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天界の侵攻

出すかどうか迷っていたキャラ(天使の方)をやっぱり出しておこうと溜め回に。

もう一人の方はまあ大体想像つくとは思いますが顔見せも兼ねて

 魔法というのはまず先人たちの知識を借り、発現させてみることが習得の第一歩。そこから魔力の流れを大まかに感じ、改良を加えていく。魔法には火、水、風、光、闇などの分類が存在しそれぞれ魔力の使い方・・・が違う。例えば火属性であれば魔力をそのまま燃料として燃やすイメージ。水属性であれば魔力を術式の中に流し込むイメージ。風属性であれば吹きすさぶ魔力の奔流の中に自らの魔力を紛れ込ませるイメージ。


 つまり、魔力をどのように捉えるかが魔法の属性を決定づける重要な分岐点である。これら全てが魔力の性質であるのだが実際に魔法を発現させるとそれ以外の方法で魔力を扱えるというのが考えられない固定概念になる。


 その固定概念を打ち破り、漫然とでなくきちんと感覚、知識として理解できる者でなければ複数の属性の魔法を扱えない……要するに実践してみなきゃ何ぼのもんじゃいって分からんことだけれどこのちっちゃいお手々じゃ使えんしね。


「……ん?」


 クロードが魔導書を俺に読み聞かせている横で、またどっかから買いこんできたトーテムポール的な玩具を自分で遊んでいた親父ファントムロードは、何かに反応した。


「侵入者だ」


「……何者ですか」


「只者じゃないな。これは……天使だな」


『天使? そんな輩までいるのか』


 最近はすっかり念話に慣れていた。心を読まれているかのように思われるかもしれないがコツさえつかめば言葉を操る感覚で都合の悪いことはちゃんと隠せる。


 まあ、赤ん坊だとそれも難しいんだが。


「たまに来るんだよな。悪魔もいるし当然の様に天使もいるさ。人間界に根差して影響を与えているわけだからな。人間からの信仰を糧に生きている連中からしたら気が気じゃねえんだろうさ」


 聖属性の魔法は神への供物として魔力を捧げ、奇跡を起こしてもらう・・・・・・・魔法。必須級の癒しの魔法を司る辺り汚い。さすが神。汚い。


「まあ魔族も闇属性の魔法を司っているあたりどっこいどっこいですがね」


 と、悪魔クロード談。


 さて、天使というのは神の尖兵であり、しかも一人で来る辺りそれなりの実力者らしく、既に百階層あたりまで侵攻しているらしい。


「まあ最低限に被害を抑えろと指示は出したしそこまで恐れる力ではないんだが面倒だな。俺が出るか」


「いけません。可能性は低いでしょうがファントムロードをおびき寄せる囮の可能性もあります」


「んー……つってもこいつ多分、直情的なバカだぞ? 罠にもバカスカ引っかかってるし」


「むしろそちらの方が怪しいでしょう」


 ヒドイ言い草だ。


「失礼いたします」


 その時だった。ぞくりとするような、甘い声が響いた。


 そこにいたのは血の様に紅い髪の美女だった。薔薇の蔓と華を髪飾りに、瞳は乾いた血の様に黒い。血が垂れたように紅く光る唇と、赤が映える様に純白を混ぜたドレス。


 むせ返るほどの華と、血の匂いを帯び、それらを両立させた危険な女だった。


「何の用だ? バスティア。今ちょっと立て込んでるんだが」


「くす。失礼。ただ、少し目障りなものを見つけてしまいましたので摘んでまいりましたの」


 そう言って、バスティアと呼ばれた女は後ろ手に持っていた何かを放り投げた。


「んー! んー!」


 そこにいたのは、羽根をパタパタと震わせながら口には猿轡を、全身は薔薇の蔓で縛られた、金髪碧眼の天使だった。


「んもう。五月蠅いですわね。さえずるのであればもう少し優雅にしてほしいものですが折角生け捕りにしてきたというのに……それ以上、わたくしに恥を晒させる、というのであれば、殺しますよ?」


 花でも摘むように、殺意を混ぜる。その声に、天使は声にならない叫びを上げ、そして、だまった。


「それで、どうしますか? ファントムロード? 天界への見せしめに羽根を一枚一枚もぎ取って、送り返してみますか? それとも、ゴブリンやオークに犯させてその子供を奴隷として売り出してみますか? あぁそれとも天使の生き血を求める人間共に……」


