幕間:独身最後の夜―女子サイド―
衣装合わせなんかも済ませて、いよいよ明日の式を待つ身なわけだけれど、その夜を独りで過ごすっていうのもなんだか味気ないモノ。
と、いうわけで! 久しぶりにみんな一緒にパジャマパーティ! ひゃっふぅ!
いやーみんなシオンに会ってから色々あって、ますます色気づいた……ていうとあれだけど、うん。可愛くなったし。
楽しみだわ。ぐふふ
「……」
「どうしたのよレイア」
そんなに見つめられると照れちゃうんだけど。
「いや……そうだな。今一つ結びつかなかったのだが、こうして見るともう一人のファントムロードがリリエットだというのが納得出来そうというか……」
失敬な。
「しかしあれですね。こうしてると入学初日のことを思い出しますね。今だから申しますが、実はあれはクロード様から直々に賜った特殊潜入任務でして」
ああうん。そんなことだとは思ってたけど。
けど、黙っててもだれも責めやしないようなことまで打ち明けてくれた。そんなマリアに対して、私も……謝らなきゃいけないことがあった。
「あはは、あの時は危うくイリューシオン様のことがバレてしまうところでしたね」
「あはは、ごめんね」
「ええっと……? 何故、リリエットさんが謝るのです?」
そう怪訝そうに尋ねるマリアだけど、薄々気づいているんじゃないかしら。
「いやーまあ、うん。私の知らない所で色々やってたってこと知ってさ。ちょっと意地悪したの」
いやー当時は若かった(一年も経ってないけど)。
「そ、そうだったんですか…………」
「まあ、隙の多いマリアにも問題があるだろう、これは」
うん、まあそうね。
「みんなも、ゴメンね。今までずっと黙っててさ。シオンに知られたらどうなるのか予測つかないからって……」
グッと頭を下げる。反応は無い。
「あー……」
ちらっと頭をあげると、アルトレイアが意を決したように話しかける。
「何というかだ。その手の心配だの何だのは、既にシオンで済んでいてな。だから、今さらだ」
口が間抜けに空いてるのが分かる。そして、お腹を抱えて笑った。
「たく、アイツホンットどうしようもないわね」
「そうだな」
「ですね」
「全くです」
「あ、あははは……」
みんなで笑い合う。
「……みんなには話してもいい、わよね」
声に出したのは、確認だ。
遠い世界。もう一人の私に呼びかける。
そしてそれに呼応して、幻影の君へのクラスチェンジを果たす。
「やあ、久しぶりだね。みんな」
「!?」
さすがにみんな面食らってるみたい。
「ふむ、確かに。この手段がてっとり早いというのは分かるが……少々、性急すぎはしないだろうか」
うっさいバーカ。
「何故貴様が……」
「さてね。まあ、世界というのは君たちが想像するよりもずっと幻影に満ちている、ということでいいのではないかな……まあ、でも。うん。君たちにまた会えて、言葉を贈ることができるようでよかった」
もう一人の私は、皆を、眩しそうに見渡す。
「これよりこの世界は、本来、進むはずだった運命より大きく外れる。リリエット・イディムが幻影の君の力を簒奪することの無かった世界。即ち、人間が旧き支配者を超える最大の機会を逸した、ということだ。その影響はきっとこれから出てくることだろう。これは終わりではなく、始まりだ」
人と旧き支配者とか、よく分からない。でも、不安をあおっているわけじゃなく私達の身を案じてのことだってことは十分に分かる。私達には。でも、
「知らんさ。そんなもの。私たちはシオンと共に生きたいだけだ。きっと、その為にしか私たちは強くなれはしない」
うん、そういうことだ。
小難しいこととかはよくわかんないけど、惑わされないで、大切なことをずっと忘れなければいい。
シオンを守りたいって。
ずっと、そう願っていたからこそもう一人の私だって戦ってこれたのだ。
そしてきっと……そんなことすらも、忘れてしまっていたのだ。このバカは。
「ああもう!」
がしゃがしゃっと頭を掻く。めんどくさい。湿っぽい、やめやめ!
「リリエット、か? 戻れたのか」
「ん? そりゃそうよ私の身体なんだから」
「それはそうだな……ん? 待て。では最後の戦いのあの時……」
「うりゃあ!」
アルトレイアのおっぱいを揉んで誤魔化す。揉みごたえは一番ぐへへ……おっと。
――ねえ、あんたはこのままでいいの? このままアイツに正体も隠したままで、消えて、それで……
――だからさ。アイツにぶつけたっていいと思う。きっとアイツはそれくらい受け止めるからさ……
私と幻影の君との一つの賭け。
これは、私たちだけの幻影にしよう。




