表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『世界』と『異世界』  作者: 黒服先輩
第一章 隊長の帰還
16/28

黒装


 肉体はより黒く、凶暴なその姿は、周囲の空気を厚く重たいものへと変えていく。達也もそれを感じ取ると、『黒装』と呟く。それに対し、ゴブリンキングは少し驚いた反応を見せ、ノイズのかかった声で語り出す。


「『黒装』、異端化した者だけが扱える禁術。一時的に自身の限界を引き出し、戦闘能力を格段に上がることが出来る。

 しかし、代償は大きい。限界使用時間を過ぎてしまえば理性が崩壊し、死ぬまで暴れ続ける怪物になるか、あるいは肉体を壊ししに至るか、どちらにせよ、ロクなことにはならないが――」


 ゴブリンキングは続いて何か口にしようとしたが止め、肉体に比例して大きくなった手を人を指す形にし、左手を刀身を収めた鞘に掛けている達也を指す。そして怒鳴るように声量を高くし、達也に問いかける。


「何故貴様が『黒装』について知っている?貴様ら異界調査団が既に情報を掴んでいるのか?それとも貴様だけか?

 まあ何にせよ、ワシがこの姿になったのは貴様の本気を引き出させる為だ。簡単には折れてくれるなよ」


 その言葉の終わりにゴブリンキングは右手の拳を握り、地面に付ける。するとそこに黒いオーラのような物が集まり出し、次第にそれは形となっていく。

 持ち手は細長く、刃があることから長い斧にも見える形状。


「……ハルバードか」


 達也のその言葉通り、ゴブリンキングが作り出したのはハルバードだった。しかし、先程手元に集めていた黒いオーラのようなもので作られているからか、この見た目は光が全て飲まれてしまうほど黒く、黒い煙が湯気のように上がる。


「ここからは出し惜しみなどせぬぞ」


 一言、ゴブリンキングはそう呟く。その言葉と共にゴブリンキングの姿は大きな足跡と風圧を残して消える。

 構えることなく身体の面で風圧を受ける達也。髪や服が強くなびく。しかし達也はそれを気にせず、何を思ったか背後に目線をやると鞘から刀の刀身を抜き、足に体重をかけそのまま振り向き、下からの居合を放つ。

 身体の勢いをつけて繰り出すその業は、何も無い筈の背後にから放たれるハルバードの突きを打ち叩き横に逸らす。発せられた衝撃波が、再び辺りの周囲の建物をきしませる。

 達也の攻撃は、間違いなくハルバードを横へと逸らしていた。しかしハルバードの持ち主であるゴブリンキングは突きが逸らされたのを確認すると、即座に力の方向を変え、突きを薙ぎ払いにへと切り替える。先程よりも遥かに重いその薙ぎ払いは達也を横にあった建物へと最もたやすく、まるで野球ボールのように吹き飛ばす。


「グッ………!?」


 誰にでも威力が上がったのは一目瞭然であり、吹き飛ばされた方向にあるレンガ造りの建物が倒壊すると同時に轟音と煙が上がる。


「ッ………こりゃちょいとヤバイか――」


 瓦礫に身体の一部が埋もれている達也、立ち上がろうとしたその時、ゴブリンキングの右足の飛び蹴りが達也を襲う。

 咄嗟に反応するも受け止めること叶わず、そのまま建物の外へと蹴り飛ばされる。

 外の小道に身体を打ち付ける達也。即座に手に持った刀を道に叩きつけ立ち上がる。しかし休む暇を与えることなく、ゴブリンキングのハルバードから繰り出される攻撃が達也を襲う。

 上下左右から無駄なく繰り出されるその攻撃に達也は防御に転ずるも、速度威力共に上昇したまるで嵐のようなその攻撃を完全に受けきることが出来ず、押され気味である。


「どうしたどうしたぁ!!貴様はその程度かぁ!?」


 達也とゴブリンキングの武器がぶつかり合う音と、その際に発せられる衝撃波の音に邪魔されながらも聞こえたその煽りは、達也を焦らす。


(マズイな………このままじゃ相手のペースだ。

 ………あまり使いたくはないが、やむおえねえか)


 すると達也はゴブリンキングの攻撃に生まれた一瞬の隙を利用し背後へとステップをしてゴブリンキングから距離を取ると、力に任せ勢い付けて刀の刀身を叩きつけ地面を叩き割る。

 刀を中心に発せられた衝撃波が地面を伝い、それに沿って風と叩き割った地面の煙が巻き起こる。

 煙が風に乗ることで煙は辺り一面を包み込み、両者の視界は灰色一色に染まる。


(目くらましのつもりか………?)


 辺りを見渡すゴブリンキング。しかし当然見えることはない。更には煙により嗅覚も封じられ、達也の姿を捉えることが出来なかった。


「こざかしいぃぃ!!」


 両腕に力を込め、ハルバードによる薙ぎ払いを放つ。狙いを絞ることなく、単純な力任せのその威力に重視した薙ぎ払いは煙幕となっていた煙を払い、灰色の中から港町の風景を再び引きずり出す。


「………ムッ!?」


 灰色の中から現れた達也。その達也の前に現れた、大人一人分ほどの大きさの魔法陣。それを視界に捉えると、ゴブリンキングは即座にハルバードを構える。その行動からあまり時間をかけずして、魔法陣は眩い光を発する。


(あの煙幕は魔法陣を描く間の時間稼ぎか……!)

