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魔皇の魔法とハツミリア  作者: 道草 遊者
西の大帝国編
133/263

第132階 悪の華々

※残酷表現あり

「無駄な抵抗はやめろ


「......


睨み合う二人


「この僕に戦いを挑む事自体が

無駄な抵抗だ、分かるな?


「.......


仮面で表情を隠し、声も発さない

倶全にセプテムは

怒りを露わにしていた

敵の情報が読み取れない苛立ちだ


「分かった、至極単純な事だ


そう言ってセプテムは

水のステルラに手を差し込もうとした


ピリッ...!!!


自身の指先と水のステルラの間を

電流が迸った


「ほぉ?この行動は困るとみえる....

けれどなぁ!!!!


大きく迸った雷を避ける様に

水のステルラはセプテムに

吸い込まれていった


「残念でした!

僕の力の一部が既に溶け込んでいてね

魔界と神界を騒がせた魔皇を退けた

強力無比な力さ

君程度で抗えるものではないよ

さぁ、指を咥えて泣くといいさ

僕の力の強大さに!!!


セプテムの後方からうねる水流が

流星群の様に倶全目掛けて降り注ぐ


けれどステップを踏む様に

軽やかに躱していく倶全


「.....ほぉ?

思ったよりは芸が出来る様だな

究極未来(カアン)!!!


セプテムの言葉と共に

様々な光を纏った魔力が

数千数万と倶全目掛けて降り注ぐ


同時にセプテムは

手を地面につけた


結果セプテムを中心に水が溢れて

周囲に流れていく


「これでサル芸は出来ないぜ?


足首まで浸る魔力の水

一見普通の水だが時間を遅延する

力が染み込ませてあった


「残念なお知らせだが、

一説には最強だと記される時の技法も

我々は大小様々に用いる事が出来る

...意味が分かるか?

時の技法一つで頂点を取る世界など

サルが片手で逆立ちした程度の

知能と強さしかないこの事実を!!!


「........


倶全の足下が抉れた

不自然に見えざる力で

同時に水飛沫を上げて飛び散った


「何...?


「鬱陶しい....


そう呟いた刹那

黒い雷が倶全を包む様に迸った


「な...なんだ....?その雷はぁぁぁ!!


セプテムは激昂し

数多の水を束ねてうねらせ

倶全に襲いかからせた


「.......


(この男、感情の起伏と相違する様に

技は緻密で冷静、

そして大胆なのだな...


倶全は水流に飲まれていった

纏わり付く水は

父が言っていた単一魔法に

成分そのままで融合させている物

セプテムは言っていた通りに

水流の魔法に時の成分を

染み込ませていた

部分的に停止していく自身の身体

身動きが取り辛く倶全は思う様に

技を放てなかった

それでも...ここで終わる訳には

いかなかった


「!!!


倶全はどうにか創り上げた別空間に

逃げ込み黒い雷を発動させる時間を

創ったのだ


「....まるでその黒い雷しか

対抗手段が無い様にも見える.....

惜しかったなぁぁぁぁ!?


セプテムの左頬を掠めた黒い雷は

赤い一筋を描いた


隙を作った倶全は撤退した

だけど一つ確信があった

アオナなら彼に対抗出来る

可能性がある...と

一つの希望を握って

倶全は悔しさを噛み潰した


...


....


.....


「どちらが居心地が良いかい?

現代のルシファーよ


美形の青年の皮を被った

アオナは空気の振動を変えて

声も変えていた


「....スルグレの者か?


アオナの使っている男の顔に

引けを取らない容姿をしていた

彼はアオナよりもよりワイルドだ


「あぁ、そうだ、死神だ


不敵に笑うアオナ


「そうか、皇帝と七賢人を討つのか?


「必要があれば


期待外れの返答につまらないという

気持ちをたっぷり込めた

深い溜息を吐いて


「お前じゃ勝てねぇよ

もっとヤル気のある奴を

連れて来い!!!


声を荒げ周囲の空気が強く震えた


「何を怯えている?

七賢人に敗れた傷が痛いのか

ふふふふははははは!!!


笑うアオナに彼は憎悪と憤怒が

入り混じった表情を向けた

と同時に違和感に気付く


「...何を勘違いしている?

私等スルグレは西に手を下さなくても

西より上位に立った事を示せる

敗北者は敗北者たる人生を歩め

サー・サマエルよ


アオナは美形の男の顔でたっぷりと

侮蔑を込めて見下した表情をした


サーは激情に駆られたままに

自身の魔法を発動させようとするも

うんともすんともいわなかった


「今から見せしめに壊す相手の自由を

そのままにしておくと思うのか?


「貴様....!!!!


「西は愚かな真似をした

お前を殺しきれないという罪だ

お前は多くの人間を殺した

七賢人を讃える者とそうでない者を

分けて讃える者達を大人子供

関係無く殺した


「それが...どうした....はっ!

お前この俺が憎いのか?

そしたら哀れだな、可愛そうだな!!

どいつだ?俺が殺してやった

お前の大切な人間はよ!!!


サーは勝ち誇った様に高笑いしていた


「良い!!!!


