表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/239

狂戦士VSファントムロード

スレイ、シオン、そして???(バレバレ)で構成されております。

 スレイに施された呪いは四つ。


 無言。不眠。絶食。そして狂化だ。


 意識を奪われ、ただ破壊の限りを尽くす狂戦士と成り果てる。そのタイミングに予兆はあるものの不規則で、しかもそれを告げることも出来ない。だからその前に……目の前に立つもの全てを破壊しつくすその前に、スレイは暗き迷宮に潜るのだ。


「グァアアアアアアアアアアアアアアア!!!」


(……ん? そういえば、狂化の呪いが発現している間は声を出せるのか?)


 まあ意味はないが。スレイの今の叫び声は、言葉になっていない。ただの咆哮だ。


 とはいえ、それは人間の尺度の話。意味はある。肺の中に溜め込んだ空気を全身に行き渡らせ、筋肉を呼び起こす所作ルーティーン


 カンカンカンカンカンカンカン!!!


 軽快に重厚な剣の響き。独りでに鎧をぶつける音。


 身の丈ほどの大剣をまるで棒切れのように振り回し、腿を無様に見えるほどに揚げ、腹部の鎧とぶつけながらもその反動すら利用して駆ける。


「っとに! デタラメだなこいつ」


 横っ腹に剣が走ってくる。避けきれなくなった俺は剣を何とか挟み込み、受け止める。


「はぁああああああ……はぁあああああ……!」


 息を吸い込んでいる。そのせいか、何とか威力は弱まった……と言いたいところだがまるで安心は出来ない。当たり前と言えば当たり前だが完全に力負けしてる。じりじりと押しこまれる。


「がァっ!」


「しまっ!?」


 一瞬にして、剣を弾かれ、そのまま体勢を崩してしまう。


 やられる……! そう身構えて硬直してしまった俺の身体の……


 ガンッ!


 すぐ横を、スレイの大剣がぶった切っていた。


(あっぶねぇ……! マジで危なかったぞ今の)


 狂戦士じゃなかったら死んでた。


 少し離れる。すると、スレイはこちらを追いかけることも無く、周りを破壊し続けていた。


 改めて確認する。スレイは今、力の限り理性なく暴れ回っているだけだ。




 狂戦士。元々は呪われた戦士の異名だった。魔族たちとの戦いの最中、呪いを受けた戦士がその力を利用し戦おうとしたのが起源と言われている。


 理性を無くし、狂暴なまでの力を身に着けさせ、仲間割れを誘うのが目的であったが強靭な精神と絆を持ち合せた彼とその仲間たちは逆にその力を利用し、やがて掌握し、魔の力を取り込んだ混沌の剣闘士として戦場を駆けたという。


とはいえ、その後の時代で、疑似的に狂化の状態異常を引き起こして戦う術が考案され、今では狂戦士と言えばそちらを指すのが一般的だ。無論、本来の狂戦士とはグレードが数段堕ちるが、誰も伝説になぞらえようなどとはしない。


 何故か? 狙ってやれるようなことではないというのもあるが、一番の要因は、呪い付きなど厄介者でしかないからだ。魔の領域に足を踏み入れた愚か者。身の丈に合わぬ力を求め魔族と何かしらの取引に狂化を得た、などと。




 狂戦士の力。それは破壊を本能へと変換する力である。


 人間というのは常に、肉体にセーフティを掛けている。限界だと本人が思っていてもその肉体には未だ引き出せぬ力が眠っている。何故か? 肉体が壊れてしまうからだ。本能に逆らう行為だからだ。


 生命というのはすべからく生きる為に生きている。当たり前の理屈だ。しかし、狂戦士はその楔を外し、自らの持てる力を全て破壊にもたらすのだ。


 肉体が壊れる? 知ったことか。全てを絞りつくせ。


 守るべきモノすらも壊すのか? 考える暇など無駄だ。選別など要らない。全てを壊しつくしてしまえばいい。


 そうやって、人として必要なものを、削り、削り。破壊の為に必要なものを貪欲に吸い込む。


 理屈だ。あまりにも馬鹿げているようでいて、故にあまりにも理に適う存在。それが狂戦士である。

 

