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『世界』と『異世界』  作者: 黒服先輩
第一章 隊長の帰還
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白い花園は闇を咲かす


 空は青く澄み渡り、辺り一面に白いユリが咲き誇っていた。地平線の彼方まで咲くユリと青空の二色ばかりのその空間に、達也は手に何も持たずにポツリと佇んでいた。


「…………」


 言葉は発さずに辺りを見渡す。見渡したところで、全方位同じ風景なのだが、達也はただ一つの方向を見つめ、両手を両ポケットに詰めてなんの迷いも無く歩き始める。

 歩み進めるその足からは、ここを歩くことが初めてではないということが分かる。地面に少しの抑揚があるだけで建物は何も無い、コンパスなどがある訳でもないのに歩き続ける達也。すると何故だろう、何も有るはずもない無限に広いその花園に、木製の円形テーブルと二つの椅子がポツンと置かれていた。

 白い花園に目立つ薄茶色。しかし達也にはそのテーブルと椅子よりも、その椅子に座りながら紅茶を口に運ぶ一人の少女の姿に目がいった。

 薄桃色の髪が腰近くまで伸びており、露出が少なく優しい色を基調とした服を見に纏う色白の少女。まるでこの花園の妖精なのではないかと思える彼女に、達也は近寄っていく。


「紅茶とは、珍しいな」

「……そう?」


 少女に歩み寄りながら声をかける達也。それを耳に入れると少女は横目で達也を見ながら、疑問を抱いたような声で問い返す。

 達也は少女の座っている椅子と向き合う位置に座り、右肘をテーブルについて手の甲で頬杖をつく。そして、先程の会話の続きとなる。


「お前は紅茶とかよりも、もっと甘いのが好きだったと思うけどなぁ」

「もちろん甘い方が好きだよ。でも………」


 少女はその小さな手で紅茶の入ったカップを手に取り口に運ぶと、受け皿に置き息を吐くと、達也を見つめて一言。


「大人っぽい……でしょ?」

「相変わらずお前の大人っぽいハードルは随分と低いな」


 達也はそう口にしながらテーブルに置いてあったカップとポットに手をかけ、自分のカップに紅茶を注ぎ、それを口に運ぶ。


「……ん?ミルクティーか」

「………」


 少女は紅茶を飲む達也のことを見つめ続けている。その顔はあどけないものだったが、僅かながら真剣さを感じられた。


「今日はお話をしに来た訳じゃないでしょ?」

「………さすが、お見通しか」


 少女のその言葉に一瞬笑みを浮かべる達也。カップをテーブルに置いてある受け皿に置くと、同様に真剣な表情になり、会話を続ける。


「異端化した魔物だ。危険度は最低でもSSクラス、さらに黒装まで扱える。ハッキリ言って勝てる相手じゃない」

「………」


 声を出すことなく達也の話を耳に入れる少女。聞き逃さぬよう達也の言葉を聞くことに集中している。


「今はシアに結界を張ってる訳でが、当然それだけじゃどうにもならない。だからまあ………言わなくても分かるだろ?」

「………うん」


 少女はコクリと頷くと、椅子から立ち上がり、達也に触れられる距離まで歩み寄る。近寄ればその身長差がよく分かるが、少女はそれにはむかう様に背伸びをし、達也の服の胸ぐらを両手で軽く握り締め達也の上半身を引き寄せる。


「目には目を?」

「そゆこと………悪いな、今日は長く居れなく――」


 達也が少女に詫びを入れようとしたその瞬間、少女のぷっくりとした小さな唇がチュッと音を立てて達也の言葉を遮る。

 時間にして3秒も経たずに少女は唇を達也から離し、少しだけ頰を赤らめていた。


「達也から謝罪は聞きたくない………」

「………ああ、そうだったな」


 達也は懐かしむ様な顔をしてそう応えた。その直後に辺りから黒いオーラ状のものが現れ、達也に集まっていった。その黒いものは達也の両手足や胴体に纏わり付いていき、達也を覆い尽くしていった。


