独身最後の夜ー男子サイドー
独身生活最後の夜。明日はいろいろ忙しいだろうことは分かっているものの、一人で過ごすのもまた味気なさすぎる。というわけで
「なにがというわけだ」
寝そべった状態のスレイがツッコんできた。もはやおなじみとすら言える。
「まあいいんじゃないかな。シオンもそうだけど、シオンが囲ってる女の子たちはみんな、僕達と因縁浅からぬ仲なわけで、最後に色々ぶつけるいい機会ってことで」
「もう、みんな早く寝ないとダメだよ」
とか言いつつちょっとわくわくしてるのを隠さないアスタである。
「しかしクロード……いやクロクロまでいるなんてね。いや、別に文句はないけどね」
リオンは目線を、ちょこんと座っているクロード、もといクロクロに移す。
迷宮の支配権を取り戻したので、元の姿で行動しようと思えば出来るのだがこの状態で過ごすと省エネになるらしい。
「まあ私のことは気にせず、どうぞ皆さまご歓談を」
ぴょこぴょこと俺達の杯に飲み物を注いで回ろうとするのを首根っこを掴んで止める。
「今日はそういうの無しな」
「だね。真面目に働いてる横でバカ話もちょっとやりにくいってものだし」
リオンの言葉にむ、と考え込んで、そのまま俺の胸元に収まった。
「そーそー気楽に無礼講で行こうじゃあないのクロちゃん」
「……クロちゃんは止めてください」
ぽんぽんと頭を叩くおっちゃんにさすがにツッコんだ。
まあおっちゃんもギリギリアウトくらいを攻めたんだろう。大げさに肩をすくめながらあっさり引き下がる。
「しっかしクロードもあれだよな。マスコットとして女子寮の管理人とか。やっぱりラッキースケベなハプニングとか多少はあったりしたのか?」
「………………はい?」
たっぷり間をおいて、出たのはあまりにも意外そうな声だった。
「ああ、失礼しました……ええっと、ご期待に沿えないようですが、彼女たちに親愛の感情が無いではありませんが、劣情を抱いたことは全くありません」
まああれだ。話の種、というだけでなく……独占欲というか、そういう感情もあって尋ねた部分もあるんだが。
そういうこと以前に大丈夫なのかこいつは、と心配になってしまった。
「くっアハハハ、クロードにとっちゃあうら若き乙女たちも乳臭いってことかね。それでもまあ好みとかあんでしょ? ぶっちゃけちゃおうじゃないの」
「さて、悪魔として生を受けてより、そういった感情はますます遠ざかったように感じられます。ですが、そうですね…………私が誰よりも付き従うはイリューシオン様、そのことをきちんと分かっている女性であるのなら、まあ好ましいのではないのでしょうか」
ふと思いついたのは、マリアだ。
けれど、マリアはもう俺の嫁だし、クロードからのどうこうなんてのもあり得ないけどな。
「じゃあシオンからこう……求められたら応じたりすんのかね」
「…………」
考え込むな! おっちゃんの下世話な冗談だから!
「あはは、そっか、いや……うん、そうだ」
リオンはクロードの答えを聞いて、笑った。何だろうか。
「んー……そうだね。ねえシオン、今さらこんなこと言われても困ると思うんだけどさ」
「何だ?」
「実は僕さ、リリエットのこと好きなんだよ」
思いっきり不意打ちで爆弾放り投げてきやがった。
「そうか、でも」
「うん。別にいいんだ。何ていうか、分かった。僕はさ、そんなリリエットよりもシオンが好きなんだよ。だから、シオンからの略奪愛なんてゴメンだ。ただまあ……そうだね。もしシオンが死んでも面倒は見てあげるからその辺で」
「死なねえよ」
「だね」
リオンも本気じゃないだろう。それこそ、そんなことになったら後悔する。
シオン・イディム。
幻影の君がいなくなった世界で、みんなは一体どんな道を歩んだのだろう。
けれど、それを乗り越えた先に今こうしている俺たちの未来がある。上手くは言えないが、きっとそういうことなのだろう。
だから、俺はそれを越えて、生きていく。
――そして




