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『世界』と『異世界』  作者: 黒服先輩
第一章 隊長の帰還
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冒険者ギルドでの再会


 『異世界』イストリア地方 港町ロデン


 空から照らされる太陽の陽が、雪が積もり少し顔を出している赤屋根に輝きを作り出す。

 ここ小さな港町ロデンは赤屋根の家が多く、地面は石畳で整備され、少し高低差がある場所であった。

 そんな港町に建てられている一つの建物。午前は船に乗って朝方到着した他国の者が寄り、通りかかった冒険者などが訪れる酒場兼冒険者ギルド。

 木製のその建物の中は、様々な種類の者達で連日大盛況である。食事を摂る者、依頼を受ける者、商品を売る者、冒険者ギルドとはその多くが賑わいを見せる、素晴らしい場所だ。


 思えば、かつて異世界に憧れた者は、異世界に行けるよになってその多くが冒険者になっていった。危険な仕事でもあったが、その分ロマンもあったのだ。

 冒険者の中でも実力のある者は魔物退治の期待を受け、国から強力な武器を与えられたり、異界調査団への入隊も可能となる。

 そのせいなのか、このギルドには屈強な大男や鎧に身を包んだ男、ローブを着た魔法使いなどの実力者が揃っている。


 そんな中、円形の小さな木製テーブルで朝食をとる達也とシアの姿があった。


「……前から思ってたけど、シアってあんま飯食わねぇよな」

「へっ……そうですか?」


 二人のテーブルを見ると、紅茶の入ったポットやロールパンとバター、それにサラダや港町特有の魚料理などが並べられている。

 しかし、それのほとんどは達也の胃袋へと送られ、シアはあまり食べていない。少食なのだろう。


「足りてんのか?」

「はい。十分ですけど……それよりも、私は達也さんの方が食べ過ぎだと思います」

「旅してんだから、エネルギー付けとかないかんでしょうが」


 差し障りの無い会話を繰り広げる二人。そこには和やかな雰囲気が醸し出されている。その空間は誰にも邪魔されることなく、二人は慌てず落ち着いて朝食を楽しむ。

 朝食の皿を空にするまで、およそ四十分ほど経っただろう。二人は空になった食器を店の人に運んでもらい一息つく。


「ふぅ………さて、今日はどうするか……?」

「やっぱり情報収集ですか?」

「まあ出来ることっつったらそれしか無いが……俺らが探してる奴は、どっちも移動が早い奴だからなぁ……」


 悩む様子を見せる達也。探す対象の情報が少ないこともあり、途方に悩んでいる。


「……そういえば、掲示板に何か貼ってたりしないかなぁ」


 達也はそう言いながら、冒険者達が集まる依頼の紙などが貼られた掲示板に目を向ける。


「あるんじゃないですか?」

「んじゃあ見に行くか」


 二人は椅子から立ち上がり、人だかりの出来ている掲示板に近寄って行く。そして、出来るだけ人を避け、姿勢を伸ばして覗き込むように掲示板を見る。

 しかし自分の前にかなりの人が居るからだろう。あまり見やすくない。達也は掲示板に貼られている紙が見やすいようにと身体の位置を動かすと、横の人物と左肩が当たる。


「ああすいません……」

「いやいやこちらこそ……」


 肩の当たった男と目を合わせると、両者驚き身体を固める。肩のぶつかった男は、達也には見覚えがあったからだ。

 灰を被ったような色のトレンチコート。黒いベルト。そして達也のと同様の材質のカバンを左手に持っている。


「………たっ……たっ……」

「お、おいジャック……落ち着け……」


 達也のことを見て泣きそうになりながら言葉を発しようとしているのを見て、達也は落ち着かせようとする。しかしそれは叶わない。


「隊長ォォォォォ!!」

「ぐべらっ!?」


 そう歓喜に叫んで男は腹部に勢いつけて抱きつく。それを受けた達也は、衝撃で口から変な声が出てしまう。

 周囲の冒険者達はその声に驚き、達也から身を一歩引き、シアはその光景にポカンとしているが、男は何ヶ月振りに飼い主を見つけた愛犬のように喜んで抱きついている。

 すると、ギルドの入り口から男同様の服装にカバンを持った者達が入店してくる。その者達の姿に、複数の冒険者や商人は驚きざわつきだす。それを気にも止めずに、その者達は達也達の元へ一直線に近寄ってくる。そして達也達の前まで来ると、後ろ髪を結び長いポニーテールのようになっている男が、倒れて腰を床についている達也の顔を確認する。

 そして溜息を一つ吐くと、彼は言葉を発する。


「ジャックの声が中から聞こえてまさかと思えば、お久しぶりですね。達也さん」

「よっ……よお信良……久しぶりだな……」


 その時達也の顔は、明らかに困っていた。




 周囲が達也達の方を横目で見ながら、コソコソと話し合う。中にはカッコイイという声も聞こえる。達也とシアは、ジャックと信良と共に一つのテーブルを囲んでいた。その他の0番隊員は近くの席についている。


