乙女ゲーの悪役に転生した俺はこれからも共に生きることを誓う
翌日、いつの間にか寝入っていたのをクロードに叩き起こされ、朝早くから準備に追われていた。
途中から確か酒も入っていたせいか、頭が痛い……。
「……だからもう少し早く眠るよう言っておいたのに」
クロードは俺の髪を整えながら、溜息を吐いた。
「あはは、ゴメンねー」
「まあまあいいじゃあないの。こういうのもいい思い出ってもんだよ」
「俺はただこいつらに巻き込まれただけだが」
「もう、みんな……」
まあリオンとおっちゃんは一足早くちゃっかり正装に着替えていたりしたわけだがな。
「もう少し、寝ていてもいい……と、言いたいところなのですが」
「ゴーレム!」
バタン、と扉を開ける音が響く。
クロードが言いかけたことも言わずもがな。こうして挨拶に来てくれる者を出迎えるのも花婿の役目というものだ。
「アレム、大丈夫だったか?」
アイリシアの両親とともに来る予定だったと聞いたが、それでも俺とアイリシアの両方が傍にいないというのはそれなりに不安だった。
村の意匠だろうか、上品だがどこか素朴な暖色のふわりとしたスカート姿で、不思議と似合っていた。
「ゴーレム! ……ゴーレム?」
元気よく挨拶したものの、俺の顔色を覗き込み、すっとおでこに手を伸ばす。
ひんやりしていて気持ちがいい……て、何をやってるんだ俺は。
「失礼いたします。イリューシオン様、ご挨拶に参りました」
続いて現れたのは、セレスさんだ。
「ああ、クロード様。御無沙汰しております。こちら、つまらないものですがどうか後で皆さんでお召し上がりください」
「は? はぁ……」
包みを受け取ったクロードは少々驚いている。何だ?
「いえ、セレスさん……何だか雰囲気が変わりましたね。柔らかくなったような」
「そう、でしょうか?」
そこで、ちらりと俺の方を見た様な気がした。
「お互いの立場もありますが、これからもどうかお二方とはよりよい関係を築いていきたいものですね」
そういえばアレム、セレスさん、クロードの三人ってそれぞれ違う迷宮の主を仰ぐ右腕って点で共通してるんだよな。
「おや、あなたはいつぞやの少年……なるほど、イリューシオン様の友人であったのですね」
「あー……ええっと……?」
そしてセレスさんはアスタとも挨拶を交わしたりして、アレムと共に去って行った。
「さて、ではそろそろ花嫁の皆さまに会いに行きましょうか」
※※※
結婚式については初めてでもない。疑似的なものではあるが、ミスティと一緒に挙式したこともあった。
うん、だから慣れてる……と言うのも変だがそこまで動揺することもないと思って痛んだ。
そんな風に考えていた時期が俺にもありました。
「皆さんと一緒にこの日を迎えられてよかったです……私のせいで婚期が遅れたら申し訳ないですから」
ミスティの冗談めいた笑い声が響いているが、その声の意味が頭の中でうまく結びつかない。
「あ、イリューシオン様!」
「シオンじゃない、やっと来た……何ボーっとしてんの?」
マリアとリリエットが気付いて声を掛けてくる。
「ほらシオン。彼女たちをちゃんと見てあげなよ」
リオンが脇腹を小突いてきて、ようやっと気を取り直した。
「あーえっと、みんな、よく似合ってる」
「ありがとうございます。シオンさんも、とっても素敵……ですよ」
フィオレティシアが上品に微笑んだ。
「は、え? シオン、いやその……早い……」
アルトレイアが落ち着かない様子で髪を弄っている。
「……」
「アイリ……緊張してるんだね」
「シテマセン」
「アイリ!? カチカチにもほどがあるよ!」
ウェディングドレス姿の皆はとても綺麗で、幸せそうで、幸せで。
ああ、何だ。生きててよかった。
※※※
そして、結婚式。王都の教会で、誓いの言葉を。
「汝ら、病める時も健やかなる時も、貧しき時も富める時も、ともに支え、生きることを誓いますか」
しかし、神父として立っているのは悪魔だったりするのはいかがなものか。
この上なく似合ってるのがもうアレだ。
「誓います」
「「「「「「誓います」」」」」」
アルトレイア、フィオレティシア、アイリシア、ミスティ、マリア……そしてリリエット。
俺達は、共に生きることを誓った。




