第145階 王の闘い
フトゥールム達はこれまでにない程に
一体感を噛み締めていた
それ程迄に集中力もシンクロ率も
この上なく高まっていた
流れる様に滑る様に雪崩れ込む様に
キレに襲い掛かる“究極未来”
輝かしい刃の旋律
波打つ様に静かに研ぎ澄まされた
技が空間に馴染む様にキレに迫った
「負ける訳にはいかないな
キレは対処しながら心を引き締める
国と国との争いはどんな形でも戦争だ
その大事を担う者として
スルグレを創って愛している娘の為に
キレは自身の力を解き放つ
「「「「!!!!
剣という脆い枷が外れた今
キレの武の自由を阻害するものは
何一つ無い
アオナの剣を更に際立たせる為に
自分の剣技をこの戦争にねじ込む
「やはりわし達を殺した男よ
だが、子孫を殺されて黙る
先祖はおらんよ、何としてでも殺す
ウーヌスは激情に心を預けた
そんな心情とは逆に
目の前に現れたアオナは
涼しげなそして冷たい表情で
深々とウーヌスの身体に
自身の剣を食い込ませた
「ぐふ...
久方ぶりの痛みに
驚きよろめいたウーヌスに
アオナの第2閃が更に深く抉る
ドゴッ!!!!!!!!
アオナのいた場所に
ドゥオの渾身の一撃が迸った
魔力と物理の混合技だ
けれどアオナは少し離れた場所で
無表情だった
ウーヌスは後退した
他の王達を信じていたからだ
こんな状況でも打破してくれる
そう、はっきりとした意識の中で
強く強く勝利を願った
人類の永劫の繁栄を願った
(あの娘は殺意を読んでいる...
だか.....ら....?
思考に呑まれそうになった
トレースに微笑むオクトー
クインクゥエとノゥエムが
トレースに迫った刃を受けて
後方に吹っ飛んでいく
トレースの眼前に顔を近付けるアオナ
「!!!!
(まさか、概念に身体を変えている!?
トレースは冷静だった
仲間が自分を庇っても
底無しに信じていたからだ
アオナを見据えて
自身の“究極未来”を
鳴り響かせた
音は速くない、だからこそ
アオナの動きに合わせて
ソッと置いて行く様に攻撃していった
アオナを止められなくても
動きを阻害する事で意味があると
....音が響かない空間を作ったアオナ
具体的には孤独と悲しみと怒りの
エネルギーが支配する世界だ
時に負の感情は何も受け付けない
無敵の刃となる
ファンタジー世界での闇の魔法、
そういう位置付けと少し似ている
ゾクッと身震いするトレース
何も通じず何も受け入れない
未知の力に本能が怯えていた
それは話の通じない獣を
相手にした感覚と似ていると
トレースは感じていた、それも飢えた
この場合、何に飢えているのか
分からなかった、それが恐怖となった
アオナの白い剣閃が無慈悲に掠め、
頰から血が垂れる
触れていない髪の毛が
容易く斬れる程の風圧
命の危険を感じるには十分過ぎた
けれどトレースの眼だけは
退いてはいなかった
歩を後退しようとも
けれど更に無情な黒い一閃が迸る、
アオナは魔法自体の摩擦を
極限にまで減らし魔法化させた
自身をトレースの時の技法による
後退よりも早く移動していた
自身が魔法である為に
移動するよりも断然速かった
「なんて...完璧で理想の
自然との一体なの...私達が求めた
人を新らしい世界へと導く為に
語り合った....
まるで調和する様にトレースは
思考と声を統合させていた
故に自身の身体動作をより正確に
研ぎ澄ましていた
自身達の理想を思い描きながら
「!!
アオナは雰囲気の変わった
トレースに少し驚いていた
けれど戦いの中で限界を超えて
己自身を凌駕し、その先へ
進もうとしている王の一人が
例え何をしようとも
揺るがない勝利を確信していた
更に時の技法と人体との
調和を強め続けている
それは、もう覚醒に近い進化だった
生命の奇跡ともいえる
その覚醒が他の王達にも
シンクロする様に伝わっていった
「人間ね
アオナも覚醒に必要な要素を
魔力として束ねて
迎え討とうとしていた
王達、強い人の絆を断ち切る為に
アオナの速度が上がる、少し下がる
上がって、少し下がる
また上がって、また少し下がる
単純な速度の変化
基本的な緩急を使っていた
それでもその刃で捉えられると
錯覚させるには十分過ぎる
ほんの少しの迷いを与えていた
「くっ...
余りにも当たらず掠らず
声が漏れ出るセクス
斬撃の効果範囲を更に上げて
刃を滑らせる
物理を超えた刃の斬るという性質が
波の様に伝わっていく
奥に奥に、けれど届かない
アオナには届かない
空が伝える無が集中力を微少に削ぐ
そしてまた削がれる
アオナは微笑んでいる
戦場の最中、ただただ....