幕間:物語を降りた幻影
ねえ、いるんでしょ? 応えなさいよ。
『うん? 君から呼び出すとは珍しいね』
あいもかわらず憎ったらしい声が私の頭……ううん、魂っていえばいいのかしらね。奥底から響く。
そう……もう一人のファントムロード。あの最後の戦いで、シオンと永久の別れを演出したこいつは。
こいつはまだ、実は私と繋がっているのだ。
『念のために言っておくが、私は常に君と意識を共有しているというわけでもないのだよ? 君が本気で拒絶すれば、干渉も出来なくなるし、ほら、大切だろう。誰にも邪魔されたくない時間というのは、ね?』
うっさいバーカ。
てか、あんたホントにこのままでいいの? シオンに、告げなくて。
『そう思うのならさっき押し留めずに言えばよかったんじゃないかな』
それは……そう、だけど。
『まあ気持ちは分かるけれどね。何せ、ほら。私が本気を出したらメインヒロインの座が揺るぎ無さすぎるからね』
つくづく思うんだけどこいつ本当に私なのかしら。
『まあ半分冗談さ。マジレスするとだね……んー、シュレディンガーの猫とか知ってるかな?』
シオンもそうだけど、こいつも時々わけわかんないこと言うわね。
『私が今、未だにこうして君と繋がっていられるのは幻影魔法によるものだ。あるはずがないモノであっても、幻影で覆い隠すことによって世界を騙す。矛盾を例にするのであれば、盾を貫く『かもしれない』矛、矛を防ぐ『かもしれない』盾のままにしておけば矛盾は生じないということさ。ま、要するにバレなきゃイカサマじゃあないんだって、それ位の認識でいいけれど』
それで本当にいいのかしら?
『けれど……さすがにそれもこの世界での幻影の君本人であるシオンに知られてしまえばそれは単なる矛盾となってしまう。つまり、今こうして君と話すことすら出来なくなってしまう可能性が高い』
だから、最後の戦いでシオンに別れを告げた――。
でも、そんなの
『やってみなくちゃわからない、かい? そうだね。それは確かにそうだ。けれど、それを幻影のままにしておけば、失わないんだ。もし、ふれようとすれば消えてしまうのであれば……臆病だというのは否定しないけれど』
それは、私には言えない。言えるわけがない……けど…………けど!
『……泣かないでほしいな』
うっさいばか……。
『大丈夫さ。これでも、私は結構、満足しているんだよ。シオンに私の存在を突きつけてやることが出来たしね。それに……この世界でのシオンは、私にとっての幻影の君じゃない。私は私の世界で、また幻影の君を探す旅を続けるだけ。ただ戻るだけさ』
それでも……
『どうしてもというのであれば、幸せになってほしいっていうのは、ワガママかな?』
どうして、幻影の君ってのはこう、私の胸を掻き乱すのだろう。
でも、でもさ。きっと、私のバカな弟は、こんなやつを放っておきはしないんだろうって思うのよ。
私は、信じてる。
もう一人のファントムロードは色々な世界を渡り歩いていたりするのでネタが通じます




