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換装武芸師を相手にするということ

 ナイフを構えたエドヴァルドは素早く私の懐に入り込もうとする。


 幻影の君のクラスでの上書きチートがあるため、地力ステータスでは私の方が上で、

振り払う剣は確かにエドヴァルドのナイフを押し返す。が、エドヴァルドはその力を巧みに受け流し、ダメージを覚悟の上でこちらに一閃を食らわす。


 頬を少し掠めた程度であり、ダメージと言う程の傷でもない。反撃に出ようかと意識を向ける時にはもう既にエドヴァルドははるか後方に退避している。


「……さすが幻影の君ってえところだね。おっちゃんちょっと腕が痺れてるわ」


 筋力はさすがに専門の戦士職に劣るのか確かにそれほどでもないが、その分、器用さに優れている。加えて経験値が段違いだ。


 しかし、解せない。大したダメージを食らわせたわけでもないのに引っ込むのが早過ぎる。慎重を期したと言えば説明が付きそうな気がするが、妙に嫌な感じがする。


 そう、この時はまだ知らなかったのだ。換装武芸師というクラスの恐ろしさを。


 エドヴァルドはナイフをアイテムボックスの中に仕舞いこみ、今度は大振りの槍を構えた。


 そのまま真っ直ぐに、槍を構えてこちらに直進する。右腕だけで支えている妙な構えだが、一体何を?


 考えるのはこのくらいにして、さてそろそろこっちも本気を出すとしよう。


 エドヴァルドの槍が一目散に目標に突き刺す様を、私はその横から観察する。


 手応えが無いのに焦ったか、エドヴァルドの顔が驚愕に歪む。私はそのまま、懐に入り、一気に決着をつけようと振りかざす。その瞬間だった。


「!?」


 何かが飛んできたのを私は左手で掴んで止める。何だ? ……さっきエドヴァルドが使っていたナイフ? 何故? 幻影魔法でエドヴァルドは私を見失っているはず。なのに、何故正確にこちらに向かってナイフが飛んでくる?


 いや待て。先程まで感じていた違和感。そうだ。まるで最低限の目的は達したと言うような、引き際のよさ……まさか。


 過ったと同時に、エドヴァルドの手にしていた槍は、こちらの位置を見抜いたように振り回ってくる。私は、その切っ先の刃を何とか手にしていた剣の腹に合わせるが、エドヴァルドはその反対側をテコの要領で足で押し出し、競り合いで押し出される。


 ギィン! と金属音が響き、私の体勢も崩れるが何とか後ろ手に下がって勢いを殺した。


「少々迂闊ってぇもんだね幻影の君」


 私の立っていた場所に落ちていたナイフを拾い上げて、エドヴァルドは言い放つ。


「こいつは、曰くつきの双剣でね。何でも夫を殺した仇討ちのために、一矢報いた証の傷跡をつけた小刀にまじないを付与したとか。効果は分かるだろう? ひとたび傷をつけた相手であればもう片方の小刀が追尾することが出来る。適当に投げてもね」


 真上に投げたナイフは明後日な方向を向いていたが、やがてピシリとこちらの方を正確に向いた。エドヴァルドはそれが飛び出すよりも素早く回収した。


 幻影の君を相手にして、幻影魔法の使用を即座に見抜く判断、そしてそれに対して対応する手段を持っているだけでなく、その対応自体も早い。


「わざわざ種明かしとは景気のいいことだね」


「ハハハ、そうだね。つってもこんなん序の口だし、仕込みは済んでるわけだから、痛手もないしね」


『そうですね。ステータスとしてはそれ程でもないのですが、彼の力で最も恐ろしいのは対応力の広さですね。加えて言えば、彼の戦力を推し量ることは出来ないので、予想外の反撃を食らう可能性もあります』


 クロードはこう評していたが、なるほど。相対してみてつくづく身に染みた。


 様々な効果を持つ装備。使い方によっては力量が上の相手にも一矢報いることが出来る手段を、この|換装武芸師(エドヴァルド・W・サイファー)は無数に持ち合わせている。


「さあて……じっくり楽しもうじゃないか幻影の君。なあに退屈はせんと思うよ? 何せ、おっちゃんの人生すべての集大成だ。全てをお披露目する前に死んでくれるなよ」


「……まるで最期のようなことを言う」


 萎えそうな心はその誘い文句で立ち直った。


 いいだろう。こっちだって楽はさせてやらない。付き合おう、エドヴァルド・W・サイファー!

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