真実の名を
とうとうこの時がやって来たみたいな感じでおっちゃん視点です
それはおっちゃんがリリエットと修行をこなしていた時のことだった。
「……火薬?」
「そうそう。そろそろこういうものの扱いも覚えた方がいいんでないかなってね。保存中は火気厳禁ね……その辺はアイテムボックスがあればどうとでもなると思うけれど、摩擦にも気ぃ配らなきゃならないし他の薬なんかが混じってもイケないわねこれはアイテムボックスに入れる前に気を配んなきゃならない」
とりあえず、今日のところはこれをやってもらおうかしらね。と、アイテムボックスから用意していたモノを取り出す。
「何これ?」
「あら見たことない? 薬莢よ。これに火薬を詰めて、爆発させて、その威力で銃弾を飛ばすの。とりあえず今日は慣れるため……てぇのも変だけどこれに火薬を詰める練習から始めましょうか」
「……これ私がやっていいもんなの?」
「んーまあ武具屋はもっと難しい仕事やってるしね。例えば薬莢に込める火薬に属性こめて撃ち出す弾丸に特性つけるとか。まあ火薬自体に火の属性があるからそれを曲げるようなことすると威力も弱まっちゃうし……んーまあ、色々よ」
「へぇ……」
「……くれぐれも気を付けてね。アイちゃんの協力で事故は起きないような環境は整えといたけど万が一はあるからね。おっちゃんも見てるけどさ」
そうして静かに作業に没頭する時間が流れた。
「……ねえねえおっさん」
作業に慣れて来たのか会話する精神的な余裕も生まれてきたみたい。いいことね。こういう時にいつまでも凝り固まってる方がよくない。
「火薬を詰めて、爆発させて、その威力で銃弾を飛ばすって言ってたじゃん」
「そうね」
「じゃあその時にその飛ばす銃弾を破裂させるとかどう?」
「……そういうのもまあ既にあるわね」
実際の魔物との戦闘において使うのは大体そっちだしね。強靭な皮膚や強大な体躯に対してちょっとやそっとでダメージは与えられないし。
銃火器専門職でやってくわけでもないだろうし追々分かっていく方がいいだろうと思って言わなかったけど……うん。そういう発想に至ってしまう女の子におっちゃん何だかショック。
まあこの子だからねぇってなってしまう辺りどうなんだろうね?
「ねえリリエット」
「何?」
「……シオンについてちょっと聞いていい?」
「……何? また何かやらかしたのあのバカ」
んー口の上では罵倒してるんだけど、絶対憎からず思ってるってのは分かる。
「アハハ、別にそういうわけじゃないさね。ただ、ちょいとばかりね。個人面談みたいなもんかな」
「ふーん」
どうだろうね。おっちゃんが、シオンのことを疑ってるって言ったら、この子はどうするのかしら、ね。
「……シオンと初めて会ったのは私が家の手伝いで外に出てた時だったわね」
「……待って? シオンと初めて会った時? 二人は姉弟じゃなかったの」
「姉弟よ。ただ血がつながってないってだけ」
あっけらかんと言い放つリリエットに、おっちゃんは苦笑いを浮かべた。シオンとリリエットは義理の姉弟?
「あの時はどこから来たのかよく分かんないけどガリガリのボロボロでさ。お父さんは多分、どっかの権力争いやら何やらから逃げてきた貴族か何かだろうって言ってたけど……ああそうそう。シオンも何かめんどくさいから私がつけてあげたのよね。あいつ、自分で何て言ってたかしら? シオン……じゃなくって、いりゅ……」
待て。待ってくれ。
『帰ってきたら■■■■■■様に会わせてやるから』
「ああそうそう、イリューシオン、だったかしら」
『帰ってきたらイリューシオン様に会わせてやるから。楽しみにしててな』
それが、俺の聞いたアイツの最期の言葉だった。
「あいつ、昔っから隠し事ばっかだけどさ……でも、根はいい奴だから見捨てないでいてあげてね……おっさん?」
「……何で」
何で、今になってアイツの最期の言葉を思い出しているんだ。
「……おっさん?」
「……あーそろそろ時間も頃合いだね。ほら、次も授業が詰まってんじゃなかったっけ? 早く行きな
よ」
「え? ええ」
リリエットは立ち上がり、俺を横切る。
「……ごめんな、リリエット」
謝罪の言葉は届いたのか、届かない方がよいのか。判別は付かない。意識は朦朧としながらも。
「ようやく会えたな……幻影の君」
仇敵の名を呼び、銃弾を一つ込めて、宙に撃った。