アオナの唐突な言葉に

サーは面を食らった


「おい?そこは憎しみを

露わにする面白い場面だろう?

強がるなよ?


「どんな風に壊れていくのか

楽しみでならない!


「あ...?


「ここはスルグレ領ミリカンテアの

シュナトネベにある

白い塔と呼ばれる場所...

その遥か地下に地極と

呼ばれる部分があり

そこに向かっている

知能が有るままこの地を跨ぐ

凶徒はお前が初めてだ

更にいうとスルグレでも

この地極の本質を知るのは

この私と先代魔界の天皇

ミラース・ラーバ・ラーサだけだ

お前は自身の行いを誇って良い

....直ぐにこうなれる


アオナは笑っていた

素敵な笑みを浮かべて


サーは余りの光景に絶句した

力が使えない現状の現実が

それに拍車をかけた


サーのかつての配下の重鎮達も

無数にそこにいた

他には外界で欲のままに生きた

悪名高さで噂の連中の

騒動たる顔触れをサーは確認出来た


特に女好きで女性の扱いが酷く

直ぐに代わりの女性を要求してくる

サーにとって優秀な配下の扱いは

サーの目で見ても

酷いを通り過ぎていた


無数の刃が身体を貫き

泣く筈の無かった彼が涙を流して

命乞いをしている様な表情をしていた

けれど脳がやられているのか

言葉が意味をなしてなかった

そして焼かれても潰されても

身体は再生していた


誰かがそうしている訳では無かった

魔法に長けたサーには一定の周期で

発動する魔法が何重にも

施されているのが直ぐに分かった


「共に鳴いてくれよ?

怨嗟と嘆き憎悪と憤りの綺麗な声を

期待している


「...お前は行き過ぎた正義だ

分かるか?誰かが滅ぼすぞ?


サーの声に力は無かった


「忠告は聞いておく

けれど私はこいつらを殺して無い

殺す一歩手前で止めている

けれどこいつらは殺した

そして宿命上、更に殺し続ける

そして私には未来で

こいつらに殺される人々を

救った功績がある....

それにこの場所には

悪人を裁く以上の意味がある

これはその結果の過程だ

七賢人に届かなかった

サー!君では理解出来ない

私達スルグレが生きる意味でも

この場所には意味がある

君もその礎になれたのさ!!

西の皇帝と七賢人は

ミリカンテアの勇者

アオナ・エカルラートに敗れる

君はその歴史に大いに加担したのだ

君が望んだ現実さ

けれど劣った君では無かった

優れた者が西の大帝国より上位に立つ

ただ至極単純な結果が

現実に刻み付けられるだけだ


サーの目には怒りが宿っていた


「あぁ、それからその程度の瞳

こいつらもしていた

君はやはり劣っていたのだ

....さよなら


そうアオナが告げると

サーに無数の刃が襲い掛かった


...


......


.........


東の地、天に最も近き場所にあるステルラ。

その一つである木のステルラ、ユーピテルは

目の前の相対する2人を捉えていた。


マテハはジュウゼンジュウビを、

クゥインクゥエは“究極未来(シャーハンシャー)”を

同時に構えた。


「良い瞳だ、強さを感じる!」


クゥインクゥエは心の芯から爪の先まで

自らの力を試せる...そんな高揚感に支配されていた。

マテハの放つオーラに場を圧倒する力を感じたのだ。


幼い少女、そんな事は彼の武人としての矜持からすれば些細な事。

眼前に一歩も退かずに相対出来る...その事実一つで同じ土俵に立てる強者だと確信していた。


「少しだけ...貴方が上だと思いたい!!!」


マテハもまた眼前のクゥインクゥエに

強さを感じていた。

自分は負ける、そうも導き出していた。

けれど希望はあるとも。

アオナを信じている...それだけが今は彼女を支えていた。

戦闘思考に入りかけたマテハはどうにかして目の前の相手の虚を突いて出し抜く方法を考察していた。

けれど天のステルラの方へ向かった双子の妹、マユナも気掛かりだった。


激しく空間を叩く轟音が同時に時を引き裂く様な金切り声も齎していた。


「分かるか?相応の強者を相手にした時にこそ湧き上がるこの高揚感が!!!!」


巨大な槍である“究極未来(シャーハンシャー)”を

天に衝き刺す様に掲げ、その穂先に雷が収束していった。

あまりにも激しい空間破壊作用を有している様にも見えるクゥインクゥエの強烈な雷。

けれど不思議とマテハに恐れは無かった。


対処可能だと思えた人の最高到達点の一つを。

西の大帝国の七賢人の一人を前にして

彼女は自身の力を試す気概と情熱と冷静さを心に

立ち向かうと今、決め迷いを捨てた。


刹那、迸るクゥインクゥエの金雷。


マテハは金雷にまず空間断裂を与えた。

これで金雷が小分けにされて

勢いそのままに一部は後方に流した。

次は自分に向かって来る金雷の対処だ。


時間停止を迫り来る金雷に部分的にかけ、

停止した部分に打撃を与えて捻じ曲げ逸らした。



「...やるな...」


金雷を放った衝撃が作る刹那の様な時に

眼前の少女マテハは金雷を撃ち破ったのだ。


「攻める!」


マテハは一歩詰める。

その一歩の意味を思考するクゥインクゥエ。


「そうか...なるほど」


それに合わせる様に二歩時を跳ばす...