「『地龍の咆哮(ドラゴン・ブレス)』!!」


 達也がそう唱えると同時に、魔法陣の輝きが中心に集まり、その輝きが再び魔法陣一杯に広がるとそれが大きな咆哮となってゴブリンキングに勢い良く襲いかかる。

 風を破るその咆哮は轟音と共に射線上の道をえぐる。即座にゴブリンキングは当たると危険だと判断し、足元に力を込め地面を一蹴りし、咆哮を間一髪で横へと避ける。咆哮はそのまま一直線に突き進み、空の方へと薄れていった。


「………ハハッ、どうやらそちらの奥の手、失敗に終わったようだなぁ」

「………」


 笑みを浮かべるゴブリンキングに対し、達也は顔を暗くして黙り込む。


「そう落ち込むことではない。貴様は良くやった。しかし、ワシの方が一歩上手だったということだよ。さてそろそろ終わりにしよう」

「………ああ、そうだな」


 そう一言返す達也。その一言が言い終わると共に、前動作無くゴブリンキングに突っ込む。刀を納刀し、居合の構を取りながら突っ走る達也を前に、ゴブリンキングの呆れの感情が芽生えていた。切り札も封じられ、単純な力勝負でも勝てない達也に勝機は存在していない、そう思っていた。だからこそ加減をすることなく、これ以上目の前の人間が悪あがきを出来ぬよう、完全に仕留めにかかった。

 姿勢を低くし、全体重を両足にかけるゴブリンキング。黒いその足裏が触れている地面が小さくひび割れたクレーターになっていることから、体重のかけ方が伺える。

 ハンバードで突きの構をとり、勝機の無い一人の人間が自分の前まで来るのを待つ。まるで狩人のように獲物を狙うゴブリンキング。それに対して達也は躊躇することなく、ゴブリンキングの間合いに入った。


(終わりじゃ………!)


 貯めた力をハルバードに乗せ放つその一撃は、達也を完全に捉え、一直線に放たれる。

 達也にその一撃が直撃するその刹那、ゴブリンキングの視界に映る達也の姿がグニャリと歪み、そのまま攻撃をすり抜ける。ハルバードには風を切ったような感覚が残っており、そこに達也の姿は残っていない。


(消えたっ………訳ではあるまい!)


 ゴブリンキングは驚きながらも直ぐに自分を落ち着かせ、反射的に背後を振り向く。そこには、先程魔法陣から放たれた咆哮が消えていった向きに向かって走る達也の姿があった。

 刀は鞘に納めており、姿勢を少し前に屈めて全速力で走る達也。ゴブリンキングはそれを目撃すると、同じように姿勢を屈め追いかける。


「逃すと思うか!?」


 『黒装』により速度も上がっているゴブリンキングの歩幅は大きく、距離が離れている達也に直ぐにでも追いつきそうな勢いだ。


(奴は恐らく、攻撃が当たる瞬間にスライディングをし、あたかも姿が消えたように見せたのだろう。人間ながら良くやるものだ……)


 達也を追いかけながら、先程何が起きたのかを考えるゴブリンキング。その時彼は心中で達也に対する賞賛を思い浮かべていた。しかしそれと同時に、呆れを通り越した怒りを抱いていた。


(………負けを確信し逃げるとは、無様なものだ。やはり貴様は、ワシがこの手で仕留める必要があるようだな)


 弱者に対しての怒り、それは強者が当然のように抱く物であり、それは弱者から見れば驚く程に理不尽なものだ。

 ゴブリンキングは戦う者に怒りを抱く訳ではない。ただ、死への恐怖を感じた途端逃げ出す半端者が許せないのだ。




 しばらく追いかけていると、達也が立ち止まる。同時にゴブリンキングも足を止め、辺りを軽く見渡す。


「ここは――」

「ギルドの裏手の広場だ」


 状況を把握しようとするゴブリンキングに、達也がそう告げる。ここは昼間に達也が信良と決闘を行なったあの広場。今は集まっていた野次馬の気配など微塵も無く、達也とゴブリンキングの暗い静寂に佇んでいた。


「ここなら邪魔者は居ないし、壊す物もあまり無いだろうと思ってさ」

「なに……?」


 達也の言葉に一瞬戸惑うゴブリンキング。その時、巨大な円形が地面に光を発して浮かび上がり、達也とゴブリンキングを包み込む。


「ッ………これは!?」

「国全体を包み込める程の大規模結界さ。もっとも、強度を上げるために小さくしてるけどな」


 達也の言葉通り、両者を包み込むのは結界だった。半径二十メートル程の球体が被さったようなその結界は不思議なことに中から見るとその存在が確認できるが、外からだと二人の姿を捉えることが出来ない。


「この結界は外と完全に隔離されている。もし誰かが来ても、俺たちが居るってことは分からねえよ」

「………ほう、つまりワシは、貴様に誘導されたということか。とすると、先程のあの魔法は仲間に位置を知らせ、この結界の準備をさせるためだろう?これ程の結界をなんの準備も無く作れる訳がない。そしてその仲間によってワシを倒させる。違うか?」

「いやいや、ご想像通りだ。ただ一つ、違うところがあるがな」


 達也はそう言うと共に腰にかけていた刀の鞘を左手に取り、自分の目線に来るまで持ち上げる。そして右手を柄にかけ、ギュッと握り締める。


「お前を打ち砕く奴は、目の前に居るだろ?」

「なに………?」


 カチャリ


「――『黒装』」


 カチャリと音を立て柄を引き上げ、黒いオーラのようなものを纏った刀身が露わになった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