幻影に隠された矛盾
メタ…?注意です
何でこの小説が乙女ゲー転生になったのかみたいな説明(言い訳)回
理屈つけようとしたらどうしてこうなった
「それで。まさかとは思うが不義を責めたてはしないだろうね。偽っていたのは、お互い様だ」
もう一人のファントムロード、否、リリエットは怯むこともせず、私達の前に立ちはだかった。
ずっと知らない振りをして、幻影の君にまつわる事件から遠ざけた。お互いさま、という言葉を投げてもその後悔が消えることは無い。
「分からないことだらけだ……何で……何でリリエットがファントムロードに」
「……納得がいかないと? この世界の誰もが疑問に思おうと、シオン……いや、イリューシオン。君は既に、思い出したんだろう? 『幻影の君に愛の祝福を』その物語の真の軌跡に」
リリエット・イディムが、幻影の君が最後に辿り着いた終焉。『幻影の君に愛の祝福を』その題名の本当の意味は。
「『幻影の君に愛の祝福を』これは、乙女が幻影の君を恋い慕う物語ではない。これは……リリエット・イディムが、やがて幻影の君へと堕ちる物語だ」
そうだ。理屈ではなく、分かる。
この目の前のファントムロードは、『幻影の君に愛の祝福を』その本来の道筋を辿ったファントムロードであることを。
私が父さんから受け継いだように、イリューシオンから幻影の君を受け継いだ、正真正銘のファントムロードであることを。
だが故に有り得ない。幻影の君と幻影の君の存在はどうしようもなく矛盾している。
「まあ、今さら隠すことでもないからね……とはいっても、どこから話したものだろうか」
顎に手を添えて、考え込む。
その仕草に、まるで自分たちの知らない彼女の姿が垣間見えて、胸が締め付けられる。
「……物語。創作物。そういったモノのアイディアというのは、一体どこから降って来るものだと思う?」
「何の話だ?」
「それらは全て、作者の思惑で作り上げている、と考えられているが、本当は違う。人……いや、人に限らず、モノを思考する時、その意識というのは深い部分、無意識すらも超えた部分で、世界を越えて繋がっている。そうして、自分の今いる世界とは別の世界の出来事を頭の中に描くんだ。
創作というのはある種の交信、対話と言ってもいい。こことは違う世界、あるいはとても似通った様な世界の出来事を垣間見ることによって、創作物というのは形作られる。それは決して一方的なものでは無い。お互いがお互いの世界を、創作という窓で覗き見ている」
「……中々にロマン溢れる話ではあるが、それが今の状況とどう繋がる?」
「世界というのはつまり、万人がおおよそ考えるそれよりもずっと曖昧で歪んでいる。観測、いや、観劇と言うべきかな? 世界はまた別の異世界による認識という干渉を経て、似て非なる世界、平行世界と呼ばれるモノをまた産み出す。まあ、同人誌を作る=また一つの世界が生まれるとでも解釈してくれればいいかな」
とんでもないな。
「そして重要なのは、いわばその世界の揺らぎというものはどうしても媒体に左右されやすい。堅苦しい文学作品のエロ同人なんて誰も書かないだろう?」
「……ねえシオン、エロ同人って何?」
「君が知らなくてもいいことだよアスタ」
そのままの君でいてほしい。
「さて、そこで私の世界を君の前世にいた世界に認識してもらう上で考えた。複数の運命が存在する物語として世界を確立出来れば、それだけ可能性の幅が広がる、と」
「……複数の運命が存在する物語? 一体なに……を……」
まさか、と突拍子もなく過ったアイディア。
「そうだ。『幻影の君に愛の祝福を』は、私がいた世界とよく似た平行世界を生むために私が作り出した物語なんだよ」
世界を変えるために異世界を渡って乙女ゲー作ったというのか。
『……待て! お主、世界の外側へと渡ったとでも言うのか。そんなことは……』
「おや、ブリジット。君であれば既にそれがどうやってかは大体想像がついているものかと思ったが、違うかな?」
突然声を荒げながらも、リリエットの冷静な返しにぐっ……とブリジットも押し黙った。
「まあ別に下心があったわけじゃないさ。この言い方もリオン達には悪いが。
