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懐かしくて

 王都を一旦、後にして俺は最後の迎えに赴く。


 あの場所の風景が近づくたびに、既視感を覚えていってどこか胸が苦しくなってくる。


「さあさあ見てらっしゃい! 今日も見逃せない商品が目白押しよ」


 懐かしさと…………に浸る前に、何だか妙に聞き覚えのある声が響いてきた。


「今日のご飯のおかず? だったらこれなんかどうかしら? 彼女へのプレゼント? ならこれね」


 一体何を売ってるんだろうか。


「あ、シオン。帰って来たなら手伝いなさい」


 近づくと案の定、簡易なテーブルと……ハリセン? 装備のリリエットがこちらへ手招きする。


 いや、なんかさ。もうちょっとさ。


「何ボーっとしてんの」


「長旅で疲れてるからな」


「あ、シオン久しぶり!」


「て、シルヴィじゃんか。久しぶり」


「ふふ、ねえシオン? 時間あるかしら? よかったら……」


「はいはいシオン、これ重いから運んでってあげてね。まさか乙女レディのお願いを断ったりはしないでしょうね」


 どさりと麻袋をリリエットから受け取り、見遣ると一人のお婆さんが。


「もちろんだ。さあ、行きましょうか」


「あらあらこんなお婆ちゃんに。嬉しいわね」


 色々ドタバタしながら、何とか商品もあらかたけて、アイテムボックス内にテーブルを仕舞っていく。


「あ、そうだ忘れてた」


 リリエットは俺に背中を向けたまま、言う。


「お帰りなさい、シオン」


 まったく、こいつはどうしてこう……


「ああ、ただいまリリエット」


※※※


 そしてそのままリリエットに手を引っ張られて、家に着く。


「お父さん、ただいま」


「おお、お帰り……と、シオンもいるのか。お疲れさん」


「まあまあ、すぐにご飯の用意するわね」


 帰ってきた、と言っていいのか。親父の返答はやけにあっさりしたもんだった。


「親父、大事な話があるんだ。俺の正体について」


「……正体?」


 それから、俺は話をした。幻影の君のこと、俺がどうやってここまで辿り着いたのか。


 前世のことや、もう一人のファントムロードのことはさすがに伏せたが。必要もないだろうしな。


「…………あー、うん、なるほどな。うん。そうか」


 さすがの親父も消化しきれていないのか、曖昧な返事ばかりを繰り返す。


「それで、だ」


 そしてその中でも聞かなきゃならんことを絞ったらしい。


「リリエットはもらってくれるのか?」


 そこ!?


「まあ、正直なところ手に余るっつうかよ。そんなもんだからな。だから、アイツとお前が幸せに暮らしてればそれでいいかなってな。何か分からんが、リリエットも、少なくともお前が責任もって幸せにしてやらにゃならねえんじゃねえかってな。そう思うんだ」


 リリエット・イディム。


 どこまでも幻影の君に運命を翻弄された乙女。今さら知らない振りも無いだろう。


「そいじゃあ飯にすっか」


 そして俺達は夕食を囲んだ。


 久しぶりのあたたかくて、懐かしい食事に、思わず涙が出た。



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