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ワガママは支配者の特権

色々な行き違いのお話です

 旧き支配者、円卓の竜騎士王ペンドラゴン。王都に現れた謎の侵入者のとんでもない正体が明らかになったところで、詳しい話を聞くため、場所をカフェに移すことにした。


「……それで、何で旧き支配者のあんたがわざわざ迷宮を離れてこんなところまで」


「妙なことを言う。私は招待に預かってここを訪れただけだが」


 招待?…………あ!


「そうだ思い出した。クロードが招待状出してたんだ。ペンドラゴンに」


「何だと?」


 アルトレイアが頭を抱える。そしてじろりと俺を見る。その顔は……何でそんな大事なことを言わなかった!? て顔だな。いやー以心伝心で参っちまうぜHAHAHA。


 ごめんなさい。忘れてたんです。いや、でも、まさか。本当に来るとは。そして来るのが早過ぎるわ! 何で俺より早いご到着なんだ。いや、俺もそこそこな寄り道してたけどさ。


「一応言っておくが、これは仮初めの姿だ。私の本来の姿は紛れもなくドラゴン。私が本気を出せば世界をぐるりと回るのにも丸一日とかからない」


「さいですか……」


 そりゃ俺よりずっと早い旅なんだろうなぁって。


「で、何で隠れてたんだ?」


「一応、私なりに気を遣った結果なのだがな。事を荒立てる気も無く、この地の指揮官には話しは通しているものかと思っていたのだがどうやらそうでもないらしいと来た」


 それは……悪いことをしたな。


「いや、構わんさ。この地の指揮官はどうやら優秀らしい。あまりにも楽しくてな、何度か本気を出しそうになったぞ」


 んー。詳細は分からんが、マクシミリアン将軍は旧き支配者をそれなりに追い詰めていたらしい。さすがというべきか。


「しかし来るなら来るで、最初から気配隠してくれればよかっただろうにさ。おかげでマクシミリアン将軍ならびに兵士たちが毎日大変だったらしいんだが」


「だから言ったと思うがそもそも私の正体を伝えてあればそれで全て済んだ話なんだがな」


「それはごめんなさい!」


「……まあいい。そもそも隠密行動で幻影の君に敵う者などいない。ましてや旧き支配者ともなればなおさらだ。そもそも気配を隠した方法についてはあくまで『やろうと思えばそういうことも出来る』程度の副産物に過ぎない。だから色々と無理が生じた。まあ、これでも凡庸な指揮官であれば誤魔化せただろうが」


「副産物……?」


「……どうやら本当に何も知らないようだな。さて、どうしたものか」


 ふむ、と顎に手を添えてしばし考える素振りを見せる。


「まあいいか。どうせクロードにでも尋ねれば知れること。特段秘密でもない」


「何の話だ?」


「ドラゴンは何故強いと思う?」


 質問に質問で返された形ではあるが、恐らくこれは話したい話題に繋がっていることなのだろう。


「元々強いからじゃないのか?」


「そうだな。間違いではないのだが……」


 半分冗談だったのに当然のように言いきりおったぞ。


「そもそも竜には『鍛える』という概念がない。例えば、我らが竜のいる迷宮は人類にとっては呼吸すらも困難な聖地として認識されているが、竜の感覚としてはそれこそ、軽く息を吐くような程度のものでしかない。人に限らず、そもそもの生き物としての在り様が違う。例え岩をも溶かす火山の中であろうと、光りすら届かぬ海の底であろうと、吐息すらも凍る極寒の地であろうとあろうとすぐさまその身体を適応させることが出来る。生命が長い時間をかけて行う進化という営みを、その大気を身体の中に取り込むことで可能とする。その応用……と言っていいのか分からないが、この場に有って不自然ではない生き物として、気配を紛れさせる・・・・・ことが出来るようになる」


 なるほど。最初から使わなかったのではなく、王都の中に入り込んでからでなければ使えなかったということか。


「だが、そうであるなら事情を説明すればきっと父も分かったことだと」


 アルトレイアが苦言を呈した。苦労をさせられた当事者の一人として、口を挟まずにはいられなかったのだろう。


「これも私なりに気を遣った結果なのだ。捕まるわけにはいかなかったのでな」


 少し不可解に感じた。ペンドラゴン、大物然としたこの男ではあるが、そうであるが故にというべきか。今さら、目に見えた権威だとかそういったモノに固執するとも思えない。


 人よりも環境に適応する能力が高いという竜の特徴を聞いたからだろうか、この男はたとえ牢屋の中に入ろうと逆に新鮮だとけらけら笑っていそうな予感すらするのだ。


「確かにこの国の指揮官が私をどう扱うか見てみるのも個人的には一興ではあったがな。だが、そもそもだ。私は幻影の君が話を通しているものだと思っていたから、私としては隠れる道理はないと考えていたのだ」


 そうか。言われてみればそうだな。


 でも、実際の行動は着いて早々、気配を隠してマクシミリアン将軍の追跡の手を掻い潜ったわけだが。


「何か嫌な予感がするなぁ……」


 リオンがぼそりと呟いた。そしてその予感は大当たりだったといえる。


「私が気配を隠したのはこの国の軍からではなく、私を追いかけてくるだろう円卓の竜騎士たちが追いかけてこないようにするためだ」


「……いや、円卓の竜騎士って仲間じゃないのか」


「クロードはともかくとして、幻影の君のことは実はあまり快く思っていないようでな。ましてや幻影の君は迷宮内での権力争いのごたごたがあった直後だ。地盤固めに利用しようという腹積もりであれば面白くもない。という意見もあった……が、クロードの便りを見て、新しい幻影の君はよほどクロードの信頼も厚いようで、実際にこの目で見てみたくなったのだ」


「………………えーっと……要するに」


「いや、力を出し過ぎると本来の竜の気配が顔を出すのでな。抑えるのに苦労した」


「部下に何も言わずに出て来たってことでいいのかな?」


 何事も無かったかのように話を続けるペンドラゴンに、俺は確認を取る。


「まあ、そういうことだな」


 そして悪びれもせず、言い放つのだった。


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