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クロード先生のファントム教室番外編~蒼眼の魔女について~

番外編なのはシオンがいないからです

 というわけでやってきましたアイリシアに割り当てられた研究室。


 んー……手土産の一つでも持ってくりゃよかったかな。アイリシアの好きなもんって何だったっけ。まあ今度考えよう。とりあえずコンコン、とノックを。


「誰ですか?」


 少し待った後、控えめな声が聞こえてくる。


「俺だ。シオン・イディムだ」


「……誰ですか?」


 大事じゃないので二回言いましたか。


「……今日から弟子入りさせてもらうことになっているシオン・イディムですハイ」


「………………あー」


 やばい。ちょっと心が折れそうだ。


「どうぞ」


 部屋の中に案内される。


 本やら何やらで少し散らかっている部屋の中で、二脚の椅子が鎮座していて、俺達は向かい合うようにして座った。


「……」


「……」


 座った。


「……」


「…………?」


 対面して十数秒。その蒼い瞳は一体どこを見ているのか見極めようとしてはみたものの、どうにも何を考えているのか分からない。


 思い切って尋ねようとしたその時である。



「…………何をしたらいいんでしょうね?」



 ぼそり、とそんな声が響いたのだった。


「あー……はは、まあ何だ。そんな気遣わなくたっていいぞ? 俺も、何だ。弟子入りとかしたことないし色々不作法があるかもしれん。そうだな、俺の方ももうちょっと何かしら考えとくべきだったんだよな聞きたいこととかさ」


 この時、俺がかける言葉を何か間違えたのか? もし対応が何か変われば俺達の関係も少しばかり違ったものになったのではないか、とずっと考え続けることになる。


「何ですか。その生意気な態度は。バカにしてるんですか、えぇ!? バカにしてるんですか!」


「えぇー……」


 何が癇に障ったというのか全く分からないがアイリシアは激怒しておられた。


「いいでしょう。そういうことであればやるべきことは決まりました」


「やるべきことって?」


「格付けです」


 格付けとな。


「師弟関係を結ぶ、ということであればはっきりさせましょう。私が上、あなたが下であると」


 要するにマウンティングか。猿でもあるまいし。


 と言いたいところだが止めておいた。断じてアイリシアの迫力にたじろいだわけではない。たじろいだわけではない!


 格付けはどうでもいいが、蒼眼の魔女の持つ力。それを体感してみるというのも今後の為を考えると悪くない。


 よし! 乗った。俺達は多目的スペースへと移動するのだった。


※※※


「魔法には一般の人間であっても魔力を扱うことさえできれば習得することが出来るものと、幻影魔法などのように特定の条件がいるもの。大雑把に分けてこの二つの区分が存在します」


 もっとも、後者の場合は、通常の冒険者にとっては縁遠いものだ。フィオレティシアの持つ歌魔法もこの区分に入るわけだが、それらは『旧き支配者ダンジョンマスター』によって独占・保護されているからだ。研鑽や発展でどうにかなるものではない。


 そんな人間の前に、氷魔法という未知の属性が突如現れる。


 氷魔法を習得する者は例外なく、蒼の髪と瞳を持つということ以外は明らかになってはいないがもしこれを解き明かし自らのモノにすることが出来れば強大な力を持つ旧き支配者たちに対抗できる。


「突然変異的に人の歴史に姿を現す氷魔法。習得したのは紛れもない人間。解明が進んでいないだけで、どのような人間でも習得できる可能性がある、と考えるのもまあ分からないでもありません」


 しかし、その仮説は残念ながら全く的外れ、と言わざるを得ない。


「実は氷魔法、蒼眼の魔女、と呼ばれる存在はですね。旧き支配者の後継者に与えられるものなのです」


 全員が息を呑む。


 何ということか。人間が血眼になって探している氷魔法への道筋。それらが全く、旧き支配者の掌の上で踊っていた。ただそれだけのことだったのだ。


「しかし、何故だ? その旧き支配者は何故そのようなことを?」


「……後継者を探すという目的です。人間の中で優れたる才能を探し出し、これはと思う者に対し、自らの権能の一端を分け与える。という当たり前の所行に過ぎませんよ」


 質問者のアルトレイアだけでなく、その場にいる全員が考える。


 いや待て。じゃあ幻影の君シオンはどうなるんだ、と。


 まあわざわざ人と交わり、子孫を残す幻影の君こそ異端。旧き支配者といってもその思想は共通せず各々事情が違う。という説明するまでもない事実があるのみだが。


 もっとも、自らの蒼眼を分け与えたその理由は後継者探しというだけでもない。その旧き支配者の持つ迷宮の居場所は人類未踏の地にあり、そこに佇む始祖の蒼眼の魔女たる存在は、その力を分け与えた蒼眼の魔女の蒼き瞳から世界を観察していると言われる。


 そしてこれが重要で、果たして人は蒼眼の魔女から旧き支配者の元へ辿り着くことが出来るか――それを試しているのだ。


「蒼眼の魔女も人間の尺度から見れば破格の力を秘めた存在ではありますからね。たとえばその存在を迫害し、真実を掴み損ねるのであればそれまで」


「……叡智に対し、人がそれをどう扱うのかを見ている、ということか」


 ほう、とクロードは内心、感嘆する。


 そう、その旧き支配者は知識の管理者を自称する。子供に火の扱い方を教えないように。人という存在には過ぎたる叡智を管理し、閉ざす。そういった性質を見抜いたことに。


 同時に、クロードの話を聞き終わった人間たちは思う。


 これは……聞いていい話なのだろうか? と。


「同じ旧き支配者たる幻影の君と関わる以上、知っておかなければ寧ろ失礼にあたるというものでしょう」


「では、肝心のシオンにそれを話さなかったのは何故だ?」


「……イリューシオン様とアイリシアさんには関係のない事柄であるからですよ。あの二人はそういう事情とは関係なく出会い、そして間柄を深めるのです。余計な情報は不要というものでしょう?」


 さて、奇しくもアイリシアとシオンの立場は同じ旧き支配者の後継。正直心配ではあるものの、まあ、それはその分ここにいる自分達で補えばいい。クロードは、認めていたのだ。彼らのことを。


 とはいえ、まさか初っ端からぶつかり合うことになっていようとは、この場にいる誰も予想だにしていなかったのであった。


その階段に足を掛けるんじゃあねぇ!

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