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『世界』と『異世界』  作者: 黒服先輩
第二章 エルフの森
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ペリカへの道のり


 達也が零番隊に再び入隊してから、数時間も経っていないだろう。心地よい風が吹く草原の午前十時、達也の前には、信良とジャック以外の五人が、僅かな緊張を抱きつつ立ち並んでいた。


「では、隊員として、改めて自己紹介をするとしましょう」


 そう口にしたのは信良だった。どうやら既に行った自己紹介を、新たな仲間を迎い入れるということで行うようだ。

 誰が真っ先に自己紹介という少し恥ずかしい行為を行うか、そう思っている達也の前に一歩踏み出したのは、キツネ目が特徴的な男だ。


「せっ、瀬川 武蔵ッス。知っての通り戦闘の係をしてるっス!よろしくっス!」

「ああ、よろしく」


 武蔵の元気ある言葉からは、彼がこの隊のムードメーカーであることが分かる。しかし同時に達也は、彼が信良よりも年上であるということと、武蔵という力強い名前からは想像できない飄々とした容姿に、多少の驚きを感じていた。

 表情の表に出す程の驚きではないようだが、どうも脳裏からその疑問が離れて行かない。不思議なものだ。


 続いて達也の前に歩み寄ったのは、背丈が達也よりも頭二つ分近く低い少女だ。よく見ると、耳が少し尖っているのが分かる。


「ゆ……夢乃……エリスです……。

 よろしく………お願いします」

「よろしく。(そういえば、最初に自己紹介した時もこんなだったな。たしか、エルフとのハーフか)」


 エリスの姿を見た達也の脳裏に思い浮かんだのは、ギルドの裏手で皆が自己紹介をしてきた際、一人だけ建物の影に隠れていたエリスの姿だった。臆病な性格と人見知りが合わさっており、拾ってきた子犬みたいになっている。

 彼女曰く人間とエルフのハーフで、いわゆる第二世代だ。魔力の容量が多いのだという。そのためか看護の係をやっているようで、なんでも最年少での異界調査団入隊で、回復魔法の精度はトップクラスらしい。


 次も再び女性だった。しかしエリスと違い臆病な性格を見せる素ぶりを見せず、とても落ち着いている。


「東城 灯――隊長や副隊長のアシストなどを担当させていただいております。まだまだ未熟者ですが、より皆さんのお役に立てるよう、努力する所存です!」

「………ああ、よろしく頼むよ」


 一見して真面目そうに見える彼女に、少し謙虚気味になりながらも達也は返事をする。

 達也はゴブリン達と彼女の戦いを目撃しており、その誠実な戦いぶりを頭の中で評価していた。それと同時に、その戦い方から欠点も見出していた。


(………まあ、それを教えるのは後か………)


 達也は彼女の欠点を口にするのを留めて、後へとまわす。



「富田 圭介です。ライフルでの援護を担当させていただいてもらってます」


 次に紹介してきたのは、他よりも身長が低めの男性だった。どれほど低いかというと、女性陣とほとんど差がないくらい。それによって、達也は自然と見下ろす体制となる。


「………よろしく。そういえば、ゴブリン達を建物から攻撃してたな」

「はい。いつもあんな感じですが………何か?」

「いやっ、なんでもない……」


 灯同様に何かを言いかけたが、それを口にするのを止めた。今話したところでどうにもならないからだろう。



「んで………あともう一人………」


 達也はそう呟きながら軽く辺りを見渡す。それもこれも、隊にはもう一人居たはずだからだった。見渡すも叶わず見つからないもう一人、どこへ行ったかと思い不意に背後を振り向くと、そこには一人の人物が居た。


「うおっ!」

「………」


 白い布が顔をカーテンのようにして隠しおり、その人物が男か女かすら判別するのは容易ではない。しかし、デカイ。身長にして2メートルはまずあるだろう。そこから達也は男と予想するも、等の本人が無口な為に答え合わせも出来はしない。

 困り果てている達也に、信良が話しかける。


「コイツは岸田ですよ。主に情報の伝達、要請などをやってもらってます」

「はー………勤まんのか?」


 達也がそう口にするのも無理はない。なんせ情報を取り扱う係は、会話能力も案外重要だろう。無口で見た目すら分からぬ者に、その係が勤まるのか?当然と言えば当然の疑問であった。


 さて、一通り自己紹介が終わると、信良は自分のカバンの中から丸められた一枚の用紙を取り出す。特殊な魔法式が描かれたスクロールだ。

 信良はスクロールを広げ草木が薄く生える地面に置くとそこから少し離れ、明らかに日本語ではない言語の呪文を唱える。すると次の瞬間、そのスクロールの上に辺りから風が集まっていき、そして眩い光を発する。

 光が止むと、そこにあったスクロールは跡形も無く消え、代わりに0番隊員全員が入りきる広々とした車が出現した。魔導車だけあって浮いている。


「これで、さっさとペリカまで行くとしましょう。全速力で行けば、一時間もかかりません」

「そーだな………よし、乗るか」


 達也に続いて全員が車内に乗り込む。運転席と乗車席には武蔵と圭介、そして向かい合わせになるように設置された椅子に達也、シア、信良、ジャック、灯、エリス、岸田が座る。

 皆が乗ったのを確認すると、車はゆっくりと加速を付け、ペリカへと向かっていく。内部の揺れは少なく、広々とした室内。そしてまだ暫くかかるであろう時間が、彼らを夢へと誘う。


「ふあぁぁぁ………」


 不意にあくびを口から出す達也。それを見たシアがクスリと笑い、信良が心配する。


「達也さん、やっぱり疲れてるんじゃないですか。まだ時間あるんで、寝ていてはどうですか?」

「………ああ、そうさせてもらうよ………」


 達也はそう言い残すと身体の力を抜いて目を瞑り、夢の世界へと落ちていった。


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