「しっかりと会うのは……2年振りくらいか?」

「そうですね。俺達がどれだけ貴方を捜したことか」

「わっ……悪かったよ……」


 少々ピリピリとしている信良対し、困惑し縮こまっている達也。向かい合う二人に対し、シアとジャックは二人の間に入りづらく存在が薄れている。


「……そうか。お前が隊長継いだんだな」

「……ええ。貴方が壊滅状態になった0番隊を抜けて空いただけの席ですけどね」

「………」

「別に俺は、隊が壊滅したことを話題に出そうとはしていません。あれはどうしようもない状況でしたから」


 皆が事情を知るその席は、しんみりとした雰囲気が溢れ出す。信良の怒りも、怒りも言うよりはイラついている位のものとなっていた。


「俺が話さなきゃいけないのは、何故貴方の処分が取り消しになったのに、貴方は戻ってこなかったのかということです」

「………」

「壊滅の際の状況を知った本部は、直ちに貴方の処分を取り消しました。貴方が全て責任負わなければいけない訳ではないと知ったからです。

 しかしその時には、貴方は異世界にシアちゃんを連れて旅に出ていた」

「………」


 信良の言葉に、目線を低くし言葉を失う達也。それでも信良は言葉を続ける。


「罪悪感があるのも知っていました。奴を恨んでいることだって知っていました。しばらく一人になりたいと思っていたことだって知っていました。泣いて悲しみたい事ぐらい知っていました。それでも……俺は貴方に戻って来て欲しかったんです。俺や他の隊員にとって憧れであり、夢であった貴方に」

「………」

「だから捜しました。隊長になり、新たな隊員を連れて貴方を捜し続けました」

「……上の奴らは止めなかったのか?0番隊は、異界調査団の最大戦力だろ?それを留守にさせるなんて」

「命令でもあったからです。達也に会い、謝罪をしたいと言う者もいれば、0番隊はアイツに任せたいと言う者。皆…貴方の帰りを待っています」


 この時、達也は初めて気づく。この怒りは、自分に対しての失望などではないこと。本当は怒りを向けたくないのだ。なのにね怒らなければならないという、悲しい感情からでた怒りなのだということに。

 しかし、達也から出る答えは一つだった。


「………俺は戻れねえよ」

「……!?」

「異世界に行ってから、俺の処分が取り消しになったことも、帰還を望んでることも知っていた。でもな……俺には……その席に戻る権利は無い」

「何故です!?」


 怒鳴りをあげる信良。それに他の二人や他の隊員、冒険者達までもがビクッと身体を震わす。


「お前は、俺に全ての責任は無いって言ったな。あるさ、奴が……『異端』のドラゴンが現れたのは………全部、俺の責任さ」

「………確かに、『異端』のドラゴンは間違い無く貴方を標的としていた。俺達にはそれの訳も分からず、そして隊員の多くは、貴方を標的としたドラゴンにより巻き添えを食らったと言ってもいい……しかし」

「それ以上に俺が責任を負う理由なんて無いよ。だから俺は、その席には戻れない」


 何か言おうとした信良を達也が止めると、達也は座っていた木製の椅子からギギッと音を立てて立ち上がる。


「……調査団に戻れば……『異端』のドラゴンも、貴方が捜す例の男も、より簡単に見つかる」

「だろうな」


 その四文字を信良に返すと、達也はシアを見る。


「シア、行くぞ」

「へっ!………はっ……はい……」


 達也の声にシアは慌て気味で立ち上がる。


「………立場に居る以上、その者には責任が発生する。俺はその責任を受けて、自分から調査団を脱退した。それだけのことだ」


 達也はそう言い信良達の元から去ろうとギルドの入り口に向かう。そして信良の横を通り過ぎた次の瞬間、達也の首元を一本の刀が触れる。

 その光景を見た者は皆ざわついた。隊員も、冒険者も、商人も、シアも、ジャックも、皆がざわついた。


「おっ、おい信良!?」

「さっきから何駄々こねたんだよ……」


 止めようとするジャックをよそに、信良は達也に対する紛うことなき怒りを刀に載せる。下手すればこのまま力を入れて、首を切ってしまうのではと誰もが思った。

 取り乱すことない達也に対し、信良は話し続ける。


「責任責任って、俺から見ればアンタはその責任から逃げてるように見えますよ。本当に責任を負うってなら、自分が死なせたと思う仲間のために、調査団として戦うことこそが責任でしょ」

「………」

「この手は使いたくありませんでしたが……仕方ありません」


 信良は達也の首から刀を退かす。そして達也が身体の向きを変えると、信良は怒りに満ちたその表情で若干の躊躇を持ちながら口を開く。


「今から俺と一体一の決闘をしてもらいます。貴方を負かして、無理矢理にでも連れて帰る!!」


 その表情は、決意に満ちたものでもあった。

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