第146階 少年と王達
戦い始めてどのぐらいの時が
経ったのだろう...という疑問さえ
彼等、彼女達は忘れていた
身体と精神と魔力の限界の果てまで
王達はその純真な眼差しと志しで
信じた究極の未来を揮い続けていた
何を示したいのか
何を成し遂げたかったのか
何を得たかったのか
かつての問いが駆け巡っていた
血よりも速く、想いよりも創造的に
王達は更なる一体感に包まれていた
全ての瞳が、総ての思考が
スルグレの主を捉えていた
ただただ、貫く為に
ドゥオはかつてない程の絶望と
無力感に支配されていた
ほんの数秒に至らない時の筈だった
けれど、もう今この時には
それらは溶けてしまっていた
支えてくれている仲間と
共に生きて来た意志が
失意の牢獄を照らし始めていた
人類最強に手が届いて
踏み越えたあの日に
こんな日が来るとは思いもしなかった
かつての自分を今のアオナに重ね
噛み締めていた
今だけ...弱さを感じていられるのも
今、この瞬間だけだと信じ込む様に
“究極未来”に込めた
...王達はそれぞれの想いを
自身の究極未来に
過去から連なる、もっといえば
生前から続く生物の本能から
死を一つ、また一つ越えて
生きて行く真の強さで
人を全うし人として戦った
そして人類の未来の繁栄と栄光を
誰よりも願っていた....
アオナは無情にもそれら総ての斬撃を
軽々しく弾き返していた
アオナはこの戦いにおいて
強さを打ち砕く要素を一番集めていた
彼女の人類最強と謳われた
攻防調和、物魔一体の紅き最強の杖
ドゥオの“究極未来”に
トンっ...と
アオナは剣の腹の中心部を当てた、
“究極未来”の
半分より向けられた自分側に
丁度、拳3つ分の位置に
ピシッと、音がした様な気がした
それを合図とするかの様に
クゥインクゥエ、セクス、ノゥエムが
アオナとドゥオの間に割り込む
ドゥオの反応はその音と共に
確かに遅れていたからだ
あり得ない事が起こっている様な
感覚が激しく襲って来る
ドゥオの心の中は奇跡と同義だと
受け止められずにいた
かつて願った自分より強い相手...
それが本当に現れるとは微塵も
信じてはいなかった
有ろう筈が無いと信じ切っていた
つもりだった
「斗羅...やはり君なの....?
同列たる王を除き
可能性がある者なぞ
存在しなかった
それが人類の歴史だった
頂点の座に座れるのは
何が起ころうとも
自分達以外はいる筈もなかった
例え人々の間で奇跡が起こっても
それは王達にとって些細な驚き
ぐらいにしか感じられなかった
けれど目の前の出来事は違う
ありとあらゆる見解を束ね
羅列させても交差しない
解が今、眼前に在った
...自身の真心を込めた
“究極未来”が欠けた
その事実があるたった一つの
答えを導き出した
第8地球での戯れ
転生した自身が生きた
あの星でのたった一つの敗北
生涯唯一の完全敗北
人が創った電子遊戯で
赤子同然の地球の人の子が
遥か未来を生きる王の1人たる
ドゥオに与えた奇跡だった
たった一つの地球人に対する希望
そして人の王たる自身の成長の糧に
なりうる少年
だからこそ唯一の地球人の
“友”として迎え入れた
その他に突出した何かがあったか?と
問われれば答えは否だった
けれども何処かしら
潜在意識の無意識の深奥の下で
王たる自身が手を抜いていた...
そんな事実でもあって欲しいと願った
けれど、分かる、これは事実だ
王達が自身の頭の上から爪先まで
神経を研ぎ澄まし本気で敵わない相手
スルグレの主、アオナ・エカルラート
覚悟は決めた筈だったけれど
今、この場でもう一度
覚悟と向き合おうと
敗北の充足感に支配されながら
ドゥオは不敵な笑みを浮かべた
「斗羅は何よりも“友”を大切にした...
だからこそ貴方達が許せなかった
....転生体を何処か蔑む様に扱っていた
その理不尽の様な言い表わし様がない
彼等、友たちの奥底の気持ちに
自分だけかもしれないけど“神友”を
自称する彼が気付かない訳が無かった
だから、貴方方王達は負ける!!!
剣を振り終えた動作と共に
魔皇のローブ・アジーンを纏うアオナ
その黒き衣に王達は小さく
懐かしさを抱いていた
「2度も負けるのね....
