事後処理と慰霊
新しい朝が来た。希望の朝だ。
何て常套句はいいとして、んー……と朝、目覚めて伸びをする。
仄暗い迷宮内。灯りは十分にあるとはいえ昼夜の感覚が曖昧になるし、普通に考えれば身体に変調をきたしてもおかしくは無いと思うが、むしろ体調はすこぶるいい。
元来、そういう生き物だ、ということだろう。
「おはようございますイリューシオン様」
クロードの用意した朝食を食べながら、昨日は聞きそびれていたこれからの予定を確認する。
「他の皆はどうしてるんだ?」
「エドヴァルド氏とミスティさん以外は皆既に旅立っています」
元々、おっちゃんとミスティに関してはこの地で暮らしていたのだからその点については疑問は無い、が
「……マリアもか?」
「ええ。同郷の御友人たちに報告に行ってくるそうで」
妙な感じだな。
この学園に来てから別行動ってのも珍しくは無かった筈なんだが。
いや、うん。気を取り直して。これからの俺がしなければならないことを確認しよう。
「昨日も言いましたが、迷宮内の事後処理は私にお任せください。ミスティさんも手伝ってくれると言ってくれましたしね」
「で、俺は何をすればいい?」
「それは勿論、結婚に伴う各ご家庭への挨拶回りですよ」
「……やっぱそうなるかー」
分かってましたけどね……ちょっと気が重いなぁ。
「で、アレだろう? ハーレム婚だってことも説明しなきゃならないだろう?」
「それはそうですが……別に珍しいことでもありませんよ。ありふれてもいませんがね。それともまさか今さら今までを撤回して誰か一人選ぶとでも?」
「それは無いけどな」
でしょうね、とクロードは笑みを浮かべる。
「さて、イリューシオン様も起きたのであれば、さっそく出かけましょうか」
「どこにだ?」
「……墓参りです」
※※※
ミスティ、おっちゃんと俺はクロードに案内されて、迷宮内の中腹、隠し階層を進んでいた。
場所が場所だから礼装というわけにもいかず、いつも通りの冒険者の装いで。俺達は辿り着いた。
いくつもの墓石に名前が刻まれて、苔や埃で薄汚れて、今まで手入れされなかった寂しさが募っていた。
「ここに、ママが」
「ええ。彼らだけではありません。先の動乱で共に戦った勇士たちが、ここに眠っています。本来であれば、この迷宮内にきちんとした墓所もあったのですが……」
バスティア・バートランスとの戦いの最中で、辛うじて確保できたのはこの場所で。それでもしばらくは立ち入れなかった。
「いずれ、彼らの魂を在るべき場所へ弔う為に」
クロードが尋ねる。人と魔の区別なく弔った場所で。
ユリウスの遺体は、おっちゃんが回収して迷宮の外の墓所へと弔ったらしい。
そしてミスティの母親の遺体はここに眠っている。
いずれ、再び見える時が来ると信じて。
「彼女の骨だけでも、移せないか、と思うのですが」
「いや、そいつぁ逆だろう。あいつはさ。あいつは、きっとここに辿り着きたかったはずだ」
「……そうですか」
手を合わせる。
「パパ。ママ。私、幸せになります。だから、見守っていてください」




