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人ならざる者

 ペンドラゴンの戦いを間近で見た感想として……改めてとんでもないな。コイツ。


「さあどうした。遠慮はいらない。かかってくるといい」


 幻影魔法を警戒しているため味方の位置を常に把握できるように激しい立ち回りはしないようにしているが、それにしても数人を同時に相手にしていようと苦にしていない。


 驚愕すべきは、ペンドラゴンがいとも簡単に相手をこなしているように見えることだ。


 円卓の竜騎士に見つからないようステータスを抑えているという話だったがその話に偽りはないようにその力、スピードは確かに突出したものには見えない。


 であるのに、そのプレッシャーは本物であり、複数人を同時に相手取っても息一つ乱さない。


 これに……竜族のもつ本来の膂力が加わればどうなるか、考えるだけでも恐ろしい。


「と、大丈夫か、スレイ、ファントムロード」


 そしてこちらに力を貸す余裕すら見せる。


「何を得物としようと戦術というのは実は然程さほど変わりはしない。大事なのは呼吸だ。動作の一つ一つを連続したルーティーンの組み合わせとして、それぞれをこなす。呼吸に疲労を感じる生物などいないだろう? それと同じことだ。どれだけ繰り返そうと、その所作に疲労は訪れない」


 いやいやいや。無理がある。


 といいたいところだが、その理を否定することもまた難しい。


 ペンドラゴンの言葉を考慮してその動きを見れば、瞭然。動きに全くの無駄がないのだ。


 そして気付いたのは、一人。また一人と。倒すたびに、その剣を収めるような動作を繰り返している。その動作は一見、無駄に見えるが調子を整え、次の動作へと移るための予備動作で在るということが分かる。


「得てして、逆も言える。呼吸に疲労は無いが、逆に呼吸を乱せばそれは蓄積される。つまり、相手の動作を乱せばそれは穿つべき隙となる。このように!」


 突如として、鋭い剣筋が一人の兵士の胸を突き、倒れ伏す。


「スレイ、自分でもわかっているようだがお前は本来、使うべき力量をコントロールできておらず、必要以上の力を込めて相手を倒している。が、技に乏しい今の貴様ではそれも已む無しである。付け焼刃は禁物だが、今はとりあえず、私の言葉を聞くにとどめておけ」


 こいつ……この状況下で、スレイ、いや俺達に指導を? いや、俺達だけじゃない。


 複数の兵士たちがペンドラゴンに迫る。その剣戟に対して、この戦場で初めてペンドラゴンがその足を退いた。


「くっ」


 ペンドラゴンの口元が歪む。その感情は苦悶ではなく、愉悦。


「言い聞かせぬでも掴むか。なるほど、中々に優秀な兵士たちであるらしい」


「敵に言の葉が届く範囲でアドバイスとは」


「構わぬさ。最初から貴様らは敵ではないのだから」


「やはり、わざと……!」


 そうだ。事もあろうか、演習とはいえ敵として相対している相手に対しても、この円卓の竜騎士王は指導を行っていたのだ。


「互いに高みに登り詰めるが騎士の道というもの。こちらの流儀だ。さて、付き合ってもらえるだろうか」


 一瞬、竜がその巨大な口を開け、辺りを呑み込む幻影が見えた。


 その傲慢さ。不敵さ。残酷さ。残忍さ。その姿は紛れもなく、旧き支配者そのものである。


「やはり一筋縄でいかんか……」


 その時、有り得ない筈の声が響き、この戦場の誰もが目を奪われた。


「ほう……引っ張り出す手間が省けたか」


「いやいや、本来であれば私自らが出張るなど有り得ないのだが、まあ、色々と特殊な戦場だ。貴方が趣向を凝らしてくれた以上、私もそれに応えねばなるまい」


 ギルバート・G・マクシミリアンである。



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