アオナの斬撃をモロに食らい
意識と身体が吹っ飛ぶ中
何処かドゥオは達成感の様な感情を
小さく味わい感じていた
自身が可能性を見出した少年によって
自身を超えられる、師の悦びの様な
そんな気持ちに似ていた
後世であってくれれば尚、
慶に満ち溢れていただろうと
それだけが心残りだった
信じた明日のもっと“未来”に
王達は名を付け自身の
最高の武具として揮った
どんな過酷な試練も乗り越えて
輝かしい栄光の明日“究極未来”を
それに打ち勝った武具は、者は、
同じ“究極未来”だけだった
世界崩壊の宿命すら斬り払い
進む力を授けてくれた武具
それが欠けて、二人も王が呑まれた
考えられる理由は単純で一つ
もっと巨大な未来への流れに
呑み込まれていった....
「8人皆の力を束ねた
この言い表わせない“何か”に
彼は“名”を与えた
それは生かすという事
それは命を吹き込むという事
それは愛するという事
アオナの持つ
全真カゲード・ゲイスダリゲードが
更に光を解き放つ
王達に感化された様に
その剣は多彩な色を発してた
感応するかの様に
「統一された王の思考と願いは
“9番目”に受け継がれた
けれど私を凌駕する事は不可能だわ
何故か?それはあなた方8人が
協力するなんていう事は
嫌でも想定出来る
それも神域さえ超越した
シンクロ率で
アオナは手に持つ力を振るう...
一つ、また一つ、もう一つ
究極未来が欠けていく
「呑まれてやがる....!
真の未来だと世界が
認識しやがったのか!!!
虫に喰われた様に
“究極未来”は
削り取られていた
他の究極未来も同様だった
「....私達人間は、完全な生命では無い
だからこそ手を差し伸べ、握り合う
それは動物には出来ない
それを仲間だ、協力だというのよ
子猫ちゃん!
孤高では人は誰かを
幸せにする事も出来ないわ!!!
ドゥオはノゥエムに
自身の“究極未来”を
重ねた
「お願い、ノゥエム....託すわ
ノゥエムはドゥオに
“大丈夫だよ“と言わんばかりに微笑む
その横を吹き飛ばされた
ウーヌスとオクトーが通り過ぎる
「馬鹿言え...俺はハツミの
一番の仲間で味方だ
キレはニヒルを構え直す
残りのフトゥールムの手が
ノゥエムに向けられる
そして光の筋が未来が
ノゥエムに注がれていった
「...王の光は偉大で何よりも
誰よりも眩しいわ
だから見えなかった
「スルグレの主よ、貴方を討つ!!
ノゥエムの周囲に浮かぶ究極未来達
「王は創られる事を!!!
王は誰でも成れる事を!
アオナの斬撃を
受け止めるノゥエム
「...我々王は常に共にあった
だからこそ何一つ違和感を感じない
..アオナは一笑み零す
「私は王じゃない、けれど
私の背負っている全ては、
時として違う道を行く
けれども私はその道も良いなと思う...
だって私はそんな皆んなが大好きだから
....だから私がこの場を受け持った
確信している、私は私の勝利を
速さが上昇しているアオナの連撃に
ノゥエムは少しずつ少しずつ
バランスを失っていった
「くっ...こんな筈では....
微笑むアオナに一瞬
意識を持っていかれたノゥエム、
生み出された焦りが
アオナの渾身の斬撃を放たせた
「!!!!
キレはただただ2人の
行く末を見守っていた
「当たらなかった...?
ノゥエムは自身への衝撃の無さに
驚いていた
「!!!
襲い来るアオナの斬撃を受けながらも
“蹌踉”めくノゥエム
「何故...当てなかった?
無表情のアオナ
「...これで終わりかと思うと
ノゥエムは拳を強くギリギリと
握り締め有りっ丈の力を込めた
怒りを通り越して呆れ果てた
自身の弱さに
先程の攻撃に対して何も出来なかった
体たらく
「役割が終わり、代わるのか
けれど君は“王”ではない...
キレに斬り伏せられながら
膝をつき、力が抜ける様に
倒れ込んでいったノゥエム
「人の王は民から生まれる
また生まれ生きる何度でも何度でも
アオナの声が響き流れる様に
ノゥエムの意識は遠退いていった
「ハツミが王かどうかは
俺達、家族や仲間が決める
最も“王”なんて誰でも成れるものより
“娘”の方が尊いけどな、
それに王で無くても
俺達の国じゃあ特別だ
「王は偉大だ、何よりも尊く...
気高い...人の上に立つという事が
どれだけ重いか、分からんよ....
振り絞るクゥインクゥエ
「けれど地に堕ちた
ノゥエムはアオナを睨みながら
地面に伏せる
「これが力、何者でもない人の子が
運命と宿命に愛され
誰よりも何よりも優れた
王達を地に堕とした力よ
王達は誰も、何も言葉に出来なかった




