父親の弱点はいつだって娘
そろそろ逆転していきますが結構泥仕合です
徐々に追い込まれつつはある。けれど勝機はある。付け入る隙はある。
エドヴァルドは多種多様な武装を備えていて、それを活かすために魔法のスキルを振りきっている。だから、魔法に関しては幻影魔法も含めこちらに分がある。
そこに勝機もある……はずだ。
アイリシアならどう戦うだろうか。氷魔法がそれほど有効になる相手でもないとは思うが、それでも地力の差でどうにかするか。
そういえばアイリシア師匠は何で直近になって闇魔法の修練をしようとしたのだろう? エドヴァルドと戦うことになることを確かに考慮していたあの場面で。
エナジードレイン? 近接戦での斬り合いで有利になることを踏まえたからか……いや違う。
そうだ。ミスティ。既に答えは手の内にあったのだ。
「試してみる価値はある、か」
パチン、と指を一つ鳴らし、エドヴァルドに向かう。
エドヴァルドは脳天目がけて躊躇なく銃弾を放つ。
やれやれ。危ない。それを横目で眺めながら安堵の溜息を吐く間を惜しみ、進む。
エドヴァルドの狙いは外れていない。が、的自体が違えている。幻影魔法で作り出した像が、脳天を思い切りぶち抜いておきながらも止まらない様を見て気付いただろう。幻影魔法の存在に。
エドヴァルドはすかさず、私の位置を捕えたナイフを取り出し、投げつける。方向をすぐに認識したエドヴァルドは直接叩きに来る。
今度は逃がさない。
それは、私のセリフだった。
「!?」
エドヴァルドの顔は驚愕に歪む。私の行動は、実に単純だ。ナイフを掴んで、止めた。弾くでもなく、幻影の君の衣装の手袋を破いて皮膚を切り裂こうと、むしろ歓迎しよう。血が滴れば、成功率は高い。そう、本能的に感じた。
「まさか!」
遅い。既に、その武器は自分の手にある。エドヴァルドは手をかざして何かしらを試みているようだが、顔を歪めている。
「やってくれるじゃあないの……まさか幻影の君ともあろうものが盗賊の真似事にまで手を染めるたあ思わなかったわ」
エドヴァルドの能力と言うのは、自らの所有物をアイテムボックスから取り出し、または回収することが出来る。自分の所有物であれば恐らく離れていても回収が可能。
そう、あくまで自分のものであれば。
光魔法で手にしているナイフを調べてみれば、所有者の欄にはイリューシオン・H・ハイディアルケンドの文字がある。エドヴァルドの所有物を、私の所有物に変換する。スティール。そう、盗賊のスキルだ。
「これで幻影魔法をどうにかする手段は無くなったね。イーブンかな?」
「は! 小手調べ程度で得意げにならない方がいいわねぇ」
エドヴァルドが今度繰り出したのは幅の広い双剣。それを振り回すと暴風が吹き荒れ、圧迫されるのと同時に肌の切れる感覚を覚える。なるほど。カマイタチか。
空間制圧、これであれば敵がどこにいようと関係ない。
しかし、これは焦りだ。私のではない。エドヴァルドのだ。
先程の攻防と違って今度はエドヴァルドは武器を付け替える様子を見せていない。投稿武器は勿論のこと、武器を持ちかえる瞬間がスティールの隙になるということか。試みてみないと分からないが。
エドヴァルドの強みは強靭さではない。いつでも切り替えが効くことによる機転の強さだ。力押しに持ち込んでいる時点で、そもそも勝機を自ら捨てている。
パチンパチンと、指を二つほど鳴らす。
風の向きを自らの周りだけ少しだけ変えて、炎の魔力を風に巻き込む。イメージしよう。炎を風が食らう様を。そうして膨れた腹が破裂する様を。
ドゴォオオオン!
私をエドヴァルドの間で大爆発が起こり、両者は吹っ飛ばされた。




