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悪役現る

 こうして、俺、アルトレイア、リオン、スレイの四人。俺達は一旦別れて準備をしたりした後に、月明かりを背に幻影の迷宮へと向かっていた。


「ところでスレイ。お前、その格好で来たのな」


 スレイの今の格好と言えばおなじみと言えばいいのか、あのおっちゃんからの借りものだった黒鎧姿だった。


「返してなかったんだそれ」


「……返そうとしたんだが」



『しばらく持ってなさい。そうじゃないと下手すりゃ素手で飛び出していきそうで心配なんだわおっちゃん』



「「「あー」」」


「お前らそろいもそろって何だその反応は」


 だってなぁ、スレイは何というか危なっかしいんだよな。他人に頼らないでもいいってスタンスでそのうち野垂れ死んでそうっていうか。


「それに関しては偉そうに言えないがなシオンの場合は」


 アルトレイアはじとっと俺の方を見ていた。


 いやあだってタイマンで女連れはちょっとどうかと思ったし。アルトレイアが夢で見たのは俺じゃないし……と、言いたいところだったが何か言い訳できない感じだ。


「まあいっか。じゃあ今度一緒に装備買いに行こうぜ」


「別に気をつかわんでもいいが」


「何を言う。お前も私達の仲間の一員だ。であれば、戦力の補強は私達全体の問題だとも」


「そうそう。そうやって僕に楽をさせて貰えればこっちの下心もあるわけで気にすることはないさ」


「……そんなもんか」


 死亡フラグだとかではない。そんな明日への他愛もない話をしながら、とうとう幻影の迷宮の入り口付近まで来る……前に立ち止まる。


「止まれ」


 アルトレイアが短く言い放った後、何故、と尋ねるまでも無く物陰に隠れる。


「見張りがいるな」


 ちらほらと見えるのは、見覚えのある学園の教官だけでなく、フィオレティシアの寝室前でも見かけた兵士たちが着ていた様な鎧。


 普通は対立しててもおかしくはない取り合わせだが、黙々と文句も言わず連絡を密に取りながら厳重に警備に勤しんでいるらしい……まあ、事が事だからな。


 さて、どうするか。幻影魔法を使って潜り抜けるにはちょっと数が多すぎる。どうにかして大人数を注目させる何かしらの手があればいいんだが。


 などと考えていると、ひゅ~……と少し高い、吹き抜けるような音が聞こえた。聞き覚えがあるような気がするんだが、何だったか……と思い出す間もなく、その答えは暗き夜空に映し出される。


 パンパーン! パパーン!


「何者だ!? これは攻撃……ではないのか!?」


 兵士たちがざわめいている。夜空に映し出された大輪の華。その異様な光景に警戒し、その美しさに呑み込まれる。


「レディースエーンジェントルメーン!」


「この声は……! まさか」


「控えたまえ! キミ達は今、ファントムロードの前にいるのだよ」


 もう一人のファントムロード……! 何でこの場に出てきやがった!


 もう一人のファントムロードはそのまま当然のように隠れることも無く堂々と兵士たちの前に立ち、手を突きだしながら芝居がかった動きで舞う。


「今宵は歌姫を我が手中に収めるために参上した」


「何を勝手なことを!」


「おや止めるのかい? この国の王とて未だ健在。別に彼女一人がどうなろうとどうでもいいのではないのかな?」


 ここにいる以上、兵士たちとて事情は知っているのだろう。


 フィオレティシア。誰よりも国を愛し、愛されてきた彼女はもう祝福の歌姫ではなく災厄の歌姫となった。最早いなくてもいいどころか、排除されなくてはならない存在に。


「それでも……お前のような輩に渡してたまるかァアアアアアアア!!!!!!!!」


「っ! ハハハ! なるほど。その気概やよし! いいね。そういう趣向も悪くはない。さあ来るがいい騎士ナイトたちよ。私はそのことごとくを退けて、彼女を手に入れよう」


 ファントムロードは悪役らしく高らかに笑いながら、追いかける兵士たちから巧みに逃げ回っていった。


「と、第三者のように動向を見守っていてもらっても困るのだがね」


 様子を見ていた俺達に、いつの間にかファントムロードは近づき、やあ、と気軽に話しかけてきていた。


「……え? どういうこと? シオンがファントムロードなんじゃないの?」


「ハハハ、偽者っていうと割とまじなトーンでキレるから気を付けろよ」


「何を呑気に言ってるのかな。それより、せっかく援護してあげたのだからとっとと迷宮に向かうといい」


 援護……? 確かに俺はさっき、どうにかして周囲の目を一気に引きつけられやしないか、と考えていた。


 しかし、忍び込む以上、目立つわけにもいかない。と考えていた俺達を尻目にこいつは花火を打ち上げ、周囲の注目を一気に集めることに成功した。


 大胆すぎだろうこいつ。


「闇に乗じて忍び込むというのもそれはそれで一興ではあるが、ファントムロードの戦いはやはりファンタスティックでなければね」


「お前なぁ……」


 恨みがましい目でファントムロードを見る。いやお前何をしてくれてるんだと。


「うん? 何かな? そんなに熱い目で見られると口説きたくなってしまうから控えてほしいのだが」


 こいつめ見境なしか。


「……お前、フィオレティシアにも手を出すつもりなくせによくもまぁ……ま、そっちがその気なら俺も考えがあるがな」


「うん? それは君の仕事だよ。彼女にとっての幻影の君ファントムロードは君しかいないのだから、それは当たり前の話だろう?」


「じゃあさっきの宣戦布告は何だったんだ」


「一種の餞別だよ。もう後戻りはできないだろう?」


 ふふふ、と口元を歪める。


 こいつのしたことはファントムロードと見分けがつかない。であれば、こいつファントムロードのやらかした行いはそのまま俺に帰って来るしかない。


 まあいい。どっち道、フィオレティシアを手に入れる為には通らなければならなかった道だ。ならば、せいぜい悪役ファントムロードらしく振舞ってやろうじゃねえか。


「それではね……私はこのまま警備の兵士たちを掻き乱すとしよう」


「礼は言わないぞ」


「別にいいさ。こちらとしても謝罪の念はない。お姫様をかどわかす幻影の君へのささやかな祝福だよ」


 そうして俺達は、ファントムロードと互いに背を向けながら、迷宮へと向かって行く。


 怪物へと身をやつす王女を涙ながらに討伐する。あぁ、それは美しい物語なのかもしれない。


『それでも……お前のような輩に渡してたまるかァアアアアアアア!!!!!!!!』


 フィオレティシア。お前には帰る場所があるんだ。まだ、お前に生きててほしいってさ。俺なんかの手に堕ちてほしくねえってさ。そういう風に、願ってくれている人達が居るんだよ。


 だからまあ知ったことかというのだ。物語としての体面だとか美しさだとか筋書きだとかそんなもの。全てぶち壊しにして、奪ってやる。


スレイの装備については買い物に行く日常回書くタイミングはまあ色々決着ついてからかなぁ……と思ってとりあえずフラグを


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