「黙れ」


 ファントムロードは、ただ言い放った。黙れ、と。分を弁えろ、それ以上口を開くなと。


「ガキの教育に悪いんでな。色を覚えるには早すぎる。とりあえず天使はそこに置いて、下がれ」


「……魔の王の一角であるファントムロードとは思えぬ口ぶりですわね」


 呟く。ファントムロードに圧倒されながら、否。ファントムロードの意に逆らい、進言するに足る、貴族である。不快感を表す、というのはむしろ役割に則っているとも言える。


 しかし、それ以上の言葉は重ねず、にこりと笑顔を浮かべ、会釈をし、去って行った。


 その一瞬、俺と目が合ったその女は、にこりと何か楽しげな玩具を見つけたように微笑んでいた。


『……誰なんだあの女』


「淫魔を取り纏めてるバスティア・バートランスだ。既に子持ちの俺にも構わず色目使って来るくらいに淫乱であるのもそうなんだがどうにも嗜虐趣味があってな。色々と手を焼いてるんだ。実力が折り紙つきなのも含めて」


『そう、なのか……』


「……あの女をいい女だなとか見てるんなら止めておいた方がいい。あいつは人間とは完全に思考が違う生き物だよ」


 いや、そりゃ手を出す気なんてないさ。まだ首も据わってないし。ただ……


「んー! んんー!!」


 と、何かを思い出しかけたところで抗議するかのような泣き声が聞こえた。


「ああそう言えば天使がいましたね」


 するとクロードはあっさりと猿轡と拘束を解いた。


「ふ、まさか拘束までといて下さるとは思いませんでした! とんだ甘ちゃんで……」


「何か言いましたか?」


 天使が体を浮き上がらせたと思った瞬間、クロードの手は天使の頭を掴んで思いっきり地面にたたきつけていた。


 うわぁ……むごい。


「ええっと……何でしたか? 私が甘い、と? ふむ、これは失礼。もう少し厳しくすべきでしたか。ではとりあえず四肢を粉砕してからお話を再開しましょうか。少々お待ちください」


「いえ。すみませんでした。全面的に私が悪かったです。申し訳ありません。もうしわけありませんもうしわけありませんもうしw…」


 そして土下座である。自由に羽ばたくための翼とか意味なし。


 それにしてもこの天使、どっかで見たことあるような……


「あなた、お名前は」


「マリア・メルギタナス。ともうします」


 マリア・メルギタナス。その名前を聞いて思い出した。クロードと同様、『幻影の君ファントムロードに愛の祝福を』の登場人物の一人なのである。


「それで何の目的で来たのです?」


「いやぁ……ファントムロードに後継者が生まれたと聞き及びまして。それで、その……一発かまさないと天界の威厳がと。そういう話に」


 いやむしろ地の底だが。地下迷宮だけに。


「それはあなたの独断で?」


「……はい」


 すっかり意気消沈としながら答える。まあ実際どうなんだろうな。本当に独断であったのか、それとも最初から鉄砲玉のつもりだったのかは今となっては分からない。割とどうでもいいことだし。


「ファントムロード、いかがなさいましょう」


「うーん……」


 親父は考え込むようにして、


「ちょうど人手も足りなかったとこだしな。よし! そこの天使は俺の息子の世話係な。一時も目を離さないこと」


「……は?」


 今まで冷酷な顔ばかり見せていたクロードは口をあんぐりと開け、驚いていた。


「な、何を言っているのですか」


「いいじゃねえか少なくともあのバスティアなんかに任すよりはマシだしお前も仕事あるだろう?」


「それは……そうですが」


 この当時、母さんも、父さんも、そしてクロードも。それぞれ迷宮内で必要不可欠な役割があるのか、俺が完全に一人になることが多々あった。


 べ、別に寂しいわけじゃないんだからね! と言いたいところだが……まあね、寂しいなって思う時も多々あった。


 それに、護衛という意味でもそれなりに危険なんだろう。クロードは溜息を吐きながらも、納得した。


「いいですか? マリア・メルギタナス。イリューシオン様にもしものことがあったら私は天国すらも滅ぼしてあなたを殺しに行きますよ」


 これが脅しでなさそうなのが怖い。マリアは平伏して、こくこくと首を縦に振った。


「あうあう……」


 よろしくな、と言いたいのだが上手くいかない。


「はぅ……そうですね。赤ちゃんには罪が無いですもんね」


 さっきまで泣きそうな顔してたのが妙に顔を綻ばせていた。うん。やっぱり笑顔の方が可愛い。


「そうです。この子を足掛かりにすればどうにか出来るかもしれません。イリューシオンさまぁ……どうか健やかに育ってくださいねぇ……魔族的なあれこれはダメですよぉ天使派で行きましょうね天使派で」


 大丈夫かなぁ……


「ああ言っておきますがマリア・メルギタナス。これからはイリューシオン様専属のメイドとして、きっちりと教育してさしあげますからそのつもりで」


「ひぃ!?」


 本当に大丈夫かな……

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