練って丸めて投げればいいとか思ってませんか?
「シオンさんの力、見せてもらいました。ふふ、これも全て計算の内です」
うっそだぁ! と言いたいが堪える。これでも恥知らずではないつもりだ。敗者に口なし。実際、アイリシアはアイリシアでこちらの力を計るように戦っていた節もあるし、見立ても信用できるだろう。
それとアイリシアのドヤ顔が思いの外可愛かったのでなんか許せた。
「では率直に聞きます。シオンさん……あなた」
ごくり、と。息を呑んでアイリシアの言葉を待つ。
「……魔力を練って丸めて投げればいいとか思ってませんか」
そんな人をアホの子みたいに!
と、即座に返そうとして……あ、これ図星だ、と。これ以上も無く納得してしまった。
「思い当たる節があるみたいですね」
やれやれ、と頭に手を当てながら呆れた様に溜息を吐くアイリシア。
「シオンさんは魔力の性質というものを無視しすぎているんです」
「魔力の性質とな」
「ええ。例えば、これです」
アイリシアは火の玉を掌の上に出す。これがどうしたと?
「比較した方が分かりやすいですか。それではシオンさんも同じように出してみてください」
と、言われたので俺も同じように出す。これの何が? 比較? と言われて十秒くらいか……ん?
「でかくなってる!?」
アイリシアの方は、一見何もしていないように見えてもその炎は徐々に勢いを増していく。対する俺の方は……変化なし。
「炎の魔法というのは初心者向けである理由はダメージが通りやすいというのもありますが、時間さえかければ威力を高めるのが容易なのです。まあ、調子に乗ってコントロールできずに大やけどを負うのが中級者あたりにありがちですけど」
「けどそうなってないぞ?」
「ですね。恐らくですがシオンさんは感覚的に魔力を出せるくらいに手馴れすぎているんです。だから、横着して性質に即した魔力の練り方、出し方でないままなんです」
アイリシアが言うには教科書通りにファイヤーボールを発現させているのであれば炎の魔力は空気を燃焼するように周りのマナを取り込んで次第に膨張していく性質を持っているらしい。
しかし俺の場合、例えるならば雪玉でも作るようにぎゅ、ぎゅ、と抑え込んで丸めてしまっていて、その性質が発揮されない。とのこと。
「……一つ付け加えておくのであれば。シオンさんのあの中々独特な魔法の使い方。そのこと自体は、まあ悪くはありません。自身が模索しながら築いた戦い方というのは一番身に付きやすいですしね」
その辺りは正直怒られるかと思ったんだが。魔法に対する冒涜だとかなんだとか。かなり乱暴な使い方をしている自覚はあるし。
「そんなことはありませんよ。技術と割り切り魔法を使う冒険者の視点というのは時に魔法使いにとって刺激となって持ちつ持たれつというものです」
ですが、と付け加える。
「ある意味、今の内でよかったですね」
「と、いうと?」
「シオンさんがさらなる段階へ進みたいというのであれば、シオンさんが今まで築いてきたものを一度、真っさらに壊さなくてはなりません」
「そこまでか」
「ええ……その結果、何も形を成せないまま、元にも戻せないままになってしまう可能性もあります」
じっと。蒼い瞳が不安げに揺れる。
「それでもいいなら」
アイリシアのか細い手が伸びる。
「ああ! よろしく頼む」
その手を握る。
リスクはあるのは分かった。だが、とらないという選択肢はない。アイリシアを信じて、俺は進む。
アイリシアは、一瞬、呆気に取られて、帽子を目深く被ってそれ以上の表情は分からなかった。
「ではシオンさん。早速ですが宿題です」
と、アイリシアはがさごそと本棚を探る。そして取り出したのは『よくわかるまほうのつかいかた』と。妙に丸っこい文字で書かれた入門書だった。
「シオンさんに足りないのは基礎です。ですから反復練習してください」
「ここからか」
「はいここからです。大丈夫ですよ。これは数ある入門書の中でもかなりわかりやすく書かれています。私のお墨付きです」
まあアイリシアが言うのであれば実際そうなのだろう。
「それでは今日のおさらいです。その本を見ながらファイヤーボールを出してみてください」
「……えっと、こう?」
「違います。ですから余計な力を抜いてください。多少不恰好でもいいですから」
「力入れてるつもりもないんだがな……うん。はぁ!」
「いいですよ。ただ少し力が弱いです。もう少し大きく。そうですそのまま……」
などと試行錯誤しながらこれは……! とお墨付きを貰えた火の玉を……消す。容赦なく消す。
そしてもう一回試行錯誤しながら以下略。これを四回……いや、五回か。繰り返し、体で覚えさせられた。
「笑わせないでください。こんなの覚えた内に入りません」
鬼か! いや魔女か。
「この反復練習を出来る限りしておいてください。食事中でも入浴中でもとにかく出来る限りの時間を使って」
「分かった」
「それと、そうですね。これからは私のことはアイリシア師匠と呼んでください」
「はい?」
え? 何言ってんだこの子は。
「聞こえませんでしたか?」
「サー! アイリシア師匠!」
「よろしいです」
ふふん、と上機嫌なアイリシア……師匠だった。
「さて、それでは最後にお聞きしますが」
この時、俺は完全に油断していたと言っていいだろう。
「全力を出せと私は言いましたが……シオンさん、あなた、何か隠してませんか?」
冷たい声と、蒼い瞳。それが、俺を容赦なく射抜いてきた。
「何のことかな?」
「……まあいいでしょう。そっちがその気であるのであれば、それで」
アイリシアは溜息を吐いて、それ以上問うのを止めた。
(すまんな)
俺は心の内で謝った。それしか出来ないからだ。
アイリシアは多分、いや間違いなく善意がある。俺の隠し事をそのままにして、実り豊かな修行の成果を上げられるか、本気で心配している。そう、思う。
それでも、だ。アイリシアが何を勘付いたかまでは分からないが、それでも俺は言うわけにはいかない。
仕方がないことだと割り切ろうとするものの……俺の中にはしこりが残るのだった。




