第126階 新たな始まり
「ふぅ...
路地裏で震える子猫の様な
女子学生を闇に引き込もうとした
....人に種別される生きていた悪鬼から
血が伝う氷の剣を男は引き抜いた
鏡の様に反射した
凍て付いた剣に
神々の奇跡が生み出した様な
その美しい容姿が映る
「にゃ...
猫が一匹、奥へと駆けて行く
先程まで怯えていた女子学生は
男の振り向き様に
ほんの数分前の恐怖が吹き飛び
一瞬で恋に落ちた
男は口元を緩めて
女子学生を安心させる為に微笑んだ
...まるで最愛の恋人に微笑む様に
眼鏡と帽子、マスクを着用した男は
女子学生を連れて
大きな通りに来ていた
老若男女様々な人が行き交う大通りだ
男は安心したかの様に
マスクをずらして
口元だけ微笑み
女子学生から離れていく
「あっ...
女子学生は分かっていた
「まって...
いるはずなのに誰もいない
空間に叫ぶかの様に
人々の喧騒に溶け込み
声がかき消されていく
大切な何かを離さない様に
女子学生は手に持っていた
学校指定のトートバックから
びっしりと予定の詰まった
スケジュール帳を取り出し
その端を乱雑に引きちぎり
その端切れに愛らしい
キャラクターの描かれたペンで
番号を記し男にそれを押し付けた
「白岩...麻衣...
男はふっと眼鏡を外した
その目は確かに笑っていた
頭一つ分しゃがみ込み
女子学生に目を合わせた
「ありがとう...また何処かで
そう呟くとくるりと反転し
私は風に消えていった
耳を包むその優しい風の様な
透き通る良質な声に圧倒され
女子学生は声を発する事が出来ずに
まるで時が凍り付いた様に
棒立ちしていた
不定期連載。