声というか鳴き声
これが今年最後の投稿になりますね
「と、いうわけで。吹雪く華の使者、アイスゴーレムのアレムだ。一応、女の子だからな。そういうつもりで頼む」
アルトレイア達を部屋に呼んで、紹介と説明をすることになった。手狭ではあるが、まあしょうがない……狭い。
「ほら、アレムも挨拶しような」
俺が促し、アレムも頭をぺこりと下げる。こういう仕草は可愛い。例えゴーレムであっても!
「シオンのそういうある意味節操ないとこ大好きだよ僕」
どういう意味だ王子(笑)。
「で? この子が女の子だってどう判断したわけ? パンツでも見た?」
どこにあるんだそんなもの。アルトレイアの目線がちょっと厳しい。あとマリアも。いやお前は知ってるだろう。
「んー実を言うとこいつの人工知能って言っていいのかな? そういう部分がかなり未熟みたいでな。まともに言葉を操るのも億劫みたいでコミュニケーションがちょっと取れなかったんだよ。で、まああれだ。フィオレティシアにしたみたいに幻影魔法使ってちょちょいっと」
「え? まさかまたキスしたの?」
「してねーから」
「していないんですか!?」
「何でそこで逆にちょっと非難めいてるんだフィオレティシア」
「シオンさんの、幻影の君の優しさに包まれたなら、それは幸せなことだとそう思っていますから。だから、アレムさんもそうなら、と」
フィオレティシアは笑顔のままでそう言う。フィオレティシアはフィオレティシアで、嫉妬だとかそういう感情が塗りつぶされてしまっている。それは、あるいは王族として培われた奉仕の精神であり。
あるいは……災厄の歌姫としての罪悪の感情である。人並みの幸せを得る資格がないとどこかで思っている。だから、思うだけで思われるだけでいいと思ってしまっている。なら、俺はそれに付け入るだけだ。
俺も、偉そうに言えた義理ではないしな。
「アレム殿。シオンはまだ人間として未熟な面があり、無礼を働くこともあるかもしれませんが、その時は私達をどうか尋ねてください」
アレムの手を取ってアルトレイアは告げる。
「お前は俺のお母さんか」
「あぁ!?」
気恥ずかしさもあり軽口を叩いたら思いの外キレた。
まあそうだよなお母さんじゃないよな……いろいろ苦労かけてるとは思うが。
「まあ今さらシオンが今さらアレム殿に何かやましいことをするとは思わないがな」
はぁっと溜息を吐くアルトレイア。信じていただけているようで何よりだ。俺がへたれだとかとは言っていない。断じて!
「せいぜい失礼の無いようにな」
少しだけ呆れた様に笑いながら、言う。
すっかり身内のようなその言葉は、責められているというのに少し心地よかった。
※※※
「それじゃ、お休みな。アレム……あーえっとどうだったかな。ゴーレムって眠るのかな」
アルトレイアから、精神が未熟というのであれば光魔法を使っての交信はあまりよくない、と注意を受けた。干渉しすぎると他者の精神との境目が無くなり自己を獲得することが出来ず精神崩壊を起こす、とのことらしい。
本来ならあの幻影魔法も精神衛生上よくないことだったんだろう。後悔はしていないが、まあ気を付けて見守っていこうと思う。
「―――」
アレムは体を起こしかけたが、そのまま留まる。
「お休み」
ベッドに横になりながら、ちらりとアレムの様子を見る。やがて、電源が切れるように眼の光が消えたのを確認して、俺も眠りに入った。
※※※
「―――」
『成長したいか? アレム』
「―――」
『言葉を交わしたいと。報いたいとそう願うか?』
「―――」
『かっかっか。よいのじゃよ。アレム。それで。それはわらわに刃向うことと違う。むしろ期待しているというもの』
「―――」
『済まぬのう。もう少し心というものに明るければ、そのもどかしさも失くしてやれたであろうに』
「―――!」
『いや、お主が気に病む必要は無い……忘れるな。お主はお主が思うまま、どのようにでも在れる』
※※※
「……ム」
ゆさゆさと誰かに起こされているような気がする。いや、そんな生易しいものではなく。
「敵襲か!?」
ベッドから跳ね起きる。そこにいたのは、アレムだった。
「誰かの声が聞こえた様な気がしたんだが……」
気のせいだったか? と、アレムの方を見る。アレムは手を挙げて、陽気に声を上げた。
「ゴーレム!」
「鳴き声!?」
まあ何はともあれ。これで大体の喜怒哀楽は掴めるようになるのだった。




