第128階 開戦
※残酷成分有り
「また消えた
煌びやかな法衣を纏い
顔を覆う程の高価なフードの
隙間から薄っすらと
老齢の男の重々しい声が漏れ出した
「命は重く、時に儚く脆い
死に近付く者のみが感じる
死の予感を彼は確かに感じ取っていた
いや彼だからこそ気付けたのだろう
幾度とない死線を乗り越え
死と決別して来た彼ですら
確かな死を演出した彼女を
自身の死を近付ける者と
認識せざるを得ない何かを
彼自身の魂が訴えていたのだ
あの男の様な....と。
神々の地より西に座する位置に
西方に君臨する大帝国と呼ばれし
人類による人類の為の世界があった
西の大帝国は名を持たない
なぜなら自分達こそが人類唯一の
世界だと確信しているからである
人類こそが全世界の覇者であり
唯一無二の尊い存在だと
何よりも自負しているからである
大帝国の名も周囲が
人が人の為に作った世界を畏怖し
その強さを讃えた結果である
大帝国の名を語る世界は
幾多にも及ぶが
彼等は一切大帝国を
名乗っていないのだ
彼等の強さを物語るに
それ以上の言葉はいらない
他が実力を大いに認めている事の
証明だからだ
その西の大帝国の現状の七賢人に
数えられる彼“ウーヌス”は
自らの死でさえ世界が世界である為に
必然的な事として溶け込む可能性も
自身の心に示唆しながら
ただその強い瞳で世界の行く末を
推し量ろうとしていた
...それを人は覚悟と呼んだ。
西方の大帝国の大英雄の一人が
自らの死と向き合っていた
まさにその時だった
「この反応は...革兵器か?
自らに溶け込ませた
超反応体を通して
一つの危機を察知した
人為的な創られた危機を
革兵器は革命を起こす兵器を意味し
人類史上最凶最悪の殺傷能力を誇る
何故なら魔法を使う者達も
一掃する為に開発された
人類抹消の一翼を担える代物だ
と同時に西の大帝国に
死の影が既に入り込んでいた
ただならぬ予感を感じ取っていた
「ウーヌス様!
慌てて入って来る初老の男
彼の振る舞い身に付けているものから
かなりの立場が伺える
そうウーヌスに忠実な部下の一人だ
「なんだ
彼は主の言葉に息を飲んだ
ウーヌスの言葉の一つ一つが
それ程の重みを持つ事を表している
「....御報告がございます
彼は静寂の中で主の言葉を待った
「言うてみろ
そして重く閉ざした
旧い扉を開く様に
彼は告げた...
...
....
.....
「まったく、大胆な真似をしたものだ
美しく煌めく様な
自身の髪を掻き分ける様に
アルテンは美形の青年に告げた
...この青年こそが
若者達、特に若い女性達の間で
話題の黒の王子様である
内から溢れ出る気品
美し過ぎる佇まい
神が与えた至宝の如く美顔
そして宝石の様に輝く黒髪
正体が実は女性だなんて知らずに
視線も心をも独り占めしている
罪作りな美形男子その人なのである
「大した事ではないよ
在るべき理想の世の構築さ
...と、カッコつけてみる
そう言うと彼はアルテンに
優しく清らかに微笑んだ
そしてその頭上に金属質かつ魔質な
中規模な空間が広がっていた
それこそがスルグレの持つ革兵器だ
「これからね、残酷極まりない
革実験を行う
この地には結界が張られていて
革兵器の威力が充満し漏れない
またゆっくり進む様な遅延魔法も..
スッと上に指を伸ばし
革兵器を示していた
「あれに搭載してある
よって死への恐怖をゆっくり味合える
「おい、兄ちゃんよぉ
俺はなぁさっさと俺を牢にぶち込んだ
あの女とその家族を
殺りにいきてぇんだ
さっさと解け
テメェらの顔もおぼえたからなぁ
下品な笑みを浮かべる
拘束された男の一人
ズシュッ
「あ...?
男の左手の小指の先が飛んだ
「嬉しいだろう...?痛くて、笑えよ
美形の青年は微笑んでいた
そして次の瞬間
男の四肢に激痛と衝撃が迸る
「反逆罪って気付かなかったか?
その声、そして振る舞いに
男は震え上がった
「せ...世界皇帝!
世界皇帝は男の四肢を潰して
邪悪な笑みで男の瞳を覗き込んでいた
男はあまりの恐怖に
失禁し全てを漏らした
「あーっはっはっは!ウケるぜ!!
世界皇帝は腹を抱えながら笑っていた
「これでこそ許された殺し
悪人の笑顔を奪う!
楽しいぃねぇ!!!
「あまり壊すなよ、爆風から
悲痛な顔で逃げ惑って頂く
主演男優様なんだよ
美形の青年は世界皇帝に
釘を刺す様に言い放った
芋虫状に縛られて放置されている
人間達からしてみれば恐怖の一言だ
世界皇帝は闇社会が怯える程に
恐怖で謳われているのだ
「不老不死なんだから
かたいこと言うなよ、
どうせ壊すんじゃねぇか!!
世界皇帝の醜悪な笑いが止まらない
止まる筈も無い
これこそが彼の本質で本分なのだから
「あははは!全くだな!!
世界皇帝!!!
...四肢を砕いて目を潰す
捕まえる手を潰し
追いかける足を砕き
目を奪い死に近付ける、
なんて素晴らしい
光景なのだろうか!
なんて素晴らしい
のだろうか!
なんて素晴らしい
時代の到来だろうか!
なんて素晴らしい
世界が始まったのだろうか!
天使の様な笑みで美形の青年は
この場にいた全員に告げ
その指の先に先程四肢を潰された男が
呻きながら助けを訴えていた
「...全く、誠に有難き幸せだ、な
傅く世界皇帝
「これで証明が積み重なった
魔術界において
女子供を生贄にする
必要性は無くなった
私達は多くの人間の生に反する者を
殺して魔力を得る
この理念は変わらない
さぁ!!!始めようか!
西との戦争を!!!
殺し尽くせ凶徒を!!!!
美形の青年の激しくも静かな叫び
それがスルグレと西の大帝国の
開戦の合図だった...と伝えられている
この日、革の炎が迸った
犠牲者は数人だった
けれど西にしてみれば敗北だ
これから更正させる筈だった
未来ある人々の命を
散らせてしまったのだ
西の管理下から奪われるという形で
第七世界の
忌み嫌われし物よりも発展し
殺傷性能が格段に上がった
近未来兵器の業火に曝されたのだ
第七世界からの伝承は最早
形ある形では残っていない
けれどもゲイ術の世界の
偉人達は残すのだ
悲しみや悲惨さを
一瞬の光の後の
膨れ上がる雲と
迸る閃光の様な赤い炎
そしてその傘下にいた人々の
苦しみと喉の渇きを
西の七賢人の一人
クゥインクゥエは
重々しい黒を身に纏いながら
その一部始終を見据えていた
怒りも悲しみもせずに
ただ穏やかに揺れ無き湖畔の様に
「いつか...誰かがやると思うていた
だが...!!!....
それを人類の存亡、いや
この大地の命運にあだなす
かの勇者の少女と
同等かつ同質に限り無く
近い魔力を持つ者とはな...
私もまだまだ働かねばならない..
そういう事か
さぁ、アオナ・エカルラートよ!!
貴殿はどう動く!!!
...それとももう既に我々と
同じ道は歩んでいないのか?
そして彼もまた、歩み始めた
終結の舞台へと