「また……会いに来てよ」

「ああ、もちろん」


 少女の声と共に、達也の視界は底知れず深い黒に染まっていった。




 場面は再び、達也とゴブリンキングが結界内で向かい合う状態に移る。鞘から刀身を引き抜き、自分の辺りを黒いオーラで覆い尽くさせる達也。

 達也のその姿にゴブリンキングは、咄嗟に感じ取った疑問を口にすることしか出来なかった。


「何故……貴様がそれを使える……?まさか貴様、既に異端――」

「口動かす暇あるなら手ぇ動かせ……!」


 ゴブリンキングが呆気に取られているその時、黒き衣を纏い死角である懐に潜り込む達也の姿があった。

 前動作など確認できない刹那の動きにゴブリンキングもどうにか反応しハルバードによる薙ぎ払いを放つ。咄嗟でありながらも正確に達也を捉えたその一撃、威力からして、当たれば重症必死であろう。

 達也にハルバードが触れるその刹那、ゴブリンキングが両手で持つハルバードの持ち手が綺麗な切り口を残して真っ二つに叩き切り、そのままゴブリンキングの胴体に大きな切り傷を作り出す。


「グガッ………!?」


 ゴブリンキングの赤黒い血は達也に返り血として飛び散り、攻撃の勢いによって無理矢理に後退させられる。

 後退したゴブリンキングの傷口は即座に血が止まり皮膚が被さっていくも、その表情には焦りの色が見えていた。


(コヤツ………武器もろともワシにダメージを与えるとは、まさか…………いや、そんな事を考える場合ではない!)


 手に持ったいた武器を煙のように消し去ると、ゴブリンキングは再び右手に黒いオーラを集め、形にしていく。


(いくら壊されようと折られようと構わん。手段は無限に――)


 その時、ゴブリンキングのたくましい右腕は、血飛沫を豪快に上げて達也の刀に切り落とされる。何が起こったのかも分からずうろたえるゴブリンキング。それに対し達也は、休む事なく攻撃を加え続ける。

 ゴブリンキングは必死に切り落とされた右腕を再生しようとするも、再生が間に合う事は無かった。胴体手足に次々と傷を増やされ、殴りかかろうと振り上げた左腕をすらも切り落とされる。そして、ゴブリンキングは理解し、対抗しようとする自分の肉体を止めた。同時に達也も攻撃の手を止めると、ゴブリンキングは残った両足の膝を地べたに落とし、座り込む。


(………間違いない。コヤツのこの姿は、ワシ同様、いやそれ以上の『黒装』……)


 達也が近寄り刀をゆっくりと振り上げる中、ゴブリンキングの脳裏には先程自分が言い放った言葉が浮かんでいた。それは、何故本気を出さないのかと問うたあの時。


『周りに見られたくないか、本気になると理性が保てなくなるか、はたまた既に全力なのか――』

(あの時のワシは何とも愚かなことか……。コヤツに全力など、出させてはいけなかったのだ。コヤツは、ワシなど比べ物にすらならない程の………怪物……いや)


 ゴブリンキングはフッと笑いをこぼすと、刀を振り上げた達也を見つめ、諦めたような声で口にする。


「バケモノめ………」

「ああ、よく言われる」


 達也はそう返すと、振り上げた刀に黒いオーラを纏わせ、禍々しい音を立てて叩き落とす。同時に結界内は黒く包まれ、斬撃の方向にある結界の面が破壊される。


 結界は消え去り、斬撃によって上がった膨大な量の砂埃が溢れる。そこには割れた地面と、達也の姿だけが残されていた。

 達也に纏わり付いていた黒いオーラは跡形無く消え去り、刀の刀身は鞘に納められていた。


「アンタ……強かったよ。久しぶりにコレ(・・)を使っちまった……」


 達也はそう口にすると、既に消え去っているゴブリンキングを見下ろす。


「………別に俺は、この力を気に入ってる訳じゃない。使う度に自分が何かに呑まれていくんだ。好きである筈がない。

 ………ただ、俺はアイツ(・・・)を救う為なら、自分なんて捨てて、バケモノにでも悪党にでもなってやらあ」


 そう吐き捨てると、達也は信良達の待つ場所へと歩き去って行った。



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