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パーティの問題点

「というわけでそちらと共同戦線を張りたいと思うのだ。如何か?」


「悪かったな。本来ならこっちから出向くのが礼儀だとは思うんだが」


 男子寮まで足を運んできたアルトレイアと共同スペースで話し合いをすることとなった。


 俺達男組と女組が共同戦線を張る。ここから接点が生まれ、物語が始まるのは『幻影の君に愛の祝福を』でも同様である。何故こうなったのか、理由はいくつかあるがまあ大体は男組こっちに非がある。


 まず、男組にはアイテムユーザーがいないのである。エドヴァルドのおっちゃんは学園の教官でありわざわざ俺達のパーティに参加してくれとは言えない。


 アイテムユーザー。文字通りアイテムの使い手であり、戦利品や兵糧の管理などパーティ内のアイテムの扱い全てを取り仕切るのである。


 入学試験では別にいなくても構わなかったが実際にダンジョン内に潜るとなると話が違う。そもそも冒険者の目的と言えばダンジョン内に潜む魔物から皮や肉などの素材を採取したり、息絶えた冒険者の装備を回収したりといったものだ。


 しかし、当たり前だがそういった戦利品を抱えながら戦えば危険も増すし、無理も出てくる。加えて言えば、ダンジョンに一旦潜ってしまえば往復も含め、何日も補給なしで食料を確保するのが難しい。魔物を食べて現地調達という手段も無いわけじゃないがそもそも食用には向かないし、確実でもない。空腹というバッドコンディションでそれをやろうという状況に追い込まれたらもう目も当てられない。ピクニックではないのだ。


 そこで、物資を異空間に収納できるアイテムユーザーの存在が、ダンジョン攻略においては必須となる。


 アイテムユーザーは所持アイテムが充実して来ないとそもそも何も出来ない、戦力的にとても『脆い』職業であるが、パーティ内で重要な役割を担わなければならないという……まあお察しの通り色々と大変な職業である。現に今も、リリエットが話し合いに参加しないのは薬草の調合やら何やらの準備に奔走しているからである。


「リリエットには色々と助けられているよ。少しあけっぴろげすぎる部分もあるような気がするがパーティメンバーにもしきりに声を掛けてくれているから、何とかやっていけている……とはいえ、問題が無いわけでは無いが」


 まあそりゃあそうだろうなぁそもそもランダムに選ばれた、今まであったこともない連中とパーティを組まされるってどうなんだ? と。当たり前だが何事も無くいくわけがない。


「いや、それに関しては当然と言えるだろう。そもそも、冒険者にとって……いや、冒険者に限らずだ。そういうイレギュラーな事態に対応できる柔軟な対応力をこそ、この学園で培うべきものなのだろう」


 それは分かる。特に指揮官という職業であるアルトレイアからすれば、思い通りにならないからこそ、だからどうするべきか? とそういうトライ&エラーの経験が後の貴重な財産となるんだろう。


 だがどうなんだろうな実際。その舞台裏に近い立場から見て見ると……ただ単に面白がってるだけじゃね? と何だか申し訳なくなってくる。現にこうしてファントムロードが紛れ込めてるわけだからな。面白がってファントムロードが冒険者のパーティに紛れ込んだりとか、そういうことも以前からあったのかもしれんな。


 雑談未満の気の散った話はこれくらいでいいとして、問題なのは人間関係の色々が例外なく俺達に降りかかっているということである(まあ、元が乙女ゲーであることを考えればむしろこれが本題なわけだが)。


 アイテムユーザーの存在だけでなく、俺達がパーティとしてやってくためには色々な障害がある。その最たるものが、スレイとアイリシアである。

スレイはパーティを組まず、単独でダンジョンに潜っている。朝早くから夜遅くまで、一日中戻らない日も少なくはない。心配で声を掛ける他のパーティメンバーに対しても無言を貫き通し、無視するその態度からヘイトを集めているとも聞く。


