クロード・ヴァンダレイムとかいう理不尽
ミスティ、そしておっちゃんまでもがこちら陣営に加わった。
『ああそうそう、知ってるだろうけどおっちゃん実は幻影の君の打倒掲げてた派閥に所属してたんだけどそれは一応、潰しといたから安心してね』
そんなことをあっけらかんと言い放った。いやいやいや待て待て!
『どーせしょーもないこと言うくらいしか能が無かったしねぇ。ああ、一応それなりの義理はあるから別に殺しちゃいないんだけど、ま、何も出来ないくらいには無力化したからダイジョブダイジョブ』
とのこと。クロードも、「まあ、彼が言うのであればそうなのでしょうね」とのこと。
さて、後顧の憂いも無くなったところで後はバスティア・バートランスに向かって迷宮攻略に勤しむだけ。
というわけで、今回、俺と……あと、スレイが呼び出しを喰らった。
「何でスレイ?」
「……私が教えられることというのは実はそう多くは無いので。その中で一番、ためになる可能性が高いのは彼、というだけの話です」
それにしても先日わりとめちゃくちゃにしたのに、この多目的ホールいつの間に修繕されたんだか。
「……知りたいんですか?」
クロードが怪訝な顔で聞いてくる。え? 何その表情。いえ。いいです。聞きません。
「さて、時間もありませんしそろそろ始めるとしましょう」
くいくい、とクロクロの短い手足で挑発ポーズである。
「……」
さすがのスレイも思うところがあったのか、少々、めんどくさそうにしながらも剣を抜き、一歩踏み出した、その瞬間である。
「「!?」」
スレイがいきなりけっつまずいた。そしてそのまま立ち上がろうとして……また転んだ。
え? 何だ。何が起こってるんだ? と周りの地面をよく見てみれば、スレイの周囲の地面だけ盛り下がっている。それは現在も進行中で、ミシミシと音を立てて。
「おや、教えていませんでしたか? 私の属性は闇属性……それと重力の二つです」
なるほど。だからスレイだったのか。
にしても何だこの構図は。スレイもそこそこやると思ってたがここまで差があったのか。
「……おやどうしましたか。せめて立ち上がるくらいの頑張りは見せてほしかったのですがね」
「……て、めぇ」
スレイは何とか意地で立ち上がる。息は荒く、足は生まれたての小鹿の様にぶるぶると震えながら。
「……何だこの気怠さ。重力かかってるだけじゃねえのか」
「おや思ったよりも勘が鋭いですね。そうです。立ち上がるという行為は通常であれば何千何万回の繰り返しがある為、次第に最適化され、そこに余計な力をかからないようになります。しかし、重力魔法の下、常とは違うその環境では何が最適な力加減か、それを計るのは非常に困難です。余計な力を発揮してしまう。その余剰を、闇魔法で刈り取っているのです。さあ身体の動かし方を学ばないとどんどん体力が削られていきますよ」
「鬼か!」
「悪魔ですが」
俺のツッコミに対し涼しい顔のクロード。あ、そうでしたね。悪魔でした。
「……まあ、初めてですし、立ち上がっただけで上々といたしましょう」
パン、と軽く手を叩く。その瞬間、スレイの身体は素早くクロードに向かっていく。
「瞬時に飛び出したのは褒めましょう」
そして、クロードは元の、クロード・ヴァンダレイムの姿となって、その刃をいとも簡単に受け止めていた。
刃には触れず、指先だけでいとも簡単に。
「ですが隙だらけですね」
そういいながらスレイの腹を蹴って、体勢を崩す。
「これも言い忘れていましたが、私の指導は少々荒っぽいのでご了承ください」
それから。スレイの必死の攻撃を難なくかわすクロードによる一方的な指導が始まったのだった。
やだ。この執事、怖い。