「……結構、距離を取ってるってのに、風圧がここまで来やがる」


 未だ、狂戦士は止まらない。何事か、と様子を見に来る魔物を食らいながら、なおも台風のように暴れ、狂う。


 さて、イリューシオン。お前はこれからどうするべきか。理屈で言えば、このままシッポを巻いて逃げてしまうのが一番いいだろう。


 狂戦士は、幻影魔法と相性が悪いのだ。ただ形振り構わず攻撃を仕掛けているのだから、感覚に訴えかける幻影魔法など意味が無い。だから、スレイは逃げろと言った。


「ま、今さら有り得ないけどな」


 あんなに大口叩いたんだ。今さら逃げるなんて言ったら、幻影の君ファントムロードの名が廃る。


 それにさ、今、こうして暴れ回っているスレイを見てると、挑発されているみたいに思えるんだ。




 ――さあどうした? 俺を受け止めるんじゃあなかったのか




 幻聴かもな。しかし、俺は幻影の君、ファントムロードだ。であれば、そんな幻影に踊ってみるのも悪くない。


 大丈夫だ。こっちだって丸っきり勝算が無いわけじゃあないんだ……上手くいくかどうかってのは、半信半疑ではあったけどな。


 けど……いけそうだ。さあ、幻影の迷宮よ。ちょっと力を貸してくれ。


「クラスチェンジ」


 さあスレイ、ファントムロードを相手に、どこまで立ち回れるかな?




 正直、賭けだった。幻影の迷宮内で幻影の君ファントムロードの力を駆使し、戦えるのか。


 しかし、実際に魔法剣士シオンのまま、留まることが出来れば、この幻影の迷宮内での支配を確立できる。時間はそこそこかかったけどな。


(とはいえ、あまり時間は残されてはいない、か……)


 ファントムロードになったからか、魔法剣士の状態で稼いでいた支配率がどんどん目減りして言っているのが分かる。この状態を維持できるのは……恐らく五分もないか。


 けれど十分じゅうぶんだ。


「グッ!?」


 スレイの喉から驚きの声が漏れる。


 スレイの剣を、ファントムロードの衣装を施された片手で受け止めてやった。



 ファントムロードのステータスでもってすれば、この程度、雑作もないのだ。


「んー……仕方ないとはいえ、やはりあまりスマートではないよね」


 ぱっと、剣から手を放す。


 スレイが身構え、先程不可解な手ごたえを感じていたその場所に、今度こそと意気込んでいるのか力を込める。


「ダメダメ。狂戦士が考えるに落ちてはダメだよ。まるでなっちゃいない……そんなんだから、隙を作ってしまうんだよ」


 パチン、と指を鳴らす。


 隠していたわけでは無く、今しがた出来たてほやほやの魔力の塊。


 その数……んー数えるのは面倒だ。それ位の数だと認識してくれればいい。それを一斉に、スレイにぶつける。一発、当たればそれで十分。逃げようとしたって無駄だ。


「グガっ!?」


 のろくなったその体に目がけて、残りの魔力玉もスレイにぶつかっていく。


 重力属性だ。当たれば、その身体は見る見るうちに重くなっていく。そして、スレイのその身体はずんずんと重くなっていき、やがて、大きなクレーターを作っていった。


「これだけすればしばらくは身動きできないだろう……」


 そろそろ、時間切れだ。


「……つっかれたぁ…………」


 俺はその場に倒れ伏した。


※※※


 狂化の呪いに苛まれているときだけ、俺は夢を見る。夢ってなぁ本当はどう見るもんなのかってのはすっかり忘れちまったが眠っているときに見るものと相場は決まっているんだ。その大半は、きっと安らかで呑気なもんだろう。


 俺の場合は、明晰夢……だったか。いつの頃からか、いつからだったか。これが夢だとハッと気が付くんだ。そうして、夢を見る前、自分はどんな状況で狂化状態になったか、思い出す。


 目が覚めた時に余計な恨みを買ってたらとっとと逃げださなきゃならないからな。寝ぼけている暇なんざありはしない。


「そうだ! あの野郎……ちゃんと逃げたのか……」


 思い出すのは、あの野郎だ。俺は、あいつと戦っていた。その最中で、俺は……




 ――珍しいですね。あなたが誰かに期待をするなんて




 夢。誰かが語りかける。ま、俺しかいないだろう、と思うんだが……何だ? この声は……女? 




 ――あなたは、あの方を殺したくない、とそう思っているのですね




 あん? 当たり前だろう。


 あいつ……結構、世渡りは上手そうだった。もし、あいつを殺したら、恨まれるんだろうか。恨まれるんだろうな……あぁメンドくせえ。




 ――そうではありません。あなたは


 ――あの方に、救ってほしいとそう期待しているんです




 何言ってんだこいつは。




 ――もう少しだけ、信じてあげてください。あの方を……そして、


 あなた自身を

 その予感は、きっと正しい




 どいつもこいつも知った風な口をそもそもあんた一体……


※※※


 伸ばしたその手は……とてつもなく重かった。


「よ! 目が覚めたかスレイ」


 そしてその横でボロボロになっていた男は、あまりにも軽い調子で挨拶をした。


 何だこりゃ……まだ、夢でも見てるのか?

