リオン・アルフィレド
「んー、そっか。マクシミリアン将軍、忙しそうにして家に帰ってないみたいだったから心配はしてたんだよね。兵の皆も色々バタバタしてたし。ま、あんまり好奇心で突っ込んでもどうかと思ったから深くは聞かなかったけど」
次の目的地へ向かう傍ら、リオンに立ち歩きで情報共有を進める。
「んー……」
「どうしたの? シオン」
「いや……改めて考えると、マクシミリアン将軍から話を聞いて、何か思い出さなきゃならないことがあるような気がしてさ」
「それは、今回の件に関すること?」
「分からん」
実際、それが線で繋がる事柄なのか見当がつかない。
ただマクシミリアン将軍を煙に巻いていることからそれなりの実力者……旧き支配者の関係者なのではないか、と推察すると……何かしらのフラグを踏んでいたような。
セレスさん? いや、違うな。
「ま、そういうのは一旦、時間を置いておいた方が上手く行くこともあるってもんだよ」
「そんなもんかね」
「それより助かったよ。僕の家に来る前にバッタリ出くわして」
確かにマクシミリアン将軍からリオンの……アルフィレド王国の王族がひっそりと暮らしているという貴族区画の住居を目指していたところだったのだが。
「何だ? 親と仲がよろしくないのか……て、俺が言えたことじゃないな」
「アハハ、そうだね。うん。お察しの通り、アルトレイアと婚約破棄したっていうのは、伝わっているわけでね。そのもう一人の当事者とも言えるシオンを会わせたくないんだよね。まあ、僕の意気地がないだけだけどね。現にマクシミリアン将軍は全く気にしてないからシオンに真っ直ぐ教えたんだろうし」
それは……
「悪いことをしたなんて言わないでよ。アルトレイアをこっちに投げられても、何だ。困る」
「そういえばアルトレイアはどうしてるんだ?」
「ん? ああ、さっきの僕と同じだよ。年頃の貴族のお嬢様方にとっては恋愛の話というのは興味に事欠かなくてね。お茶会に引っ張りだこさ」
「……ふーん」
真実味はある。が、ふと思いついたことがあった。
リオン、お前、それは自分の家の事情にアルトレイアを巻き込まないように根回ししたりしてるんじゃないのか?
聞いたところで真実は得られないだろうけどな。
「だからさ。アルトレイアの想い人であるシオンに顔合わせするとなると、色々面倒なことになると思うんだよ。例えば……そうだね。実質的な夫婦関係は譲るから、周囲への婚姻関係だけはこちらに示し合わせてもらないかって……」
「殺すぞ」
おっと。
「すまんな」
「いやいや。だから別に悪いと思わなくていいよ。さすがにここまでふざけたことは言わないとは思うけど……シオンが幻影の君だとバレたらますます面倒なことになると思うしね」
アルフィレド王国の旧き支配者は王を守らなかった。であれば、アルフィレド、リオンの両親は新たな後ろ盾として、リオンの友である俺を頼ってくる可能性も考えられる、と。
無論、仮にそうなったとしても聞き入れるつもりなどさらさらないが、それはそれで面倒なことになるのだろう。逆恨みも買うかもしれない。
だから巻き込みたくない、か……。
リオンの考えは凡そこんな所だろうが、しかし、それは結局、逃げでしかないのではないか、とも思う。
ではどうするか……
「なあリオン。俺は別に構わないんだ」
「構わないって……何が?」
「幻影の君っていう名を利用してもだよ」
リオンは驚いて目を見張る。
「何言って……」
「ただで貸してやるわけじゃないさ。本当にお前がマクシミリアン将軍の下で、学園で、培ってきたモノがあんならさ。それをぶつけてやりゃあいい……お前は、それからも逃げてるんじゃないか」
「それは……でも」
「ただの一介の冒険者が王国の在り方について案じたところで説得力も強制力もないさ。けど、その在り様を保証する旧き支配者であれば話は別だ。だから、幻影の君が保証する。俺が、ちゃんとリオンの話を、考えを、聞けっていえばお前の両親や、王子としてのお前を慕う人間たちだって耳を傾けるさ」
「……」
リオンはしばし考え込む。しかし、すぐに目を見開き、覚悟を決める。
「……全く、その時はちゃんと隣にいてよね」
「ああ。そん時が来たらな」
とりあえず、今は目の前のことに集中するとしようか。話しはそれからだ。




