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婚約関係がバレました

「そっか、アイリがそんなことを……」


 アスタに事の次第を伝えると当たり前だが落ち込んでいた。普段は明るい笑顔を振りまくムードメーカーだし、心苦しくはある。


「……アイリ、ボクのことキライになっちゃったのかな?」


「もしそうだとしたら、アスタはどうするんだ?」


「……そうだね。ボクがここに来たのだって、ただのお節介だ。別にアイリがボクのことを必要ないっていうんならそれはそれでいいんだ」


 今はこれくらいが限界かな。


 こいつら兄妹仲も色々とややこしいことになっちゃあいるが、まあアスタが折れてなきゃあどうにでもなる。まあそもそもこれくらいで折れるようなタマじゃあないんだがな。アスタ・ココレットってやつは。


「ありがと。シオン」


「何の話だ」


「あはは。そうだね。何の話だろうね」


 くすくすと笑うアスタ。あー全くなんだこのお兄ちゃんは。


「ふぃ、ふぃおん! ふぉっふぇひっふぁらふぁいふぇ(シ、シオン! ほっぺ引っ張らないで!)」


 あーくそ無駄にモチモチしてんなこいつのほっぺ。そして手足をぱたぱたさせるな可愛いから。


「……何してるんですかあなた達は」


 じゃれつきながら半ば押し倒すような体勢になってしまった俺達。


 そんな俺達に冷たい声を掛けてきたのは、盗賊少女ミスティ・サイファーだった。


「なるほど。これが男の方の友情、というものなんですね」


「いえ、フィオレティシア様。これが世間一般のものという認識では困ると言いますか」


「あんたまたバカやって……よそ様にあんまり迷惑かけるんじゃないの」


 現れたのはミスティのみではなく、アイリシアを除く女子メンバー全員である。


 例の如く作戦会議である。アルトレイアと俺で話し合ってるだけじゃあ色々と問題あるし、一度やっぱり顔合わせというか親交を深めるというか、そういう集いが無くちゃあならんだろうな、という話をしていたのだ。


 時間をかけ過ぎではないだろうか、と思わないでもないがそれぞれの職業クラスでの座学もあったりで元々スケジュールも合わないし、他のパーティも大体そんなものだ。


 さて……後はあれか。遊び人リオンか。


「それでリオンのやつは一体どこをほっつき歩いているんだ?」


 幼馴染アルトレイアの厳しい物言いである。まあ間違ってないけどな。


 昼間だが、どうにも最近のリオンは放浪癖というかそういうが酷くなっていった。誰にも行方を知らせず夜遊びしている姿もよく目撃されているようだし、同じパーティの一員として微妙に肩身が狭い。


 約束をすっぽかすようなやつじゃあないと信じてはいたが、ちゃんと伝えておいた今日の顔合わせにも関わらず朝から……いや、昨夜から出かけているようだし。


 リオンに限っては喧嘩に巻き込まれただとかその手の心配はしていないのだが、何を考えているんだあいつは。何というか……ここまで来るとわざとらしさすらある。まるで自分がろくでなしだとかそういう印象を周囲に広めようとしている、というか。


「全くあいつは……」


 あいつの真面目な幼馴染に対して、わざわざ神経を逆なでるようなことをしている、というか。


「にしてもリオンとレイアって相性はあんましよくなさそうよね。けどそれなりに付き合い長そうだし……何かあったの? 付き合いのきっかけみたいなの」


「うん? まあ父の紹介もあったし、それに……」


 それに? というところで小声で


(そういえばこれはリオンに口止めされていたか……)


 と呟いていた。そうか、あのことは一応秘密扱いになってたか、と思い出したところで、さらに思い出すのが遅かった。


「そういえばアルトレイアさんとリオンさんは婚約していたのでしたね」


 ここで躊躇なくバラしてしまう天然お姫様がいたのだということを。


「え? え? 婚約? うわぁそういうのホントにあるんだ」


「なるほどこれはさすがに驚きましたね」


 ここでリオンがいればどうにか止めただろうにな。まああいつの自業自得だ。


 そう。こうしてパーティメンバーにリオンとアルトレイアが婚約者同士である、と知られることになる。


 これがリオン・アルフィレドのストーリーの始まりであり、世界の運命の歯車が動き出す序章であった。


※※※


「ねえねえリオン。その、アルトレイアさんと、こ、婚約者同士って……ホント?」


「……え? 誰から聞いたの?」


 みんなが帰った後、夕方くらいに帰って来たリオンに、アスタは早速突撃していた。


「お前がいない会議でな。王女さんが話してくれたぞ」


 そっかーそれは盲点だったなぁ……とリオンは呟く。


「ちゃんと話し合いに参加しとけばこんなことにならなかったんだけどなぁ?」


「そうだね。その点は反省しなくちゃね。ゴメンねシオン。その辺りの埋め合わせはちゃんとするから」


 くるりとリオンは背中を向けて、自分の部屋に帰った。


 リオンにしては珍しいのか珍しくないのか思慮深く考え込んでいるようなその仕草を見ながら、とりあえず気に留めておくか、と軽く考えすぎていた。


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