「そしてアイリシアだが、シオンたちとパーティを組むことを話したら


『アスタ・ココレットが参加するのならば私は参加しません』


だ、そうだ」


 これである。


「確認するけどなアルトレイア。蒼眼の魔女ブルーアイスの力はお前も知ってるんだろう? 成長過程のアスタのどちらかを選ぶか、と。そういう葛藤はなかったか?」


「ないな。アスタを外すという要求を叶えたとしても次にまた何かを言い出さない保証もない。戦力的に不安な輩を抱えておけるほど余裕はないからな。シオンも蒼眼の魔女の力を期待するなら外れても構わないぞ」


「いや確認しただけだよ。指揮官として博打を打たないって選択肢は分かる。ただ、アスタにも伝えておかなきゃならないことだからな。リリエット達にも話は通してるんだろう? みんなそうやって納得してるって、言ってやるのが一番の近道だろ?」


「……」


「……何だ。そんな呆気に取られたような目で見られても困る」


「いや済まない。何というかあれだ。そういう気遣いの出来る男だったのだなシオンは」


「いやこの程度でどうこう言われても困るんだが」


「ふふ……なに、どうということもない。ただ、私はどうにも頭でっかちというか理で物事を判断するがある様でな。しかもどういうわけかそういう私の欠点を浮き彫りにするような人間が周りにいたと来た」


 リオンのことか。


「まあなんていうかそう思うんなら少しは見習うとかそういう心持ちでいればいいんじゃないか?」


「まさかとは思うが本気で言っているのか?」


 溜息を吐きながらアルトレイアは言う。


 誰もかれもがリオンみたいになったら困る。王子(笑)とか言ってるし本人もそうなる様振る舞っているんだろう。


「それにリオンは何というかまあ、宿敵というかライバルのようなものなのだ。私にとって」


「……ライバル?」


 リオンとアルトレイアの間柄程度の知識はあるがそこにどういう感情があったのか、それについてはよく知らないのだ。


 『幻影の君に愛の祝福を』はシオン・イディムの物語ではなく、リリエット・イディムの物語だ。そして頼りの無い幻影の中で、翻弄さながらも、それでも思いを繋げ確かなものを紡いでいく。そんな物語だ。だから、全ての謎は、伏線らしきものも含めて全て明らかにされたものでもない(まあ何かカッコつけるだけつけてぶん投げられただけとかそんな解釈でもいいが)。


「ん? アルトレイアじゃないか何して……て、シオンと二人きりで何してるの?」


 そこに声を掛けてきたのは件のリオンだった。共同スペースで話をしているのだからいてもおかしくはない。


「……リオン、何だその出で立ちは」

リオンは竪琴を抱え、酒の匂いを纏っていた。シャツのボタンをはだけたラフな格好でどう見ても遊び歩いていた、というかそんな感じだった。


 リオンはアルトレイアの諫言にも耳を貸すことも無く、しかしじろじろと俺達を見ていた。


「聞いているのか! リオン!」


「ん? ああごめんごめん。何でもないよ。それより二人とも仲がいいねいつの間にそんな仲に?」


 リオンは今気づいた、という風に慌てていたが、しかし気が逸れていたのか余計なことまで付け足していた。

「なっ!? 私とシオンは打ち合わせをしていただけだ。私だけでなく、シオンへの侮辱でもある」


「あぁ……はは。そっか。それは悪かったね。ゴメンねシオン」


 リオンはぽんっと俺の肩を叩いて、それで去って行った。


「……全くアイツは。少し気を許すとすぐこれだ」


 アルトレイアは口を尖らせながら不機嫌を露わにする。


「ぁ……すまないシオン。シオンが悪いわけでは無いんだが」


「気にすんなよ。確かに今日のアイツは何かおかしかった気がするし批判されても仕方ない」


 リオンは、珍しく気が抜けていた、というか気遣いを忘れていた様だった。いつもならもう少し上手くやるだろうに……俺とアルトレイアが一緒にいて動揺した?


 この時の俺はもう少しその理由だとかについて、気を配る必要があったのかもしれない。後に、これがリオンとアルトレイアにとって。そして、俺に、この世界にとって選択を迫る重要な分岐点の一つになるとは俺は知る由もなかったのである。




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