『俺の勝ちだな……スレイ』


 そして、今度は念話で語りかけてきた。そして、そのままこちらの様子を窺うように黙り込む。ああそうかい。こっちも答えろってか。


『あぁそうだな……お前の勝ちだよ……』


 そういや……と気付いた。


『お前、名前なんて言ったっけ』


 聞いたことがあるかもしれんが忘れた。


『シオンだよ。シオン・イディム……あぁー……でも、お前には伝えておいた方がいいかもな』


『何をだよ』


『イリューシオン・H・ハイディアルケンド……俺の本名だよ』


『……何だ? 偽名使ってんのか? そもそも何でそんなもん俺に明かすんだ? 喋れねえからか』


『違う違う。お前……自分の学園内のうわさ知ってるか?』


『知らねえな。興味ねえ』


『お前が先日学園に突如として現れた怪人にしてこの幻影の迷宮の主、ファントムロードじゃないか、ってそんな噂が立ってる……それで、あれだ。何かそれについて迷惑被ったりしてないか』


 思い起こして、二、三心当たりがあった。そういえばここ最近、ファントムなんちゃらだとかそんな因縁つけてきたのがいた様な気がした。


 大抵は大したことのないやつらですぐに追っ払えたが……そういえば妙にしつこかったあの女、どうしたんだ。


『それで何でお前が謝るんだ?』


『俺がそのファントムロードだからだ』


 嘘くせえ……などとはまあ言えねえな。こうして突っ伏してるわけだから。寧ろ納得か。


『てか、それこそバラしていいのかよ』


『んー……てかな。バラしたようなもんなんだよ。お前には。これは、まあ俺のある種の反則行為についての俺なりのツケみたいなもんだ』


『過程はどうあれ、俺はお前に負けた、ただそれだけだろ。んなもん気にしねえぞ』


『……ま、お前はそういう奴だって分かってるけどな。だから話した。そんだけだよ』


 たく、こいつは知った風な口を。


「それじゃあ帰るか」


『あぁ……たく、お前、手加減なくやりやがったな。帰るのが面倒くせえ』


 立ち上がる。まだ身体が重い。疲労から来ているそれとは違うぞ。こいつ何しやがった。


「大丈夫だって。他の奴らがいる前じゃあ使えんがこういう時の管理者特権。何と。入り口まで瞬時に移動できるテレポートがあるんだな」


『……そいつは便利だな』

 

※※※


 二人が幻影の迷宮を去った後、現れる人影があった。


「ハズレだと思っていましたが、まさか本当に本物が現れるとは……」


 スレイを監視し、時には接触し、ファントムロードの正体を探っている人影があった。


「けれど、相手は幻影の君ファントムロード。まだ安心はできません。じっくり、外堀を埋めていきましょう」


 シオンが今まで腰かけていた、まだ体温の残る地面にすぅっと指を触れた。


「ついに……見つけました……」


 切ない声色が、響き、やがて掻き消えた。


※※※


「あぁー……つっかれたぁ……」


 スレイを伴って幻影の迷宮を出た。朝日が眩しい。すっかり夜が明けたようだった。


『スレイーいるかー』


『うるせえ迷子のガキか俺は』


 ガチャガチャと鎧の音を立てて後に続くスレイ。


「やあおはよう……君がスレイかな?」


 後ろから声を掛けられた。


「うん? どうかしたのかな? シオン」


 マクシミリアン将軍……! 何でこんなところに、幻影の迷宮に一体……スレイを探して? くそ、完全に気ぃ抜いてた。


『シオン、知り合いか?』


『お前は……もうちょっと焦った方がいいぞ』


 敵か、とスレイは迷いなく剣を抜く。


「待て待て。私は君達の敵ではないよ」


「そうそう。ちょっと将軍のお話を聞いてあげて? おっちゃんに免じて」


「おっちゃん……」


『エドヴァルド……』


 将軍と行動を共にしているらしいって話は聞いてたが、一体何が……おっちゃんとマクシミリアン将軍は、幻影の迷宮で一体何を掴んだ?


 ちらり、とスレイを見る。


「彼がこうして君に付き従うというのであれば、今、全てを話す時が来たのだと。そう思う……皆を、集めてくれないかな」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