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『世界』と『異世界』  作者: 黒服先輩
第二章 エルフの森
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ペリカ国王と異界調査団団長

 ちょいと今回短いです。


 カツンカツンという足音が、城内に響き渡る。ここペリカ王城の清潔にされた装飾が目立つ白い壁や天井が、足音をより木霊させるのだ。

 広々とした廊下をベルナールに連れられて歩く達也一行。進むにつれ、達也には一抹の不安が頭を過っていた。


(俺が良く知る奴…………まさかな………)


 魔導車の中でのジャックの言葉が達也の脳内を飛び交っていた。それにより、達也は一人の人物の姿を思い浮かべるが、それは違うであろうと結論づける。

 彼にとってその人物とは、会いたくない人物なのか、それとも会えるはずのない人物なのか、どちらにせよ、達也の思考からはその人物が候補から消えていた。



  ■□■□■□



 さてさて、達也たちは城内の中を進んで行くと、一際目立つ扉があった。兵士数名が前に立ち、金や宝石などといった物が装飾として施されている大扉。右と左にそれぞれ施された龍の装飾が、達也たちを虜にさせる。

 ベルナールはそんな達也たちを尻目に、大扉の前に立つ兵士と話していた。少しすると話をつけたようで、その兵士達に扉を開かせる。扉は見た目通りに重い訳ではないようで、兵士二人の力で容易に開いていた。

 大扉が開き達也たちの視界に入り込んできたのは、他よりも明らかに広々とした一室。天井はそこそこ高く、縦に長い一室。その中心には長い木製のテーブルが置かれている。


「………むっ、あの方は………」


 信良が何かに気づく。その何かとは、今自分たちが居るところから最も離れたテーブルの反対側、つまりいえば誕生日席だ。達也たちから真っ直ぐのところで座る、金髪の少し年のいった一人の男だった。

 信良の声によりその男に視線をやった達也。一目で、その男が一介の兵士や執事風情でないことに気がつく。そして記憶の中にあった信良の言葉から、彼が何者なのかを導き出そうとする。


「旦那様。お客人でございます」

「ああ、好きなところに座らせてくれ」

「はっ、分かりました……」


 ベルナールは慣れた会話を交わすと、達也たちをそれぞれテーブルに沿って置かれた椅子に座らせる。皆素直に椅子に座ると、ベルナールは男の斜め後ろに椅子に座ることなく立ち尽くして居る。


「………さて、この度は良くぞ参ってくれてた」


 男はそう一言、温かみのある声で達也たちに言い放った。


「私はこの城塞都市ペリカの王、ペリカと申する者だ。と言っても、君たちは既に知って居るだろうがね………」


 自分の名を名乗ったペリカに達也が最初に思ったことといえば、特にはない。なんせその姿を視界に入れた時にはその男が王であろうことなど、大体想像は出来ていたからだ。

 ペリカの名乗りを聴き終えると、今度は信良が自分の名を名乗り出す。


「俺はこの零番隊隊長、須藤 信良と申します」

「ああ、存じておるよ。零番隊の隊員たちの名は、しっかりとな」


 信良の自己紹介にペリカはそう返すと、話の趣旨を変えるかのように声の雰囲気を変える。


「………私が気になっているのは、そこにいる二人だよ」


 そう言うペリカの視線の先には達也とシア。


「詳しくは聞いていないが、少しは覚えているよ。数年前、同じく零番隊で怪物並みの強さを誇る男がいたと………。そしてその男が少女を連れていたと」


 達也に聞こえるように思い出しながら語りだすペリカ。それに対し達也は表情を変えた。真剣な話をする時のように。


「………御察しの通りですよ。俺は寺田 達也。こっちはシア。俺は貴方の記憶通り元零番隊隊長で、コイツは、まあ………魔法使いですよ」


 仮にもこの城塞都市ペリカの王である男を前にしているとは思えない、大雑把な態度。しかし達也も、何も礼儀を弁えていない訳ではない。ペリカの言動に対した、適切な態度だと思ってのことだった。

 ペリカは達也の態度の意味をしかと受け止めると、フッと小さく笑いを漏らした。


「そうか………元零番隊隊長と魔法使いか………。まあ、今はそれで良いだろう」


 何かを察したかのような意味深な言葉に、達也も自然と口で笑みを作る。


「………とりあえず、自己紹介はこれぐらいで良いだろう。重要なのは別のこと、なのだが………」


 ペリカの言葉が途中で止まる。


「どうしました?」

「いや、来てくれたところを悪いのだが、少しだけ待っていてくれ。何せ君たちに………いや、君に用がある男がまだこの場に居ないのだな」


 問いかける信良にペリカはそう言いながら、達也の方に目をやった。そして達也はペリカが言う男が、ジャックの言っていた者であることを察する。

 察すると同時に、その男の正体を余計に気にする達也。餌を目の前に吊るされた犬の如く我慢がきかず、ペリカへと質問をする。


「………その男ってのは、どんな奴なんですか?」


 達也の問いにペリカは一瞬言葉に迷うも、直ぐに言葉を選んで応える。


「………なに、私の記憶が正しく、君が寺田 達也だと言うのなら、彼のことは私よりも君の方が詳しいはずだよ」

「………?」


 ペリカの言葉に、軽く首をかしげる達也。

 その時、応接室の扉をコンコンと叩く音がする。部屋の中を木霊する音に、皆がそちらへと視線をやると、扉が部屋の内側へと開く。


「………ゲッ」


 皆同様、扉の方へと目線をやる達也。すると反射的なまでのレベルで、嫌いな食べ物を目の前にして座った子供のような苦い声を上げる。


「ゲッとは失礼だな。それが友人に放つ声か?」


 扉から部屋の中へと入ってきた男は、自分に向けられた達也の声に慣れたように返す。金髪パーマに整えられた顔、そして達也と零番隊員の皆が見慣れたような服装の男だった。腰には高級感溢れる装飾の施された剣が下げられている。

 男はペリカのすぐ横にある椅子の前まで歩くと、その椅子に座らずに足を止める。


「皆知っているだろうが、ここは名乗っておくべきだろう。俺は異界調査団団長、ランロード・クロウズ。

 ………それともお前には、元一番隊隊長ランロードと名乗るべきかな?………達也」

「………ああ、そう言うことかよぉ」


 ランロードと名乗る男。その自己紹介に達也は動揺する様子を少し見せていたが、直ぐな平静を取り戻し、全てを理解する。


「俺に用があるってのは、お前だったって訳かよ、ランロード………いや、団長さん」

「そういうことだよ、達也………いや、元零番隊隊長さん」


 二人が合わせる目線の間に稲妻が走っていることは、この室内に居る者全てに明らかだった。

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