プロローグ:幻影の君と運命の天使
とある場所。とある時空。
天空に浮かぶ玉座の前に佇み、巨大な羽根を広げて天を覆う。いや、彼の天使こそもはや天そのもの。人々の信仰を集め、人々を救う救世の支配者。
「あなたが来ることは分かっていました。ファントムロード」
歓迎の色は無い。
ファントムロードは相対し、そして、お互いに声も無く死闘を始める。
天使が手を掲げ現れるは光の槍。無数のそれは、ファントムロードを目がけ、飛んでいく。
しかし、その場にファントムロードはいない。幻影。それを見破ることはおよそ叶わず、翻弄されるしかない。
通常であれば。
『当たれ』
しかし、天は命じる。外れた筈の攻撃は、そのまま因果を捻じ曲げファントムロードの身体を貫く。
「幻影など私には通用しません」
「そうかな?」
しかし、ファントムロードは不敵に笑う。その様に、天使は僅かばかりに眉を寄せた。
「出来れば、私はあなたと戦いたくないと考えています。何故、あなたは私と戦うというのですか?」
「冗談を言うなよ。君の本心は、魂は、私を殺したくて殺したくて仕方がない筈だ。だからこそ君は彼と別れて……」
「……」
天使は眉一つ動かさず、無言を貫いた。
「……ああ、すまない。これは卑怯だったね」
非礼を詫びる。分かるのだ。天使も。ファントムロードも。お互いの譲れないものは。それはかつて、一つで在った筈のモノだから。
「運命に逆らおうというのですか。何と愚かな」
「さてね。それほど大それたことのつもりはないさ。私も……ファントムロードとして在ること以外、やることが見つからなくてね。けれど、希望を探している。その為に、君を乗り越えなくちゃいけない。それだけの話さ」
「……そうですか」
「済まないね。けれど、どうしても私の顔を見たくないというのであれば、その力を私に分け与えてくれるだけでいいのだが、どうだろう」
「遺言はそれでよろしいですか?」
「ハハハ、まあ仕方がないね……では、そろそろ再開と行こうか」
マリア・メルギタナス。




