欠けたパーティ
進まないですねさすがに次回は呪いの主と対面
「ふわぁ……」
リオンが欠伸をかいている。
「おいリオン。もう戦場に足を踏み入れている以上、そういう緊張感を欠く行動はやめろ。そういうのは伝染してしまうんだ」
アルトレイアの言うとおり、今、俺達は幻影の迷宮の真っただ中にいた。マクシミリアン将軍から場所の情報を得ているアルトレイアを先頭に。前衛役のスレイ。その次にリオン、アスタ、リリエットと続き、一番後列に俺が控えている。
「とはいってもねぇ……これは生理現象だからしょうがないんじゃあないかなぁって僕は思うんだけど」
「噛み殺せそのくらい」
そういいながらアルトレイアは口元を隠す。どうやら有言実行で欠伸が出るのをこらえているらしい。
とはいえ、足取りはしっかりしているし順番で睡眠を取ったりしたらしいからそこまで引っ張るほどひどくはないものの、それでも各々、時折まぶたを擦りながら眠そうにしている。
「それでシオン。昨日はよく眠れたのかな」
幸か不幸か、あのまま寝入ってしまった俺であったが、体調はすこぶる良かった。
朝起きたら処刑台に上がってましたとか覚悟していたんだが寝違えることもなく、ここまですっきりとした目覚めなんて今までなかったんじゃあないかと思うくらいに快適だった。
「いや悪かったと思ってる。俺もフィオレティシアが寝入ったら戻ろうと思っていたんだが」
「よかったわねぇ。んなことしてたらひっ叩いていたとこよ」
リリエットがにっこりと笑いかける。
リリエットの言葉に嘘はないと思う。リリエットだけでなく皆、心の奥底で彼女のことが気に懸かっていたのだ。だから誰も俺の勝手を止めなかった。
の、はずなんだが……リリエット……お姉さま? 何で不機嫌なんですかね? 顔が笑顔でも隠しきれてないんですが。
「どうにもならないことって世の中にはあるんだよ。上手く行ってても行かなくても、それはそれで腹立つっていうか。うん、理不尽かもしれないけれど世の中そんなもんだね」
リオンは分かったようにうんうんと頷いていた。
「それで? アイリシア、はいつものこととして、王女様もやっぱり無理そうだったの?」
「……そうだな」
短く返す。それ以上を聞き返す者はいなかった。
「仕方あるまい、気落ちしている状態では戦力としても心許ないというものだ」
アルトレイアも努めて冷徹に区切った。
「みなさん優しいものですね」
ミスティは皮肉げながら笑みを浮かべながら呟いた。
「さて、この辺りか」
アルトレイアが立ち止まり、ふむ、と岩肌を撫でながら、やがてスゥ……っと深呼吸する。そして
「ハァ!」
殴った。腰の入ったいいストレートにより、ひび割れが岩の壁全体に広がっていく。
「ええ!?」
アスタが驚いた声を上げる。もくもくと立ち込めた土埃が収まると、その視界に現れたのは、向こうの空間であった。
「隠し通路、か」
「まあそんなところだな……早く通れ。すぐに修復されるぞ」
ちらりと砕かれた岩を見る。すると、かたかたと独りでに動き出そうとしているような音が細かく響いていた。
「本来はもっと違う侵入方法があったのだろうが面倒だからな」
横紙破り。指鍵の掛けられた場所や壁を隔てた場所を無理矢理こじ開ける指揮官の持つスキルの一つである。面倒な仕掛けを解除したりしないで済むため便利だが、物理的にぶち壊す為、その奥にアイテムなんかがあった場合、もろとも粉砕してしまう。
『幻影の君に愛の祝福を』の中ではコマンド選んで効果音出て終わりだったからどういうスキルなんだこれ……と思ってたがマジか。こじ開ける(物理)だったのか。
「大雑把に見えるかもしれないがこれはそれなりに集中力が必要な作業なのだ。ここの壁には巧妙に魔力の流れが隠蔽されていて、その流れを断ち切る箇所を適切に叩かねばこうして人が通れる穴にはならない。だから真似しようなどと考えるなよ」
うん? もしかして俺の方を見た? まさかね。
「うーん……まあ分かるんだけどさ。もっとスマートに行けなかったの?」
リオンは何を言っているんだ。
「お前は何を言っているんだ?」
「いや友人としては別にいいんだけれどね。ただ、女の子として絵面的にどうなのかなって思うんだよ。そういうの。アルトレイアの好きな人がそういうの気にしない人だったらいいんだけど」
「……全く、何を言い出すかと思えば」
リオンの指摘に対し、呆れて溜息を吐くアルトレイア……であったが、チラチラとこっちを見てるのは、気のせいじゃないよな。
アルトレイアの名誉のために言うと、決して気付かれないように、その仕草は微かなものだ。普通は気付かないだろう。けれど、そう考えるのは俺もアルトレイアのことを……
まあいいや。アルトレイアが気にしているか気にしていないのかは。
「別にいいだろ。そんなのアルトレイアがいい女だってだけだ。それに気付かないバカ男なんざほっとけ」
「シオン……」
「それよりちょっと目立ちすぎたみたいだな」
「……ああ」
アルトレイアだけでなく、全員が緊張を以て前を見据える。
「グルルルル」
魔物の呻きが聞こえる。番犬か? 目をギラつかせた犬型の魔物が、俺たちの前にいた。
「ワォーン!」
遠吠えに呼応して、続々と仲間たちが現れる。いち、に……十匹ほどか。
「……」
そこで、スレイが前に出る。
「おいスレイ」
『ここは俺にやらせろ』
念話でのパスは通していた俺に、スレイは語りかける。
『腹が減った』
「スレイは、なんて?」
「腹減ったってさ」
「あはは。さすがだね」
「ふむ、見届けさせてもらおうか」
一応、指を鳴らす。これ以上、仲間を呼ばれても面倒だしな。周囲一帯に対して、情報を遮断させてもらおう。最初からやればよかったか。
「……」
大剣を抜き、構え、その刃先が地面に触れる。ガガガっと鈍い音が鳴り、そのままスピードを乗せ、魔物の一匹の首を飛ばした。
「ワオォン!!」
血に興奮したのか、一斉に噛み付く。
「スレイ!」
『黙ってろ』
しかし、狂戦士は動じることも無く、そのまま籠手に噛み付いた魔物の一匹を投げ飛ばす。そしてそのまま剣を振るい、頭を砕いた。
肩に飛びかかっていた一匹は、剣を握っていない左手で掴み、ぽたぽたと垂れる血と脳漿を掌に馴染ませるかのようにそのまま握りつぶした。
本能的な恐怖を感じたのか、魔物たちは恐る恐る距離を取る。スレイは、それを迷いなく大剣を振るい、屠っていく。まず足を奪う。または、呼吸を奪う為に首を斬る。そうやって、どうすれば素早い魔物を仕留められるのか冷血にこなす。
「……」
やがて、大剣を仕舞う。その身体は返り血に濡れ、それを吸い取るようにその鎧に血が滴り落ちた。
そして、ゆっくりと歩く。その足取りは戦闘が始まる前よりもむしろ軽かった。どうやら、腹は膨れたらしい。
「……お姫様は連れて来なくて正解だったかもしれませんね」
ミスティの呟きは迷宮の闇に消えた。




