休日のお出かけ中にバッタリと会った仲間と一緒に何故かドキドキみたいな。
順調に(?)悪役としての役割に目覚めているようなイリューシオンの今日この頃
そもそもな話、リオンが恋人役を欲したのは、婚約者がいるというのに恋人を作るというリオンの不貞を見せつける為じゃない。例えばアルトレイアがリオンに対して政略結婚とはいえ思慕の念を募らせていたり、女のプライドを肥え太らせていたりすれば、喩えそれが行きずりの女であっても婚約破棄は成立していただろう。
だがそうはならない。言ってしまえばアルトレイアとリオンはそこまで深い仲じゃないしからだ。
かといって義理堅い性格のアルトレイアが家同士の約束事でもある婚約を簡単に放棄するわけもない。
ではどうするか? 本気を出すしかない。アルトレイアとて、本気で愛し合っている恋人同士を引き裂くような真似はしない。感情の機微には多少疎くても、情に深いのがアルトレイアである。
そのため、リリエットとリオンは婚約破棄の為の偽恋人関係ではあるが、ある程度のリアリティが必要なのである。さっさとアルトレイアの前に立ち、
「好きな人が出来たんだ。婚約破棄しよう」
と言ってしまえばいいか……というとそうはならない。降って湧いた話過ぎるのだ。お前は何を言っているんだ、と一蹴されて終わりである。
いやそもそも、だったらリオンの方から婚約破棄したいって言い出せばいいだろう、と俺も言ってはみた。
『婚約の主導権についてはあっちにあってね。僕の方から言い出すってわけにもいかないんだよ』
と、それだけ聞き出せはしたがあとはのらりくらりと躱された。これもどれだけ本当なんだか。
まあとにかくだ。アルトレイアとの婚約破棄の為に、リリエットと仲睦まじい演技をしなければならない。と、いうわけでリオンとリリエットはデートをすることになった。
互いの理解を深める為というのもあるが、もう一つ理由がある。外堀を埋めるためだ。
いきなりリオンとリリエットが恋人になりましたと言っても無理がある。だから、一緒に外出したり、そういった様子を日常に散らばせる必要があるのだ。リリエットとリオンの仲がいい様子が噂になれば御の字である。
リリエットとしてもちょうど荷物持ちが欲しかったとのことだ。というわけで今日はリオンとリリエットのショッピングデートである。シチュエーションとしては、休日のお出かけ中にバッタリと会った仲間と一緒に何故かドキドキみたいな。
「さ、次行くわよ次」
そして俺は……そんな二人を尾行していた。
いやー深い意味はないんだ本当に。ただリリエットが身内の恥を晒したりはしないかと一応、弟としては心配になったりしてな。誰に対して言い訳しているんだ俺は。
それにしたって近くないか。リリエットは悪戯っぽく笑って、リオンは苦笑して。中々いい雰囲気だが……。
あ、ほら。店先で薬草の品定めとか始めたぞ。長いんだあれ。リオンがちょっかい出そうとしたらものすごい威嚇してきた。大丈夫なのか、仮にデート……いや実際、デートでもないんだが。
でも、あれだぞ? 愛想尽かされたりするぞ。パーティの為を思っての買い物だってのはそりゃあ分かるが。と、思ってたがリオンはリオンでリリエットを視界の中に収めつつ周りを見渡していた。そこで、別に退屈をしているようにも見えなかった。リリエットの様子を見ながら、時たま微笑んでいるようにも見える。
まあ相性は悪くない筈なんだよなあの二人。別の世界……って言っていいのか分からんが末永く付き合う結末が在り得たわけだし。
あー……たく。どうすっかな……。別に心配はなさそうだ。このまま見続けるってのも、何か惨めな気分になってくる。いや、でも
「うん? シオンじゃないか……こんなところで何をやっているんだ?」
「うぉい!?」
踏ん切りがつかない微妙な気分でいるところに、いきなり背中から声を掛けられた。そして変な声が出た。
「て、アルトレイア!?」
世間一般で言う休日だというのに、いつもの軍服に身を包んでいたアルトレイアに、俺は少し戸惑う。
「……何だ? 何かやましいことでもあるのか? それとも……」
ナイゾ? ヤマシイコトナンテ?
俺の態度も言い訳のしようもなく怪しいとは思うが、アルトレイアの様子も少し変だと思う。元気がない、か。
さて、俺は……どうするべきかな。この先に、リリエットとリオンがいる。その様子を見せるにはまだ少し早い気もする。
アルトレイアを放っておくわけにはいかない。色々な意味で、だ。
「ここで会ったのも何かの縁だ。ちょいとばかり気晴らしに付き合ってくれないか?」
「……いいのか? 私は遊び心の無い方だと自覚はあるぞ?」
「ならそれを教えてやるのも悪くはないな」
アルトレイアの無骨なグローブに覆われた手を取る。
「っ、シオン……?」
「今度の俺達の為にも、だ」
「わ、私達の、ため……?」
「ああそうだ。コマンダーとして、遊びの部分が要らないってことはないだろう。ある程度の遊びを常に確保してこそ柔軟な作戦実行に繋がるってもんだろう」
「ぁ……ああそうだな! そうだ。その通りだ」
もう片方の手で顔を抑えるアルトレイア。
まあ詭弁もいいところだ。少々八つ当たり的な部分も無いでもない。
けど、アルトレイアの方から今回の件について探りを入れるのも悪くはないだろう。と、考える。
アルトレイアのことが心配なのも、もっとよく知りたいってのもきっと事実なはずだ。どれが何に対しての言い訳なのか俺自身にもよく分からん。
幻影の君が何を言ってんだって話だが。まあいいだろう。今日は、アルトレイアと過ごすことにしよう。
「それでは、行くか」
アルトレイアが歩き出したところで気付いだ。
シチュエーションとしては、休日のお出かけ中にバッタリと会った仲間と一緒に何故かドキドキみたいな。