眼前の少女の一歩は深く深く斬り込んでいた。

次の死角を捉える為に。


亀裂が入る、時で区切られた世界が2つ消失した。

神の領域である、世界創造。

念の為に2つ世界を創った事で命拾いしたと一先ず安堵するクゥインクゥエは次の世界創造への魔力を束ね始めた。


(思っていたよりも....対処が早い

数億斬り付ける覚悟もあったのに)


ほんの些細でも刀身が触れれば勝機は見出せていた。

速度に関してはほぼ同速ともとれるとマテハは思考していた。


クゥインクゥエは槍を引き構えた。

その単純な動作にマテハは全身を貫かれる様な身震いを受けた。


(来る...!)


クゥインクゥエの狙いは拮抗する試合の流れを引き寄せる事。


「何も格殺するのが必殺技では無い。分かるか?強者の矜持よ」


マテハには意味が分かった。

試合を決定付ける意味での必殺、即ち勝負を決める意味で試合に対する必殺技...

要するにクゥインクゥエの超大技が放たれるという意味だ。


それに対しマテハは防御する選択を棄てた。

こちらも超大技で競り勝てば決められると、誘いに乗ったのだ。


若さ故の焦り、そして青さ故の驕り、

ぶつかり合えば決着が付く事は分かっていた。

クゥインクゥエの槍術が人類の頂点の一角に立っている事も分かった上で挑戦したいと浅はかに思ってしまっていた。


「...行くぞ!!!」


それは周囲の空間を根刮ぎ奪い削った。

...その時、マテハは過信に気付き静かに笑みを浮かべていた。


「ハツミ...ごめんなさい。天から貴女の勝利を信じているから。マス姉、マユナ、イム、貴女達の姉妹で良かった......」


それでも......全力をぶつける以外に方法は無かった...


通常は周囲に与える範囲魔法のヒトナツノコイをマテハは纏った。

クゥインクゥエの超達人的構えから予測出来る速さを想像すれば保てる可能性があったからだ。


「ゴルテッカー(次元爆速衝撃)!!!!!!!」


気合いを入れて技の効力を高める。

これはクゥインクゥエの持論だ。

嘘か誠か4割増しになる実感があるそうだ。


「何...?......」


マテハの表情から死を悟った状況が伺えた。

そしてその刹那、クゥインクゥエは

マテハにあの少女を重ねた。

自身の最強必殺技であるゴルテッカーをいとも容易く打ち破りし、あの衝撃を。

そして具現化する様に纏わりつく、アオナの殺意。

瞬間、クゥインクゥエは自身の左腕を犠牲にマテハに直撃するであろうゴルテッカーを少しだけ逸らしていた。

自身の左腕を地面に突き刺し自身の丈夫さを信じたのだ。

その結果マテハへの直撃は免れた。

けれどマテハ自身のヒトナツノコイだけでは無力化出来ずマテハにも衝撃が迸った。

軽減されたとはいえ地に伏せて立ち上がれない程だった。


「くっ...!!!」


マテハは動かぬ身体を無理に起こそうとした。


「何故だ!...」


項垂れるクゥインクゥエの左腕。


「何故だ!!!!何故!本気で戦わない!!!!!」


マテハは悔しさで声を荒げていた。


「...分からぬ、恐れなど全て跳ね返せる自信があった、けれどなぁ......けれどなぁ......」


クゥインクゥエは涙していた。



「!!!」


マテハも悔しさで涙が滲んでいた。



「...背負っているとか、崇高な信念とかそんな事じゃあない。それ以上にただ...ただ...あの少女、スルグレの主は強い......その事実に気持ちが負けた...」


打ち震えるクゥインクゥエ。彼もまた、悔し涙を流す。

目の前のいない敵に躊躇して敵に対して殺す手を緩めた情けのない己に対してだ。


「...ハツミ...」


よれよれと立ち上がりマテハはこの場を後にした。



「勝機は何処にあるのだ......やはり人類の最高の作戦

“チームワーク”なのか...」


...クゥインクゥエは静かに彼女を見逃した。


...


......


.........



同時刻、アオナが構えていた全真カゲード・ゲイスダリゲードの切っ尖は東界、双子天道の木のステルラの方角に確かに突き付けられていた。


「...先代魔界の天皇。貴方は無力な少女が生きられる様にと集然を創った、そしてマテハは人類の頂点の一角であるクゥインクゥエ・フトゥールムから逃れられた。超自然的な魔術だけで無く幻視の様なものまで」


アオナは口元を緩めていた。


「早速逝く者が出なくて良かった!ここでこの場で打ち破ってこそ最大の意味がある!」


トーラルカエの最奥地の玉座にアオナは座っていた。


まるで遥か高みへ羽ばたく為に羽根休めしているかの如くに。

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