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日常の裏での迷宮攻略

 こうなることが予想できなかったかと言われればそんなわけはない。きちんと方策は立てている。その為のフィオレティシアである。


「というわけで頼む」


「はい」


 フィオレティシアの歌声が迷宮内に降り注ぐ。階層支配者の権限でほぼこのフロア中である。


「お、おお! 何だか元気が湧いてきましたよ」


 そしてマリアが復活。


 今フィオレティシアが歌っているのはパーティ内のテンションを上げる応援歌だ。気休めといえばそうなのだが、天使という種族はそういった精神的なものに影響されやすい。


「いえーい」


 マリアが調子に乗ってフィオレティシアにハイタッチ。歌声を止めずにフィオレティシアも答えた。


 さて、どうしてこれを最初に使わなかったのか? 歌を歌っている最中、フィオレティシアはほぼ無防備になり人数も少ないし危険、というのもある。


 だが最大の問題は、


「ガァアア!!」


「おいでなすったな」


 妙にテンションの高い魔物の群れがこっちに向かってきた。


 天使と魔族という生き物にはそこまで本質的な違いはない。聖なる力で魔だけを滅することはできない。逆も然り。


 つまり、いい気分でいるのは天使マリアだけではないのだ。


「マリア、きっちり働いてくれよ」


「ふ、お任せください。というか私を誰だと思っているんですか。イリューシオン様に戦い方を教えたのは私ですよ」


 まー師匠といえるほど大したことを教わったつもりもないが。マリアって案外、天才肌で人にもの教えるとか導くとか苦手っぽいし。これで旧き支配者の有力後継者候補とか嘘だろうって。


 しかしマリアの実力に不安があるかといえばそんなことはない。


「はぁ!」


 掛け声一閃。マリアの槍が伸びて魔物の集団の戦闘を貫き、そのまま振り回す。

通常の人の膂力だけでなく翼の推進力を加えて一気にその細腕からは想像もつかないほどの勢いである。


 そして後ろからマリアを襲おうとする敵に対し、マリアは振り向くことも武器を持ちかえることもせずそのまま槍の後端部分で押す。しかしその先には光属性と聖属性で作り上げた光の槍が待ち構え、その首を刺し貫く。


 風、光、聖属性をバランスよく使いこなせる中衛型でその完成度はクロードも認める程である……まあ閉鎖空間内で戦うには少々難があり、また良くも悪くも調子に乗りやすいので注意されたし、という但し書きも付くが。


※※※


 そして紆余曲折、何とか次の目的地である階層支配者の間へとたどり着いたわけである。


 そこにいたのは黒い山羊の頭を持った筋骨隆々の悪魔である。


「これはこれは幻影の君、お久しゅうございます」


 言葉こそ丁寧ではあるがその声色からは敬意など全く感じられない嘲りの色が浮かぶ。まあ当たり前か。バスティア・バートランスに従って階層支配者までやっている以上、裏切り者であってしかるべきである。


 となればもういい。


「こんなところで躓いているわけにもいかんしな」


 黒山羊頭を蹴りあげて、自らの頭が離れた胴体を見せてやる。


「へぁ……?」


 事が全て終わったことがまだ分かっていないのか、黒山羊頭は間の抜けた声を上げて絶命した。同時に、この階層で感じていた重圧プレッシャーが解放される。


 一応、機会チャンスは与えたんだ。幻影魔法の術中の中の俺が友好的に握手でもしようとしたわけではあるが、こいつはそれを甘さと捉えて甚振いたぶり始めた。


 となればしょうがない。パチン、と指を鳴らしてその遺体を燃やし尽くすための炎魔法を唱える。一応、合掌もしておこうか。


 さて今日の探索はこれで終わりだな。マリアをこの階層での支配者に設定した後、転移して帰路に就くのだった。



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