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天運の主との支配者会談

 ラ○ュタよろしく雲に突っ込んだ時にはどうしたものかと思ったが辿り着いてみればなんてことは無い。


 はい強がりです。足が地に着く感覚に身体中が感動して震えが止まらない。


「はぇ~……」


 所々にどうやって浮遊しているのかは分からないが踏みしめる大地は確かにあった。しかしそれは一部であり、基本的には雲が敷き詰められている天空の聖域ダンジョン。足を踏み外せば下に真っ逆さまだろう……本来の住人である天使を除いて。


 空はなお近くどこまでも青い。しかし、絶景に感動するよりも前に恐怖に心が砕かれる。


 惜しい。実に悔しいな、というのがこの地に足を踏み入れた感想だった。


「どうかしましたか幻影の君」


 気が付けばセレスさんははるか向こうに移動していた。


「ああ失念していましたね。この地は人が生きやすいようにはできていませんでした」


 セレスさんがひとっ飛びでまたこちらに近寄って手を差し伸べてくる


 俺はそれを断り、ぴょんっと跳んで移動する。


 ここでいつまでもビビっているようでは示しがつかない。


「ああいや、セレスさんを邪険にするつもりはないのですが」


「くす、いえ。構いませんよ。では、参りましょうか」


※※※


 広大な空の上。ところどころ転移しながら辿り着いた中心に、それはいた。


「来ることは分かっていました。幻影の君」


 六枚の翼をはためかせ、薄いヴェールを身に纏う天使。その声と容姿からは男か女かはうかがい知れない。その金色の髪、白い肌は芸術のように浮世離れした美しさがあった。


「まあそりゃ予想は付くだろうな」


 マリアが帰ってきてるわけだからそこから俺が追って来ることくらい予測がついても別におかしくない。


「……」


 出鼻をくじかれた形でセレスさんと天運の主がすごく微妙な顔をしていた。


 セレスさんはゴメンなさい天運の主は知らない。


「それでだ。正式に断っておくが、マリアのことは貰うぞ」


 セレスさんが息を呑んでいた。何だ。何かおかしいか。


「元より私は天使の自由を束縛したことなどありません。マリアがそれを望むのであれば好きにすればよろしいかと」


 すんなりだな。まあ『マリアが望むのであれば』なんて後でどうとでもなりそうな保険掛けてる辺り真意はうかがい知れないが。


「それでついでにマリアの両親にも挨拶したいんだが」


「天使に他の生物のような親というものは存在しません。魂の根源から直接生まれ出でる独立した魂を天使、あるいは悪魔と呼ぶのです。強いて言うのであれば私が親代わりと言えるでしょう」


「そっか。じゃあそれでいいな」


 あと何か言うことはあったか……ああそうだ。


「天使っていうのは地上に下りて各地を巡る仕事とかあったりするのか」


「は?」


 怪訝な顔をしながらも天運の主はしばし考え込んで、答える。


「そうですね。私達を信奉する教徒が誤った道へと進まぬよう、天使が教え導く役目は存在します。しかし、下界に下り立とうとする天使はそうそうおらず、旧き支配者との衝突もあり得るので余程の信の置ける者でなければなりませんので、人材不足気味で邪教となる一歩手前で特使を派遣する場当たり的な対応となっているのが現実かと」


「なるほど」


「そのようなことを聞いてどうするというのですか?」


「いや、何だ。セレスさんにその役目を預けてみる気はないか?」


「「……は?」」


 セレスさんと天運の主が呆けた様な声を出した。


 天運の主は、セレスさんを見遣る。


「……幻影の君」


「あ、いや、何だ。セレスさんが嫌ならそれでいいんだけど」


 ただ、セレスさんからだと言いにくいかなって思ったから。セレスさんが輝いた目で俺に料理を紹介していたのを見ると。


「……天運の主さま」


「セレス。あなたが望むのであれば引き続き、地上に降り、人々を導く役目を与えたいと思います。よろしいでしょうか」


「は、はい。ありがたく拝命いたします」


 セレスさんは信じられない、という顔で呆けていて、そんな彼女の様子を見て、天運の主はふっと微笑んだ。


「全く、相も変わらず厄介ですね。幻影の君というものは」


 セレスさんは、はっと振り返り、俺を見る。


「……ありがとうございます。幻影の君。イリューシオン様」


 にこりと微笑んだその笑顔は、とびきり綺麗だった。



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