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『世界』と『異世界』  作者: 黒服先輩
第一章 隊長の帰還
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襲撃の後


 達也がゴブリンキングにトドメを刺したことで、ゴブリン達の襲撃は幕を閉じた。実際のところ、ゴブリン達はまだまだ生き残っていたのだが、ゴブリンキングの撃破を知るとともに戦意を喪失し、素直に森の方へと帰っていった。それで見逃すのもどうかと達也達は思っていたが、倒壊した建物や建造物、飛び散った血などの掃除等がある為、致し方のないことだろう。

 さて、今回の襲撃を阻止した達也と0番隊員には町から多大な感謝が贈呈された。もっとも、皆が受け取らなかった為に感謝の気持ちだけが贈られたのだが、本当なら港町だけあって、新鮮な海産物やら高価な物など、様々な物が貰えたに違いない。



「………それでは、俺たちは行くとします」

「はい。この度は本当に、ありがとうございました!」


 町の入り口となる門の前では、町を去ろうとする達也達と、それを見送る町の人々、ギルドの方々の姿があった。

 感謝の気持ちを表に満遍なく出す彼らの姿に、達也達はいえいえといった姿勢で応える。しっかりと相手の気持ちを自分の心で受ける、相手に失礼だと思わせない受け方だ。


「もしまた近くへ寄ったら是非、お越しください。おもてなしは怠らない所存です」

「えぇ、もちろん」


 達也はその言葉と共に、町に背を向けながら歩き出す。そして身体をひねり背後を見ながら、町の人々に手を振るのだった。その行動は、シアや0番隊員達も同じである。

 町の人々が見えなくなるまで彼らは手を振り続けた。それは町の人々も同様で、彼らの姿が見えなくなると、手を振るのを止めて、感謝を胸に抱きながら自分の仕事に戻るのだった。


 町を去ってから歩き始めてしばらく経つと、達也は足取りを止めた。それを見ると、他の者達も自分の足取りを止める。

 すると達也は背後を振り向き、達也の背後を歩いていた0番隊員達を見る。疑問を抱いているような顔で。


「………んで、お前達はなんでついてきてる訳?」


 突然ぶつけられたその質問、しかしそれに困ったりすることは無く、冷静に信良が答える。


「言ったでしょ、俺たちは貴方を探して行動しているんです。あの町に止まる理由はありません」

「まあ………そうだろうけど………」

「………はあ」


 信良は達也の問いに答えると、軽くため息を吐く。そして真剣な眼差しで達也の目を見つめ、口を開く。


「………あれから俺たちは話し合いました」

「あれから?」

「ゴブリン達の襲撃が解決した後です」


 信良は脳裏に、ゴブリンキングに倒された時の自分の姿、それを倒し無事に戻ってきた達也の姿、その後隊の皆と話し合った光景が映し出されていた。


「結果だけ言えば、俺たちは自分達の問題を自分達で解決することを諦めたことになります。結局は、貴方に問題の綱を投げているんですから」

「……?」


 信良だけでなく、隊の皆の表情が真剣になっていた。ジャックの表情は真剣とは少し違ったが、多少は真面目になっているだろう。


「……簡潔に言います。達也さん、俺たちの………いえ、貴方の0番隊に戻ってきてはくれませんか?」

「………」


 達也が既に聞き慣れたであろうその言葉。しかし、ギルドで聞いた時とは、言葉の重さが違かった。それに気がついた達也は気持ちを切り替え、相手の言葉をしっかりと受け止める姿勢になる。


「恐らく俺たちだけでは、ゴブリンキングをどうにかすることは出来なかったでしょう。ギルドの冒険者達の力を借りても、アレを倒すのは難しかったと思います。

 しかし、貴方はアレを倒してしまった。それもほとんど一人でだ」

「………」

「異界調査団には強者(つわもの)は沢山いますが、アレを一人で倒せるのはせいぜい、局長とハバキさん、あとは花月さんくらいでしょう。

 その点を踏まえても、やはり達也さんは異界調査団に必要な存在だと言えます」

「だから俺に、隊に戻れと……?」

「はい。ですが………」


 信良は一瞬言葉に悩むも、即座に頭の中でまとめ、それを口にする。


「………ですがそれは、貴方に頼り過ぎている。それでは俺たちは弱いままで、0番隊を名乗ってなどいられない。俺たちは今よりも強くなって、0番隊という看板を堂々と掲げられる存在でなければならないんです。

 ですから達也さん。これは隊としてでなく、人としてのお願いです」


 それと同時に、信良は深く頭を下げる。その行動に驚きの表情を見せる達也とシア。


「達也さん、俺たちを………0番隊を強くしてはくれませんか?期間は貴方が目的を達成するまで、『異端』のドラゴンを見つけるまでで構いません。それまでの間だけ、隊に戻ってきてはくれないでしょうか?」


 絞り出したような力強さを感じられるその言葉、対し達也は言葉を発することなく、ただ信良の頭を下げた姿勢を見つめ考えていた。

 そこからの静寂は、時間にして五秒もかからなかったが、信良には何分も立ったような実感があっただろう。達也は信良の頭をポンと優しく叩き、顔を上げろと言う。素直に従い信良は顔を上げ達也を見ると、達也は口をしばらく閉じていたその口を開く。


「……一応聞いておくが、俺が戻ったとして、俺に特はあるのか?」

「はい。『異端』のドラゴンについて異界調査団が掴んでいる情報、設備の自由利用など、隊員として当然のことから、最大限のことをするつもりです」

「………」


 頭をポリポリと掻き悩むような姿勢を見せる達也。シアがそれを見つめている。


「………はあ」


 達也はため息を一つ吐くと、決心したように目を変える。変えたと言っても、達也を知らない人には分からない、小さな違いだ。


「………まあ、特が無くても、答えは変わんないんだけどな」

「………えっ、それじゃあ………」

「奴を見つけるまでだ。それまでの間だったら、戻ってやるよ……」


 達也がその一言を言った途端、隊員達が目を輝かせる。それは信良も同様だった。


「たっ………隊長………っ」

「おいおい、隊長はお前だろうが」


 反射的に出てしまった信良の言葉を、達也が正す。信良は嬉しさのあまりか、若干涙目だ。


「んじゃ達也さん。早速近くの拠点まで行きますか?」

「ああ、出来ることならそうしたい」


 その光景を見ていたジャックが、達也に軽い口調で問う。対し優しく答える達也。信良もそれを聞くと、達也に提案のようにして言う。


「では、ペリカに向かうとしましょう。一番近い拠点がありますし。それに………」

「ん?どうした……?」

「いえいえ、なんでもないです」


 何かを隠すような信良に達也は疑問に思うも、今は問題ではないとして流す。

 こうして達也は0番隊に一時的に戻ることとなり、異界調査団の拠点の一つがある小国、城西国家ペリカへと向かうことになる。そこではある人物がいるのだが、それはまた後の話で知ることになるだろう。

 また、達也が0番隊から再び脱退するのはそう遠くない話になるのはそう遠くない話ではないのだが、それもまた、後に知ることになるだろう。



 次回、二章に突入する。

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