VS王城親衛隊
「で、他の三人は全員、王城にいる……ってことでいいのか?」
「うん。そうだね」
リオンからリアルタイムでの情報を得て、歩みを一路、王城へ。
フィオレティシア、それにアルトレイアがいるのはまあ分かるが、スレイまで居るというのはどういうことだろうか。
まあ、理由が想像つかないと言えば嘘だが。
「止まれ!」
そうこうしている内に王城の門まで辿り着き、二人組の門番に足止めされる。
「これはリオン・アルフィレド殿……そちらの方は」
リオンの方を見て、やや警戒を崩したが隣の俺を見てまた引き締めた。
「シオンだよ。話は通ってたと思うけど」
「シオン……シオン・イディム殿ですか! 少々お待ちください」
二人組の門番はこちらに聞こえないように話し合い、そして一人が城内の向こうに行ってしまった。
「お待たせいたしました。どうぞお通り下さい」
そしてしばらくの後、戻って来た門番の片割れが、すっと促した。
「……妙だね」
しばらく、誰も居ない王城の廊下を歩いていたところで、リオンは呟く。
「いや、ただの勘なんだけどね。どうも少し様子がおかしいような気がする」
「勘、ねえ」
「話したことあったと思うけど、昔、追っ手に命を狙われてた時期があってね。それはもう色々な手練手管でね。マクシミリアン将軍が守ってくれなかったら死んでただろうね。で、何だ。その時の経験則もあってね。だから、多分、シオンよりも人間の小賢しさみたいなものには、慣れってのがある」
「いやな慣れだな」
「そうだねぇ」
俺の方も昔、色々ありはしたが追っ手なんかはかからなかったしな。
しかし何だ。その勘が働くってことは、どういうことなん……その時だった。
「!?」
反射的に後ろに飛び退く。
するとその視線の横、壁に槍がぶっ刺さっているのが見えた。壁にはひびが走り、かなりの力で発射されたのがうかがえる。
『ふっふっふっふ……』
リオンと二人でドン引いていると何やらどこかから声が響いた。そして同時に前後に壁が降りてくる。
『よくものこのこやって来おったな! 幻影の君!』
その一声は恐らく青筋立った怒りを背景にドスが効いており、ピリピリと大気を揺らし、リオンと二人して思わず耳に手を当てる。
「この声はまさかとは思うんだが」
「うん。国王様だよ」
マジか……。てか何でこんなケンカ腰なんだこの人。
「シオン一体何やったの。あのいつも穏やかな国王様がこれだけ乱心するって相当だよ」
「俺はそのいつもすら知らんし」
まあ、心当たりがないと言えば嘘だが。
愛娘を奪おうというのだからそれなりの抵抗を覚悟してはいたが……少々リアクションがオーバーすぎやしないか?
「あーええっと……国王。聞こえてるのか見えてるのかはよくわからんが、こっちには俺だけじゃなくリオンがいてだな。俺に対する無体はまあ、甘んじて受けるとしてもどうにか無関係のこいつだけは」
『そうして逃げおおせるつもりか! その手は食わんわ!』
「そうじゃなくてだな!」
改めて分かった。この国王、我を失ってる!
ガタッと音がしたかと思えば天井が開き、無数の刀剣が降ってくる。
「おっと」
パチンと指を鳴らして、魔法を展開する。風魔法で勢いを殺し、重力魔法で向きを変えて集積し、適当な地点に落とす。
ゴゴゴゴ……
「うん?」
前を見遣ると、低い音と共に壁が迫っているのが見える。
ならば後ろはどうか。同じように迫っている。うん。なるほど。挟み撃ちの形になるな。
何て言っている場合ではないか。
「さて、どう切り抜けようかシオン」
「切り抜けるってのとはちょいと違うな」
冷や汗をかきながらも強引に口元だけ歪ませるリオンに対して、俺はさらに強引に余裕の笑みを浮かべる。
闇よりも深き幻影を纏い――幻影の君は今、この人の王の城に君臨する。
久しぶりの幻影の君へのクラスチェンジだ。
左の手のひらを前方の壁に合わせ、そして右手の拳を思いっきり……叩きつける!
