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どうせ無駄にしかならないと思っていた

おっちゃん視点

「つうわけでアイちゃんのほうは何も問題はないわね。良くも悪くも平常運転でさあ」


「……」


 久々の暗い会議場。さあちったあこの胡散臭くて辛気臭い雰囲気を和ませてやろうかと、おっちゃんの小粋な喋り口に対して反応が悪いことこの上ないさね。


「何かしら? 何か言いたいことがあるんなら言った方がいいわよ。ストレスたまるでしょ? そういうの」


「なぜ、蒼眼の魔女は未だ我らへの協力を拒んでいる?」


「何でと言われてもだねぇ。分っかんないわ年頃の女の子の考えてることなんざね」


「この期に及んで言い訳はあるまい。エドヴァルド・W・サイファー」


 違う声がまたこっちを追及してくる。全く、順番に話さないといけない決まりでもあるのかね。この御仁たちは。


「貴様が、蒼眼の魔女を庇っているのは、とうに見当がついている」


 ありゃ、バレてたか。何てね。


「何故、蒼眼の魔女に自らが学園に招かれたわけを言い含めない。何故、義務を果たせと追及しない。我らの言葉を届けるだけの仕事すら、何故、貴様は出来んというのだ」


 そりゃあ……あんたたちがあの子アイちゃん蒼眼の魔女ブルーアイスとしか呼ばんからさ。


 何てね。おっちゃん自身も、自分が一体何がしたいのかよく分かんないさ。だから、答えようがない。


「で、まさかとは思うけれども。おっちゃんも幻影の君の片棒を担いでるなんて妄言吐く気じゃないでしょうね」


「いいや。それはもう疑うまい。ただ……」


「ただ?」


「貴様も、あの幻影の君の手の内なのではないか。我らはそう見ている」


「……回りくどいわね。おっちゃんにどうしてほしいのか言ってみなさいな」


「貴様の周りの人間の中に幻影の君が紛れ込んでいる可能性はないか」


 何を言ってんのかしらねこの人達は。ちょいと殺気漏らしちゃったわよ。


「何か根拠でもあって言ってる? さすがにそいつは聞き逃せない侮辱でしょう」


「無いさ。だが、幻影の君相手であればさもありなん。疑わしきは晴らしていかねばその正体に辿り着けない。それは、貴様とて承知の上であろう」


「……おっちゃんの身内が疑わしいって?」


「……過去にも。幻影の君が一般の生徒、あるいは教員に紛れ込んでいたケースは報告されている。加えて、つい最近、起きている騒動。スレイ、と言ったか……身元の保証も出来ぬ奴隷を匿っていたな。しかもその者が幻影の君なのではないかという噂も一時期はあった」


「まさかとは思うけどそんなん信じてたの?」


「火の無いところに煙は立たんという話だ。その後も災厄の歌姫が幻影の君にかどわかされたという醜聞も貴様の管理下での話。そして今回、まさか貴様も蒼眼の魔女の証言をそのまま信じたわけではあるまい?」


「事前にどうにか出来なかったのかっていうお叱り? そいつぁ無理があるってもんでしょう」


「いいや。責めてなどいない。ただ、貴様の周辺はどうにもきな臭いという話だ。貴様に身内ゆえの見逃しがあったとしても、まあ、貴様を責められはすまいよ」


 にたにたと嘲笑ってる。責めはしない。ただ、しょうがないだろうと見下げている。


「そうだな。例えば、だ。リオン・アルフィレド。これは、マクシミリアン将軍の後ろ盾の元に入学を果たしたわけだが……果たして、これは本当にリオン・アルフィレドであるのか。そもそも、本物のリオン・アルフィレドは既に戦死していて、その変わり身として幻影の君が潜り込んでいたのだとしても、我々としては確かめようのないことだ」


 わざとらしく書類をめくる音がする。一人一人、品定めされているのは気分が悪い。


「とりわけ、調べが必要なのはこれだな。シオン・イディム。どこぞの片田舎から入学してきたようだが、それ以前の素性にはどうにも怪しい面が多い」


「知らないの? その子の身分は一緒に入学してきた姉が保証してくれるってばさ」


「ほう、そうなのか。だがそれがこれの潔白を証明することにはならんな。その姉、とやらも既に術中に嵌っているのやも知れん」


「ハハハ。そんなんあるわけないじゃないの。あの子はどうしたってダメ男に入れ込んだりするようなタマじゃあないわ」


「貴様の主観は尋ねていない。どうしてもその潔白を証明したいというなら示すことだな……ああ、そうだな。もう一人、さらに怪しい者がいた。幻影の君が男とも限らん。確か……ミスティ・サイファー、だったか。そこまでシオン・イディムが潔白だと言うなら、貴様が引き取り匿ったこの娘が」


 なるほど。すでにおっちゃんの目の届く範囲どころか懐に入り込んでいるから、盲点だったと。くくく、なるほど。伊達に歳喰っちゃいないわね。


 人をイラつかせるのが上手い。


 ドォオオン! 


「ひっ……」


 爆音と、恐怖と驚愕、そして動揺の呟きが聞こえる。


 今もまだ煙を漂わす銃口・・に向かって、ふっと息を吐いて消す。そしてアイテムボックスの中に仕舞って、ポッケに手を突っ込んで背中を向ける。


 一瞬照らされた様子から見て、多分、当たっちゃあいないとは思うけど。うん。十分よね。あまりエドヴァルド・W・サイファーを舐めんなっていう意思表示としては。


 いいでしょう。やってあげるわ。おっちゃんの守らなきゃいけないモノにまで難癖つけようって気ならね。


 もしも、幻影の君がミスティなら、こっちも苦労なんてしないってのにさ。


 ま、どうせ無駄にしかならんと思うけどね。



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