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第三回クロード先生のファントム教室~階層支配者になろう~

 クロードに学園の一角の空き教室に集められた俺達はいつにもなく真剣な面差しでいるクロードの言葉を待った。


「そろそろ迷宮内の支配を取り戻すための行動を開始することとしましょう」


 不思議と驚きの声は上がらない。いつかこんな時が来るのだろうと覚悟していたのだろう。


「迷宮の核心部分をバスティア・バートランスに抑えられている以上、時間経過とともに取り戻した支配率も元に戻ってしまうため、短期決戦以外の選択肢はありません。ですが焦り過ぎてもいけません。十分な休養を挟みながら、迷宮を進んでいきましょう」


「て言ってもだねぇ補給もままならない迷宮の中で休息を取るってのも中々しんどいもんよ? おっちゃんくらいの図太さがなくっちゃあねぇ」


 この中で一番冒険者としての経験が豊富なおっちゃんの言葉に、しかしクロードは問題ありません、と返した。


「迷宮の主と一介の冒険者を一緒にしていては困ります。迷宮の主ダンジョンマスターであればその中途での脱出もその地点での再度の侵入もまあいくつかの条件はありますが可能です」


「ずっちくなーい?」


 クロード、ただひたすらイイ笑顔である。


 まあおっちゃんも本気で言っているわけでもないようだし、クロードの言うことも反応も大体わかってて言ったんだろうが。


「とはいえ今のイリューシオン様では様々な権限が制限されているのも事実。というわけで皆さんにはある覚悟をしていただきたいのです」


 覚悟? そんな話は聞いていない、とクロードの方を見るが、クロードの方は目線を逸らしてきた。


 言えば俺の決心を鈍らせるようなこと、なのか。


「それで、その覚悟とは一体何なのだろうか」


 アルトレイアの問いかけに対し、クロードは口を開く。


「皆さんにはこの幻影の迷宮を支配する階層支配者となっていただきたい」


 階層支配者。フィオレティシアの騒動の際に聞いた単語だ……いや待て。それってそこそこ大事じゃあないのか。


「今できるのは精々仮留めのようなものにしかすぎませんし大げさに捉える必要はありません」


 いや、問題なのはそういう実害じゃない。これは境界だ。今までは、俺に味方してくれていると言うだけで最悪、済ませることも出来たが、この行為は人間側と迷宮側、そのどちらに組するかを決定づけてしまうだろう。


「よく分からん」


 スレイ、一蹴である。


「私はシオンさんとは関係なしに迷宮とは切っても切れない関係ですし」


 アイリシアに言われてああそりゃそうだと納得しかけた。


「私は既にその階層支配者という存在であるらしいですし気に病む必要はありません」


 フィオレティシアは、そうか。そう言われればそんなことを聞いたが事実だったか。


「シオンさん、もう少し私達を信じてください。私達に背負わせてください」


 まっすぐ、フィオレティシアは俺を見つめて言う。


 そう言われては、俺が文句を言う筋合いはない。ただ、


「……ありがとな」


 見渡して、言う。


「で、何だ。一応尋ねておきたいんだけど実害はないのかな? その階層支配者ってやつになって」


「問題はありません。そうですね……仮に、一旦、階層支配者となった後にイリューシオン様と袂をわかとうとしてもそれとは関係なしにバスティア・バートランスの敵として命を狙われるくらいなものです」


「……前々からちょくちょく思ってたけどクロードって時々、不意打ちでびっくりするくらいに苛烈だよね」


 クロードはリオンの言葉に「そう、なのでしょうか」と呟きながら考え込んでいた。


「まあ細かいところは現地の判断にお任せしますが、迷宮内で効率よく支配率を確保するルートをアルトレイアさんにお伝えします」


 アルトレイアは、先程から何かを考え込んでいた様だったがやがて、意を決し、クロードを強い視線で見る。


「クロード殿。それにみんな、提案があるのだが……」


 アルトレイアの突然の提案に、俺達は誰一人文句なく頷いた。


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