「ぶち壊し抜ける。やれやれ、思ったよりも厚い壁だ。もう二、三発はぶち込まないと」
右手と左手を使って、壁を壊して、向こう側に広がる廊下を確認して渡り、呆気にとられているリオンの手を取って、促す。
「まさか幻影の君がこんな力押しの手を使うとはね」
「乙女を口説く手管は多い方がいいだろう? たまには男らしいワイルドな面も見せなくてはね」
搦め手だけで力が伴わない相手なんて言うのは、力任せの脳筋相手と同じくらいには御しやすい。
両方を取れる選択肢があるからこそ、相手を惑わせることが出来るのだ。
「しかし何なんだこの忍者屋敷も真っ青な仕掛け満載な王城は」
静かに警戒しながら歩を進める。
「その忍者屋敷とやらがどんなものなのかは寡聞にして知らないけど、王城なんてのは多少の手のこんだ罠なんかはあるさ。ここを落とされたら終わる国としての象徴なんだから。とはいえ、ここまで手の込んでいるのはさすがに珍しいとは思うけど……」
ひょいっとリオンの眼前に迫った槍を掴んで、ポイっと投げ捨てる。
「けど……何かな?」
「どっか遊び心みたいなものを感じるんだよね。だから、多分、罠の作成にはおおよそ幻影の君が……」
「よし、聞かなかったことにしようか」
薄々勘付いてはいたが言葉にしたくない。幻影のままにしておこう。
『さすがは幻影の君、その小癪さ、相変わらずだな』
そしておなじみ国王の声である。
しかし気になることを口にしたな。相変わらず?
やはり、というべきか。この国王は、幻影の君と面識があったのか。しかし、何の……?
『またしても……またしても我が歌姫を奪うのか貴様はァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!』
そして今度はどたどたと四方八方から鎧を着こみ、臨戦態勢の兵士たちが取り囲む。
「……親衛隊の皆も大変だね」
顔見知りなのか、リオンはしみじみと哀れみの視線を送っていた。
そして親衛隊の皆さんはそっと目を逸らした。
「リオン様、可能であればあなただけでもこちらに」
「……んーそれはちょっと遠慮しておこうかな。これでも僕は彼の親友だからね、付き合うさ。それよりも君たち、幻影魔法を見破るすべもないのにそういうこと軽はずみに言っちゃダメだよ。僕とシオンが入れ替わっても気付けないじゃないか。冷徹にならなければならない時にはどこまでも冷徹にならなくちゃあね」
リオンの友情にありがたいと思うべきか……余計なことを言って親衛隊に気合を入れたのを恨むべきか。
パチン、と指を鳴らす。
「っ!? 消えた!? いつの間に! 探せ!」
兵たちに動揺が走る。
「待て! 落ち着け! 幻影魔法だ! 包囲を崩すな幻影の君はまだこの近くにいる」
「さすがに引っかからなかったか」
仕方がない。少しだけ隙を作るのには成功した。となれば、あとはこじ開けるだけ!
「リオン!」
「さすがに足手まといにはならないよ」
強引に兵たちの間を、リオンと共に走り抜ける。
「さて、どうしたものかな」
「さっきから作動させている仕組みは、多分、国王様自身が動かしてる。そこを目指せればいいんだけど……機密中の機密だ。適当に親衛隊の人間を捕まえて吐かせようとしたところで無駄だろうね。多分、マクシミリアン将軍ですら知らないだろうし、手掛かりなしで探り当てられるところに在るとも思わない」
他国ではあるが元王族であった経験からリオンはそう看破する。
ではどうするか?
そうこうしている内に、親衛隊の足音が響く。
「こっちです!」
どこかの扉の前、背を向けていた私を引っ張る手があった。
シオンが国王様の前で偉そうな態度を取ってますがそれは幻影の君だからということで虚勢張ってるみたいなところがあります




