マクシミリアン将軍の本拠地
アイリシア達とも一旦別れ、次の目的はいよいよ王都である。
王族……は、そもそも幻影の君が擁立した存在だからいきなり不敬とかにはならない……ならないはず。ならないといいなぁと、うん、そこまで深刻に考えなくてもいいはずだが、マクシミリアン将軍も一緒だからなぁ……。
殴り合いもした仲だしそこまでヒドイことにはならんとは思うがクロードとおっちゃんも敵に回したくない相手っていう評価を下していて、それは俺も実感したし。色々な意味で。
「はえ~……やっぱ王都は栄えてんな」
人の行き来が盛んで活気があふれている。市場を見たこともない食べ物や独特な紋様、材質の布なんかも溢れている。儲かる匂いを嗅ぎつけるからこそ、商人も手間暇かけて商品を運んでくるのだ、というのも親父から教わった。要はきちんと金が廻ってるってことだ。これだけで全てを判断するにも早いが。
「そこのお前、止まれ!」
適当に市場で買った果物に手を付けていると、そんな声が聞こえてきた。
どうやら警備兵みたいだが、何かあったんかな、と他人事のような心地で歩いていると、
「そこのお前だ! 止まれ!」
と、乱暴に肩を掴まれた。
「……何だ? 歩き食い禁止なのかここ」
「怪しいヤツめ。ちょっと本部まで来てもらおうか」
まさかの職務質問。ええ? いや、別に怪しいとかそんなこと無い筈だが……妙だな。
よく見ると兵士の顔は赤らんでいて、呂律もまわっていないように見受けられた。昼間っから酒か? マクシミリアン将軍の御膝元で?
にわかにこちらに視線が集まる。ふむ、ここで騒ぐのも何だな。どうせ本格的に危なくなれば幻影魔法で逃げだせるんだし慌てる必要もあるまい。
「分かった。エスコート頼む」
「……こっちだ」
従順に言うことを聞いたのが意外だったのか、少々戸惑う様子を見せながらも、兵士は歩き出し、俺も着いていくことにした。
※※※
そうして連れてこられた詰所。その中での一室の前で、ようやく立ち止まる。
「閣下! 例の者をお連れしました」
ノックをして、扉が閉じたままでありながらも敬礼していた。形式というだけでなく、本当に心の底から敬服しているということか?
いや、よくよく見れば、さっきまでの顔の赤みが消えている。それに、声もはきはきと明瞭だ。
「うむ。入れ」
と、思考を巡らせていたところでその声に聞き覚えのあることに気付いた。
「久しぶりだな、シオン」
まるで驚くこともなく、ギルバート・G・マクシミリアンは俺に挨拶を投げた。
「ご苦労だった。持ち場に戻ってくれ」
「は! 失礼いたします」
俺を連れてきた兵士は、敬礼をし、
「済まなかったな。少々手荒な真似をした」
そして、すれ違いざまに謝ってきた。
やっぱりそういうことか、と。二人きりになった将軍をじっと見遣る。
「随分な歓迎ぶりじゃないか。わざわざ人を寄越してくれるとは思わなかった」
何てことは無い。全てマクシミリアン将軍の手の内だったということだ。
わざわざ酔っ払いの振りまでこなす部下……恐らく王都中、隅々まで手が届くに足る数で存在するのだろう。
「惜しいな。もしここで抵抗していたようなら処断する大義名分が出来ていたんだが」
「奇遇だな……ま、この程度のことで腹を立てるほど、幻影の君の器は小さくないけどな」
知らなかったとしても旧き支配者に対する礼儀がなっていない。試されていたとするならばなおさら。
だが、幻影の君はその広い懐で許そう。
俺とマクシミリアン将軍は堪えきれずに笑い合った。
「まあ、生きていてよかった。シオン」
マクシミリアン将軍は人懐こい笑みを浮かべた。




