が
座していた玉座は
無言で何も語らず静寂を友として
ひっそりと佇んでいた
その眼前に平伏すかの如く
ノゥエムは深々と頭を下げていた
「もう少しでオクトーが
時代を担っていた
人の時代は変わるべきなのか...
私の時代はその後に約束されていた
その筈だった
なのに..なのに...なのに....なのに.....
とめどなく溢れる涙が
“今”を意味していた
「人は終わらない、
人の時代は終わらせない、
人は生き続ける......
諦めない限り