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『世界』と『異世界』  作者: 黒服先輩
第二章 エルフの森
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エルフと異端教


 応接室の中を、達也とランロードの嫌味を言い合うような雰囲気が充満している。


(何ですか………この雰囲気………)

(思い出せば、この二人って良く喧嘩してたなあ………)

(………帰りたい………)


 皆が雰囲気に呆気を取られ、座っている自分の膝に目をやりながらそう心の中で呟く。いや、一人を除いては………。


「やっぱり、二人は仲良いですね」


 空気を打ち砕くような一言を言い放ったシアに、ペリカ含めた全員が瞠目する。

 シアの表情から、それが少女特有の純粋な言葉であることは容易に分かるだろう。しかしそんなことは、二人には関係無かった。


「「良くない!!」」


 二人から同時に言い放たれたその一言。それにシアは全く動じていなかった。


「ほらっ、やっぱり仲良し」

「「………」」


 悪意など微塵も感じられないシアの言葉に、二人は再び目線を向かい合わせ睨み合う。周りはそれをオドオドとした様子で黙っている。


「………おっほん。そろそろ、良いかな?」


 空気を断ち切ったのは、先程から黙って二人の様子を見ていたペリカだった。

 二人も、この城塞都市の最大権力者の一声で流石に静まる。そして、ランロードが一度溜息を吐いて息を整える。


「………では、本題に移るとしよう。この場で話すべき内容は、大まかに分けて四つだ」


 ランロードはそう言うと、肘をテーブルに置き体重をかけて前のめりの体制になる。その時皆、ランロードへと視線を向けていた。真剣になるもの、先程と雰囲気が違うことに驚く者。色々いたが、ランロードはそれを気にせずに話を続ける。


「一つ目として、そこの達也についてのことだが………別にどうでもいいだろう」

「おいこら………」


 静かに怒鳴る達也。


「………真面目な話、達也が異界調査団に戻ってきた場合、入隊は顔パスでオーケーということになっている。だから、今すぐに話さなきゃいけないことは大して無い。

 分かったかな?達也ぁ?」

「あーはいはい、分かりましたよぉ〜………」


 最後の一言だけ馬鹿にしたような喋り方のランロードに、適当な返しをする達也。またこの雰囲気だと、この部屋に居る誰もが思っただろう。


「………二つ目は、異端教の奴らがこの城塞都市に戦争を仕掛けてくるってことだ」

「「!?」」


 その言葉に、ペリカとベルナール以外の者は驚きのあまり、脳内に稲妻を走らせる。その中でも、達也は一見して冷静である。しかし達也の心の中では、何とか抑えきれる程の怒りなどが込み上げていた。


「………どういうことだ?」


 恐らくこの場で最も怒りの感情が芽生えている達也。いち早くランロードにことの概要を聞き出そうとする。


「変に説明するよりも、こっちを見た方がいいだろう………」


 ランロードはそう口にすると、懐から一枚の紙を取り出す。ただの紙ではなく、この時代ではそうお目にかかれない山羊の皮で作られた紙だ。


「皆も知っての通り、この『山羊皮の紙』は異端教が重要な事柄を伝える際に用いる物だ。数日前にこの城に送り届けられた。まあ掻い摘んで言うと、『一ヶ月以内に城塞都市ペリカを征服します』とのことらしいが………」

「………どうしました?」


 言葉に迷ったランロードに、横で聞いていた信良が質問する。するとランロードは、手に持っていた山羊皮の紙のオモテ面を皆へと向ける。

 達也たちがテーブルに身を乗り出し、その紙へと顔を近づける。


「差出人のところを見てくれ………」


 その声の主はペリカ。達也たちは目線を紙の下方へと向ける。同時に、皆を言葉にならない動揺が襲った。差出人の部分には、『異端教六司教 オプファ』とあった。

 ランロードは皆が差出人の名を目にしたことを確認すると、言葉を続ける。


「オプファ………異端教において最も脅威である六司教の中でも戦闘に特化した男だ。魔力を含んだ鎖を使い周囲の敵を一掃し、さらには戦場の全てを見渡し、配下の者達に的確な指示を出すことにも長けた、一人で戦況を変えるような化け物だ。そいつがわざわざ自分でこの紙を贈ってきた。間違いなく、こいつが来るってことになる」

「…………」


 皆が乗り出していた身を元に戻して椅子に背を付けると、皆が言葉を失っていた。いや、言葉など無くとも気づいてしまったのだろう。オプファという男が攻めに来るということが、どれだけ恐ろしいことなのかを。

 皆が全てを察し言葉を失う中、平静を保つ者がいた。いまいち状況が飲み込めていないシア。既に状況を知っているペリカとベルナール、そして…………。


「………三つ目は?」


 達也の言葉である。何一つ動揺した様子を見せていない達也は、ランロードに続きを聞いた。ランロードは、そういう反応をすると分かっていたような反応を見せ、続きを語り出す。


「三つ目は、この件を解決する為に壱番隊、弐番隊、肆番隊がここの異界調査団支部に集結する」


 言葉を失っていた信良達に、希望の光が差し込んだ気がした。少し表情が明るくなる。

 表情が明るくなったのは達也も同様であった。口元に笑みを浮かべている。


「………なるほど、あいつらが来るならかなり楽になるな」

「まあ、六司教がオプファしか来ないとは限らないが………防衛戦になることもあるし、こちらに分があるだろう………。

 まあ、この件に関しては後で支部に行って聞くといい」


 一通り言い切ると、ランロードは一つ溜息を吐く。


「………さて、四つ目の件なのだが――」

「ああ、そういえばまだあったな………」


 ランロードが四つ目の件について切り出そうとすると、それを達也の面倒臭そうな声が遮る。


「既に話したこと以上に、重要な話なのか?」

「いや、異端教に比べたら全然重要なことじゃない。しかし、重要かどうかは問題じゃないんだ………」


 ランロードの言葉に口に食べた唾をゴクリと飲み込む零番隊一行。


「着いて早々だが、お前達には弐番隊と共にある森に行ってもらいたい」

「弐番隊と………ですか?」


 ランロードの命令に、信良は何故?という反応を見せる。しかし少しして、その理由を理解し始めた。


「行ってもらいたいのはここからそう遠くない場所にある『囁きの森』だ。最近そこではオークが目撃されてるらしくてな」

「なるほど………そういうことですか」


 納得する信良。読者も知っての通り、エルフとオークと言ったら同人誌やらその辺りのものがこの世界でも存在する。


「年間、オークやゴブリンによる被害は少なくない。殺されるならまだマシだが………まあ、お前達には何かが起こる前にオーク達をどうにかして欲しいって訳だ。ただ、弐番隊が行くってことで分かるとは思うが――」

「異端がいる可能性があんだろ?」

「………ああ、その通りだ」


 この時点で零番隊隊員は全てを悟る。この任務は、簡単にこうりゃくすることは出来ないものだろうと。


「細かいことは弐番隊に話してある。だから森への移動中にでも聞いてくれ。それと達也」

「あ?」


 名を呼ばれるとガンを飛ばす達也。それを気にせずにランロードは自分の言葉を続ける。


「お前に話しておきたいことがある。信良達には先に行ってもらってくれ」

「…………まあ、別にいいけどよ」


 ランロードの頼みを達也は了承し、信良達に先に行ってくれた告げた。

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