ただ、私自身が行動を起こして運命を操作できることが重要だと思ってね。私はそうして生まれた世界に希望を見出そうとしたわけだ。リオン、スレイ、アスタ、エドヴァルドと私が結ばれた可能性……逆に言えば私とシオン繋がりを消して、アルトレイア、フィオレティシア、アイリシア、ミスティと結ばれれば。そのうちの誰か一人でも、シオンを幸せにしてくれたのではないかと信じていた」
信じていた。過去形だ。その理由も思い当たる。ちらりと見ると、アルトレイアも沈痛な顔をしていた。
「私は……そうだね。確かに、幸せ、と言えたのだろうね。シオンのことを忘れたふりをして、人並みの幸せは確かにそこにはあったのだと思う。だから、きっとシオンも同じように幸せになれたのだろう、と信じていた。ところがだ。蓋を開けてみれば、あの甲斐性無しとくればことごとく不幸を生み出しただけだった。興味があるなら、全員、記憶を見てみるかい?」
ゆっくりと首を横に振る。
アルトレイアも、自身が辿るかもしれなかった足跡を見て、取り乱していた。
『幻影の君に愛の祝福を』あの世界で、幻影の君はどうあがいても死の運命から逃れられなかった。
「むしろ不幸が増すだけだった。悪役令嬢は生き残り、シオンはただ何も果たすことも出来ずに死んだ。笑えるだろう。まるで、私がファントムロードになることのみが正解だったのだと、世界が囁くんだよ。まあ、私は悪役だからね。そんなもの、知ったことじゃないなんてのは最初からではあったのだが」
「……待ってくれリリエット。よく分からないがお前には、世界を行き来できる力があるんじゃないのか。なら、その力を使ってバスティア・バートランスを代わりに打ち倒すことだって……」
「いかに私が異世界を行き来できようと『ファントムロードが世界に一人しか存在できない』というルールは変わらないんだ。だから私は『幻影の君に愛の祝福を』によって出来上がった世界を外側から眺めることくらいしか出来なかった」
「……そんな……」
一体、どれだけの道筋を模索したのだろう。
どれだけ、それでも希望を見出そうと目を背けず悲しみを目の当たりにしたのだろう。
それは、きっと想像も出来ないほどの旅路だ。そんな中を、このファントムロードは歩んできたというのか。
「しかし、無駄でもなかったんだよ。この行程はね。私が今、ここにこうしているのが、その証だ」
「どういうことだ……?」
考えてみれば、このもう一人のファントムロードの正体についてまだ分からない。
リリエット・イディムという人間は確かにこの世界に生まれ落ちている。それは幼少から過ごした私が知っている。
この世界のリリエットと、もう一人のファントムロードであるリリエットは別人だ。だが、この二人に何か繋がりがあったのか。
「私も驚いたんだけどね。きっかけは、そうだ。入学式の日の夜だ。このタイミングで起こる『幻影の君に愛の祝福を』のイベントがあった。いや、イベントと言うほどのものもないか」
「……入学式の日の、夜…………?」
確か……チュートリアルが始まって……入寮にともなう荷解きが実家から……そうして
「……クリア特典の引継ぎ?」
「正解だよ」
じゃあ、お前の正体は。
「そうさ。この世界がRPGとして展開されたが為に起こった歪だ。強くてNEW GAMEと言えばいいかな?」
周回におけるレベルやアイテムの引継ぎ。それは実際の、その世界に設定された主人公や仲間にとって矛盾しているものだ。そんなに強ければ敗北イベントも苦戦すらしないだろう、と画面を見ながら笑い転げるだろう。世界に一つしかない設定の武器も、周回を重ねて無限回収だ。
しかしそんな矛盾はしばしば見逃される。無ければ不便で仕方ないのだから。特に周回プレイを要する『幻影の君に愛の祝福を』であればなおさら。
「そうだ。この世界が『幻影の君に愛の祝福を』のゲームの期限として区切られた内に存在することを許容された、主人公リリエット・イディムの受け取った特典として、私はこの存在を間借りしている」
もう一人のファントムロードはいうなれば別の世界からやってきた特典とか言ってみたりして(これが分かりやすいかどうかは分からない)




