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『世界』と『異世界』  作者: 黒服先輩
第一章 隊長の帰還
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強者達の集い、


 須藤 信良は、いわゆるエリートであった。達也と同じ隊に所属するがために実力を身につけていった彼は飲み込みが早く、瞬く間に0番隊員へと上り詰めた。才能である。

 しかし、辺りは彼のその才能を羨み、嫉妬した。よって彼は孤独となり、たった一人で男の背中を追い続けた。強き者は孤独であるという言葉があるが、このことだろう。結果として信良は短期間で0番隊へと入隊する。

 だが信良は、0番隊に居ることで理解していく。自分が井の中の蛙であったことを。世の中には、自分などちっぽけに思えてしまう程の強者(つわもの)達が居るということを。そして彼らが、決して過信しないということを――――。



 達也の居合の構えからの斬撃と、ゴブリンキングの槍から繰り出されらは横振り。両者の一撃から発せられた衝撃波が辺りの者達を数歩後退させる。

 ゴブリンキングの一撃は、先程の信良との戦闘とは比べ物にならない重みを出していた。直接攻撃を受けていない信良にまでそれが伝わってくる。しかし、信良はそれ以上にあることに驚いていた。


「たくっ、重てぇなあ!!」

「ヌゥッ!?」


 達也はその攻撃を斬撃で受けきり、そのまま弾き返す。ゴブリンキングはそれを見ると背後にステップをとり、身体の重みで姿勢を低くする。

 見計らったように達也は刀を鞘に収めると、風の抵抗を受けぬよう姿勢を低くしゴブリンキングの懐へと走り込む。

 即座に反応し槍で薙ぎ払うゴブリンキング。しかし達也はスライディングにより槍を交わしゴブリンキングの腹の下に潜り込むと、腹部に強烈な柄当てを与える。


「グフッ――!?」

「――『地槍樹(アース・ランス)』」


 動きを止めることなく達也が呟くと、ゴブリンキングの懐に伸ばしていた右足付近の地面から岩の混じった太い槍状の土を小範囲に高く盛り上げる。それも数本も。

 勢い良く盛り上がった土はゴブリンキングの腹部や腕などを突き、その勢いで空中へと吹き飛ばす。


「なっ、この魔法は――」

「『地槍樹(アース・ランス)』だ」


 驚きのあまり声を出すゴブリンキングに対し、その光景を見ていた信良は冷静に口にする。


「達也さんの得意魔法だ。魔力消費が少ない割に、非常に威力がある。ただ………」

(ダメージを与える為ならより魔力を注いで放つ筈。つまりこれは攻撃ではなく――)


 信良とゴブリンキングが考察する中、地槍樹で作り出した土槍を足場として宙を舞うゴブリンキングに飛びかかる。


(やはり次の攻撃への流れか!)


 その流れを読んでいたゴブリンキングは、咄嗟に槍を縦に構え、防御の体制をとる。しかし達也は、その防御に構うこと無くゴブリンキングに居合いを放つ。

 刀の刀身が槍の持ち手に触れると、達也は自分の身体を軽々と動かし、右足裏を槍の持ち手置く。そしてそのまま両腕に力を込め、槍の持ち手ごとゴブリンキングの胴体を切り裂く。


「グッ!?」

「……浅いか」


 出血はさせたものの、決して深くはない。ゴブリンキングは切り折られた槍の刃のある方で達也を殴り飛ばす。

 広間から少し離れた所に着地する達也。するとその上から、ゴブリンキングが折れた槍で達也めがけ振り叩く。それを横へのステップで交わす達也。しかし、その達也の動きを読むかのように、ゴブリンキング折れた槍で薙ぎ払う。折れたと言っても三メートル近くあるその槍は横に避けることが難しく、やって達也は槍と地面との境目にしゃがみこむことでその攻撃を避ける。

 達也がしゃがみ込むのを読んでいたかのように、ゴブリンキングは流れるような動作で達也に向けて突きを放つ。

 生き物のようにグニャリとした攻撃の起動。常人なら反応すら出来ないであろうその攻撃を、達也は刀を使い弾く。

 しかし、弾いたにも関わらず槍の刃先は達也を捉え続けた。弾いたことで腕が真横に伸びていた達也の隙を見逃すこと無く、力任せに突きを放つ。


「チッ!」


 ゴブリンキングの読み難い動きを見た途端、達也は反射的に伸びた腕を畳み、刀の柄を槍の刃に当て自分から逸らす。

 すかさず達也は逸らした槍の持ち手を左手で掴み固定する。そして刀を持ち変え刃の向きを変え逆持ちにし、突き立てるような動作でゴブリンキングに攻撃する。

 即座に槍が達也によって動かなくなっているのを理解すると、ゴブリンキングは槍を手から離し背後にステップをとって達也の攻撃を避ける。


「………ヌッ!?」


 ゴブリンキングは頰に違和感を感じ手で触れると、手には赤黒い血が付いていた。


「……ふ、やはり貴様只者ではないな。しかし、まだ本気ではないのだろう?」

「………」


 槍を手放した右手で既に頰の傷が治った顔の顎に触れるゴブリンキング。対し達也は、ゴブリンキング問いに答えること無く持っていた槍を背後に放り投げ、刀を再び鞘に収める。


「だんまりか――まあ、それでも構わんよ。本気で戦いたくない理由でもあるのだろう?

 周りに見られたくないか、本気になると理性が保てなくなるか、はたまた既に全力なのか――ということはあるまい?」

「………ごちゃごちゃうるせぇよ。本気出せだの、そういうセリフは、そっちが全力の時に言うもんだろ」

「………ふむ、確かにその通りだな」


 呆れているかのような達也の声にゴブリンキングは納得し、膝を曲げ姿勢を低くし、周囲に圧を放つ。辺りの建物はきしみ、レンガは揺れ、街灯は震える。


「――『黒装(こくそう)』」


 その圧の中心に立つゴブリンキングはそう呟くと、自身の肉体は硬度を増し、筋力は増量する。その見た目は先程よりも存在感を放つ大きさになり、自分が怪物だと言わんばかりの姿へと変貌を遂げた。

 大きさにして五メートル程だろうか。かろうじて原型を保っているものの、初見ではゴブリンキングだと気づかないだろう。

 変貌を遂げたゴブリンキングの姿を見ると、達也は一言、ゴブリンキングに聞こえるギリギリの声で呟いた。


「『黒装』か……」

「ほう。知っているのか?」


 姿を変えたゴブリンキングの声は先程よりも濃いノイズがかかり、声量も大きくなっていた。

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