ココレットカフェへようこそ
卒業試験に挑むことを決めて数日、リリエットに連れられた俺は買い物に出かけていた。
とはいえ、色気のあるモノでもなく、ただ単に卒業試験の為の主に消費物の購入である。
「……んー。ねえシオン、この傷薬の値段ってあっちのお店だとどれくらいだったっけ?」
アイテムボックスがあるわけだから前が見えなくなるくらいの荷物抱えるようなベタな展開は無いが量が量だけに徹底的な節約が求められている。
「あれ? この薬草の値段ってさっき行った店の方が安くなかったか?」
「……確かに値段はそうだけどあっちは品質に差があるの」
店主に聞こえないようにリリエットは小さく耳打ちした。
「まぁあっちはあっちで、値段重視で勝負してるってだけ。そうやって多種多様に、必要に応じて買い物できる方がお客さんだって助かるでしょ? だからって粗悪品が過ぎると排除せざるを得ないけどね」
店先を出てリリエットは饒舌に語る。
俺にも分かりやすいように説明しているだけで、経済やら何やらの専門の知識も習得しているのだろう。
「……何よ」
視線に気付いたのか、リリエットは居心地悪そうに尋ねる。
「いや、何つうかリリエットも成長してんだなってさ」
「ばーか、てか呼び捨てにすんなってえの。リリエットお姉さまでしょ……て、そうね。もうこだわる必要もないかもしれないわね」
「どういう意味だ?」
「アンタも成長してんだなってね」
してやったり、とウィンクを浮かべるリリエットに、返す言葉も無かった。
「それじゃあちょっと休憩していきましょ?」
リリエットが先導して歩いてどこに行くかと思えば、どこかのカフェだった。
見覚え無い店だな。こんな店あったっけ?
「ここは学園が経営しててさ。ていっても、いつも構えてるわけじゃなくて学園生が自分たちで持ち回りで経営したりするの。そうして資金稼いだりすんの。ま、そういうわけだからずっとってわけじゃなくて予約入れて期間限定の店になったりするんだけどさ」
「へぇ」
「いらっしゃいませ」
口にしていたお冷を噴き出しそうになった。何で? 何でここでこの人の声を聴くんだ。
「何してんだアイリシア師匠」
そこにいたのは仏頂面で給仕をするアイリシアの姿だった。
メイド服で。
「言ってなかったっけ? 今は私達の持ち回り。資金稼がなきゃなんないからさ。で、まあアイリシアはどうせレベル上げの必要もないし協力してもらおうかなってね」
黙ってただろ。絶対わざと黙ってただろ。
「けどもうちょっと愛想よくした方が良かったりしないか? 俺たちはいいけど」
「何言ってんの。アイリシアはこれでいいの。下手に修正してもどうせ付け焼刃にしかならないんだし、どうせならアイリシアの持ち味を活かす方向でいきましょう。そう、冷たい瞳のロリに見つめられるとかたまんねえな……これで」
「なるほど」
「何でしょうそこはかとなく気に入りません」
まあアイリシアも不器用なだけで心底冷たい性格してるわけでもないしな。
「へぇ、何だ。よく見てるじゃないの」
リリエットはニコニコ生温かい笑みを浮かべながら俺を見ている。何だ一体。
「今はお客さんも少ないのでゆっくりしていってください。おすすめは、これです」
そう言ってアイリシアが取り出したのは皿に盛られた……こ、これは……!
「アイスだと」
なるほど、アイリシアならではの出し物である。食べてみるとひんやりとしながらも口の中で自然と溶けて広がるミルクの甘い風味。匙にすっと掬える絶妙な冷やし加減。
「あ、シオン! シオンも来てたんだ。いらっしゃいませ」
珠玉の一品を味わっていると、今度は快活そうな声が響いた。誰かと言えばまあもはや言うまでもあるまい。アイリシアの双子の兄、アスタである。
驚くまい……と思っていたんだが
「……アスタ、お前そのカッコ何だ?」
アスタの格好は、アイリシアとおそろいのメイド服である。
「え? あ……!!」
自分の格好にようやく気付いたのか、アスタが身をよじるようにするがかえっていかがわしいぞ。
「しかしあれだな。こうして見るとやっぱ二人って似てんだよな」
「あはは、そうだね。アイリは女の子だし、おそろいの格好とかしないからね……しないからね!」
してるけどな。屈託のない表情につぶらな瞳、ふわり舞うロングスカート……似合いすぎてある意味怖いな。
「けどま、二人が仲良くしてるようで何よりだよ」
「そうね。この二人も自然な関係になれてるっていうか、うんよかったって思うわ」
リリエットと俺はしみじみと思う。
「それだけ!? もうちょっと何かあるよね。この格好はちょっと男としてとかさ」
「いやないけど?」
初見はちょっと先入観があって驚いたが今は違和感まるでなし。
「大事にして。その違和感大事にして」
うぅ……と暫く唸ってたが、やがて奥に引っ込んだ。
そしてしばらくして、また出てきた。
「お待たせしました。こちらホットケーキです」
「おお……!」
まさかまたこの味に出会えるとは。
「あ、まだ食べちゃダメだよ」
何ですと。もうフォークとナイフ片手に準備万端なんだが。このままだと蜂蜜の代わりに涎がかかることになるぞ。
「アイスのおかわりどうぞ」
アイリシアがそのままアイスを、まだ熱々のホットケーキに乗せた。
「何、だと」
両方を口に入れるとまだ温かさと冷たさが残り、次第にお互いを補うように緩和され、溶け合っていく調和。
なるほど、このセットメニューがここの真髄か。
「ま、こんな風にさ、みんな頑張ってんだからね。だからあんたもヤることヤんなさいよ?」
リリエットは俺を指差した。
リリエットが今日俺を呼んだのは発破かけるためだったか。リリエットは言わずもがな、みんな卒業試験に向けて準備を進めている。だから俺も気合入れろよ、ってか。
まあ表面上は怠けてるようにすら見えるだろうからリリエットの懸念も分かる。リリエットが誘ってくんなきゃアスタとアイリシアがこんなことしてるなんて知らずに終わってたかもしれないし、感謝しないとな。
さて、それじゃあ気合を入れるとしますか。
文化祭っぽい話したいなって思ってついでに模擬店を




